第5章、魔法使いの過去②
今回も「古の魔法書と白ノ魔女」はお休みです。
「伏せていなさい!」
ミシミシという奇妙な音。何が起こっているのだろうか。
「〈水よ〉!!」
ギアが顔を上げると同時に大雨が降って来た。身体に当たると痛いほどの大量の水。
辺りは水浸し、ギアもびっしょり濡れてしまった。
「大丈夫?!」
ギアが声のする方を見上げると、女性が“大きな穴”の底を覗いていた。
女性は手を差し伸べる。
「さあ、上がってらっしゃい!」
ギアの足元がぼこぼこと盛り上がっていく。ギアは驚きながらも、バランスを取るので必死だ。
「大丈夫?怖かったわね…。」
目元をフードで隠した女性はギアを抱き寄せ、頭をなでる。ギアがされるがままでいるのは、たった今這い出た木を見てあまりの変わりように愕然としていたからだ。
大木が、根本から折れて倒れている。いや、ただ折れているのではない。とてもきれいな断面をしているということは、何か鋭利なもので一気に切り倒したのだ。
しかし、ギアのまだ小さな頭では、詳細に状況を分析することはできなかった。
「くっそ、離せ!!」
わめく大声によって、ギアは唐突に現実に引き戻された。
声のした方向を見ると、トトより少し若そうな少年が暴れていた。しかし、その胴は何か紐状のものでしっかりと木に括り付けられている。
その傍には、白いマントを羽織った人物が。女性のようだが、それ以外の情報が全く読み取れない。フードを深く被っているからだ。
「この…っ、忌々しい魔女め…!!」
憎々し気に言葉を吐いた直後、白マントに頭を殴られ気絶する少年。軽く叩かれたように見えたが、頭からは血が流れている。
「レフィア!!」
女性は白マントに向かって怒鳴った。
「子供を殺すつもりだった。なら、自分もそれ相応の傷を負う覚悟があったはずです。」
淡々とした口調の、若い少女の声。
「恐ろしい目に遭ったばかりの子供の前ですることではないわ。」
「…配慮に欠けました。ごめんなさい。」
レフィアという名らしい少女は、ギアへと歩み寄った。そしてギアの目の前に来ると、フードを脱ぎ、黄金に輝く髪をさらした。少女は、ギアを見つめて口を開く。
「何があった、人間の子。」
ギアは驚きのあまり固まった。少女の目は人間のものではないと気付いたからだ。緑色の目の中心に、黄色い星模様が浮かんでいるのが見える。
「あ…、あ…。」
「どうしてあの子に追われていたの?あなたは一人でここに?」
優しい女性の問いかけに、ギアははっと気付いた。
「トト兄が…!!」
「うああああああああっ!!!!」
ギアは叫ぶ。喉が張り裂けんばかりに力の限り。
目の前には血塗れで倒れているトト。
昼間の出来事もあって、ギアの心は限界だった。
「殺してやる…、殺してやる…っ!!」
傍に落ちていたナイフを拾うと、レフィアによって拘束された男二人に向かって駆けて行く。
「おやめなさい。」
女性がギアの行く手を阻んだ。その声は凍てつくように冷たい声音で、先ほどの様子と打って変わった女性の態度にギアはたじろいだ。
「…そこの子はまだ生きているわ。辛うじて息をしている。―――レフィア。」
「はい。」
「あれを見張りながら、この子の治療を。」
「かしこまりました。」
レフィアはトトの傍らで、何かを唱え始めた。光の輪が浮かび上がり、幾重にもトトの身体を包む。
女性はかがみこみ、ギアに尋ねる。
「あなたはどこから来たの?もし、他にもあの子のように怪我をしているなら、手を貸すわ。」
「おれの村が、襲われて…。でも、何にもできなかった…。」
女性はフードを脱いだ。女性の顔立ちの美しさもさながら、その特徴的な瞳にギアは釘付けになる。
「大丈夫、私たちが何とかするわ。私たちは魔女、人間よりずっと多くのことができるから。」
女性は立ち上がる。黒い髪がふわふわと風で揺れる。
「さあ、あなたの村はどこ?」




