表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の敵  作者: 紀ノ貴 ユウア
16/60

第5章、魔法使いの過去③

 こちらではお久しぶりですね、お待たせしました。

 今回は「古の魔法書と白の魔女」はお休みです。

 ギアから大まかな説明を聞くと、アリシアーレンは(ほうき)で飛び立った。


 ギアは祈った。村の無事を(せつ)に願った。


 ―――しかし、アリシアーレンは間に合わなかった。


 アリシアーレンが到着(とうちゃく)した時、ギアの友人も、家族も…、村のほとんどの者が殺され、家屋(かおく)は破壊されてしまっていた。(かろ)うじて命だけ助かった者は、ギアとトトを除くとたったの4名だった。

 アリシアーレンという救世主の到着(とうちゃく)を知らなかったゆえに、自分たちでどうにかしようと必死に抗った結果がそれだった。


 村を(おそ)った者たちは、一人残らずアリシアーレンに捕らえられた。そして、一人残らずレフィアによって(むく)いを受けた。アリシアーレンが止めたため命までは(うば)わなかったものの、手足を切り落としたり火傷(やけど)を負わせたりして、人を殺した(ばつ)を負わせたのだ。「自分たちの村を救うために他の村を(おそ)って何が悪い」、そう悪態(あくたい)をついた襲撃者(しゅうげきしゃ)に、レフィアは、「傷付けられる痛みを思い知れ」と、嫌悪(けんお)の目で魔法を放った。ただし、ギアがそれを知ったのは、随分(ずいぶん)後になってからだった。



 ギアたち村の生き残り6名は、別の場所で生きることを決めた。しかし、亡くなった村の(とむら)いが終わるまでの間、アリシアーレンの家に滞在(たいざい)させてもらうことになった。レフィアはアリシアーレンの弟子ではなく、用事があって(たず)ねて来ただけらしい。しばらくはアリシアーレンの家にいたが、ギアに魔法の才能があることが判明(はんめい)した(ころ)、自分の家に帰って行ったようだった。



「ギア、私の弟子にならない?」

 目線を合わせるようにしゃがみ、アリシアーレンはギアの手を取る。

「あなたには魔法使いの素質がある。きっと優秀な魔法使いになるわ。」

 ギアは何も言わない。親という絶対的な信頼を寄せていた存在がいなくなり、どうすればいいのか分からないのだ。

「あなたにはまだ保護者(おや)が必要よ。それに、魔法の先生も。私はその両方になることができるのだけど、私が親代わりや先生では嫌かしら?」

 ギアは首を激しく横に振った。嫌なんて気持ちは全くなく、むしろ(うれ)しいくらいだった。

 ただ、それをどう伝えれば良いのかギアは分からず、まごついてしまう。


 そんな子供らしい躊躇(ちゅうちょ)を見抜いたのは、トトだった。

「ギア、お前は魔法を学ぶべきだよ。」

 背後から聞こえてきた声に、ギアは驚き振り向く。

 そこには、あちこちに包帯を巻いた痛々しい青年の姿が。

「それも、アリシア様のような強い魔女の元で学ぶべきだ。強い魔法使いになって、誰かを助けられる人になるんだ。そうすれば、」

 トトは静かに告げる。

「…俺のように、力がないことを(なげ)くことはないよ。」

 その(ゆが)んだ表情を見て、ギアは罪悪感を覚えた。この数日、ギアはトトと顔を合わせる度、自分だけを連れて逃げたトトを責めるように(にら)んでいたのだ。

「…トト兄。」

「アリシア様、ギアを、よろしくお願いします…。」

 トトは頭を下げると、よろよろと家の外に出た。

 きっとまた泣きに行ったのだろう。先日の夜、一人外へと出たトトを追いかけた時に見た光景を思い出し、ギアはトトへの態度を反省した。

「…アリシア様、おれ、おれ…。」

「分かっているわ。」

 アリシアーレンはギアを抱きしめる。

「ご両親を亡くしたショックが大きいのね、だからすぐには心の整理がつかない。でも、悲しいのはあの子も同じよ。いつかあの子の言葉が分かる時が来るまで、それを覚えていてあげて…。」

 ギアは何とも言い(がた)い感情で言葉が()まり、アリシアーレンを抱きしめる。

「私は死なない。だから、いつか巣立つその時まで、あなたの(そば)に居ると約束するわ。」

「はい、アリシア様…。」

 アリシアーレンはギアの頭を()で、微笑んだ。

「弟子たちは皆、私をアリシアと呼ぶわ。あなたも今日から私の弟子なのだから、“様”はいらないわよ、ギア。」


「―――はい。アリシア。」




「…ア、ギア!」

 イーラの声に、はっと現実に引き戻されるギア。

「あの人、あたしを助けてくれた人よ。お礼を言わなくちゃ!」

 イーラが手で指し示した方向には、一人の老婆(ろうば)が。確か、病院で足の治療(ちりょう)を受けていた人だ。

「まあ、フィーニ。」

 アリシアーレンが先に声を掛ける。

「先日はありがとうございました、魔女様。」

 フィーニは頭を下げると、イーラを見てニカッと笑った。

大活躍(だいかつやく)だったね、リスさん。」

「イーラよ。さっきはありがとう! ギア、このおばあちゃんが、投げ飛ばされたあたしを受け止めてくれたのよ!風の魔法で送り出してくれたし、すごかったわ!」

 ギアの両手の上で飛び跳ね、興奮(こうふん)気味のイーラ。

「いいや、大したことはしてないよ。」

「何を言ってるんですか、前神殿長の魔法使いさん。すごいじゃないですか。」

 突如(とつじょ)、二人の花火職人が話に入って来た。

「アインさん、ディーン君も。」

儀式(ぎしき)後に花火を打ち上げる予定だったんですけど、どうやら事件があったようなので。」

「待つように指示を出されました。それにしても、(おろ)かな犯人たちでしたね。ここには最強の魔女も魔法使いも集まってきているというのに。」

 あまりアリシアーレンは言わないが、魔女の中でも特に優秀な部類に入る。その弟子であるギアももちろん優秀で、現神殿長のウィスカル、そして元神殿長のフィーニも街では名の知れた魔法使いである。

 チャドはなかなか強い魔女のようだったが、この面子(メンバー)に勝てる見込みは全くなかった。

「ふふふ。」

 アリシアーレンは(ふく)み笑いを浮かべる。

「でも、ルウシャに目を付けたことを考えると、(おろ)かと言えないかもしれないわね。」

 そう、ルウシャは力が弱く、あまり魔女としての力を期待できないはずだ。それなのになぜ、この街に来たのか。それは、ルウシャの(たぐい)まれなる力を知っていたからだろう。

「ルウシャ様は、治癒(ちゆ)系の魔法が得意でいらっしゃる。それを利用しようと考えたんでしょう。」

 フィーニが心配そうにルウシャのいる方向を見た。ルウシャはちょうど、チャドの手を引いて神殿の(おく)へ移動するところだった。神殿長がこちらに気付いて一礼し、その後に続いた。


「だとしても、アリシア様の存在を(あなど)っていたのでしょうから、やはり彼らは(おろ)かだったんですよ。」

 またもや第三者の声。ギアは顔を見る前にそれが誰か分かった。

「…トト兄。」

「こんにちは。」

 穏やかな雰囲気(ふんいき)は相変わらずだ。


「あれ、お義兄(にい)さん。」

 アインが少し驚いた声を出す。

「どうしたんです?」

「奥さんに言われたんだ。アリシア様とギアに挨拶(あいさつ)に行けって。」

「なるほど。」

「あ、アインさんのお姉さんとご結婚されたっていう…。」

 ディーンが言葉を(はさ)む。

「トトだよ。飲食店(レストラン)を経営しているよ、よろしくね。 あ、妻が娘たちと一緒に花火楽しみにしてるから頑張れだって。」

「仕事終わったら(めい)っ子に会いたいから待ってて、って伝えてもらえます?」

「もちろんだよ。」


 そしてトトはギアに向き直る。

「久しぶり。元気だった?」

「うん。トト兄は?」

「店が(いそが)しくてくたくた。でも楽しくて幸せだ。」

 トトは微笑(ほほえ)んだ。

「お前はやっぱり人を助けられる男だね。魔女様を助けてくれてありがとう。」

 そう告げると、アリシアーレンたちに一礼して去ろうとした。そこにギアが(あわ)てて声を掛ける。

「でも、トト兄が俺を助けてくれたから今があるんだ。…ありがとう。」

 トトはそれを聞くとポカンとしていたが、やがて笑顔を見せた。

「後で俺の店に食べに来てくれよ!」

「もちろん!」

 二人のわだかまりは10年の時を超え、今、消えた。


「さーて、そろそろ僕らも戻ろうかな。失礼します、皆さま。」

「花火、楽しみにしているよ。」

「はい!」

 アインとディーンは去っていった。

「どれ、あたしはひ孫を見に行くか。」

「ひ孫さんがいらしてたんですか?」

「ああ。さっきの儀式(ぎしき)で一人大きいのがいただろう、あれがそうだよ。」

「まあ、そうだったのね。お疲れ様、フィーニ。」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました。」

 そうしてフィーニも去った。


「さて、私たちも部屋に戻って着替えましょう。」

「はい。」

「早くしないと花火が始まっちゃうわ!」


 イーラの言葉通り、すぐに花火が上がり始めた。


「わ~~~!!」

 廊下(ろうか)の窓から見る鮮やかな華々に、イーラは感動の声を上げる。

「今年も綺麗(きれい)ね。」

 空を見上げて笑うアリシアーレンの横顔を見つめ、ギアは答える。

「…ええ、綺麗(きれい)です。」



 ギアは大人になった。

 トトの残酷(ざんこく)な決断とその判断の正しさを理解できるほど、その後の葛藤(かっとう)まで察することができるほどに…。

 アリシアーレンというかつて母のようにも思っていた女性に対する恋心を自覚するほど、難しい恋と知りながら()かれずにはいられない悲痛さを経験するほどに…。

〈どうでもいい裏設定〉

・トトの初恋の相手はレフィア。しかし、告白する間もなくレフィアは自分の家に帰ってしまい、それきり会っていない。

・トトには現在二人の娘がいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ