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NULL WORLD ―世界の外側―  作者: 雛
境界 ―失われた記憶―
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9/16

6、七人の異能者

 静寂。


 ZEROの映像が消えたあとも、誰も言葉を発しなかった。


 レンは自分の右手を見つめていた。


 五年前。


 自分がEdenを作った。


 世界を反転させた。


 そして、自分自身から記憶と能力を切り離した。


 その結果生まれた存在が――ZERO。


「……だったら」


 レンが顔を上げる。


「ZEROを倒せば、全部元に戻るのか?」


「そんな簡単じゃない」


 ユナが答えた。


「ZEROはもう、Edenの中枢と融合してる」


「融合……?」


「つまり、ZEROを倒すことは――」


 ユナは一瞬ためらった。


「Edenそのものを壊すことになる」


「……」


 レンは黙り込んだ。


 Edenには、何億人もの人間が接続している。


 もし世界を壊せば、その人たちはどうなる?


「じゃあ、どうすればいい?」


「そのために――」


 ミサキが口を開いた。


「七人を集める」


 レンが振り向く。


「七人?」


「五年前、NULL PROJECTに関わっていた異能者」


 ミサキは壁に設置された端末を操作する。


 画面に七つのシルエットが表示された。


「私」


 一人目。


 **天城ミサキ――《複製》**


「カイ」


 二人目。


 **神崎カイ――《加速》**


「そして、レン」


 三人目。


 **黒瀬レン――《反転》**


「残りの四人は?」


 ユナが答えた。


「散らばってる」


「どこに?」


「Edenの各エリア」


 画面に巨大な地図が表示された。


 中央都市。


 砂漠。


 海底都市。


 空中都市。


 そして――


 地図の最上部にある、巨大な黒い領域。


 **《ZERO ZONE》**


「この四人を探して、七人全員が揃えば……」


 ユナが言う。


「ZEROと戦える」


「なら、行こう」


 レンは立ち上がった。


 しかし。


 ミサキが首を振る。


「その前に一つ問題がある」


「何?」


「七人の異能者は――」


 ミサキが画面を切り替える。


 七人の名前の横に、赤い文字が表示された。


 **《指名手配》**


「全員、ADMINに追われてる」


 レンは苦笑した。


「……簡単には会わせてもらえないってことか」


「うん」


 ユナが出口を指差す。


「だから――」


 外から轟音。


 建物が揺れる。


「まずはここを生きて出る」


 レンたちが顔を見合わせる。


 次の瞬間。


 壁が吹き飛んだ。


「来た!」


 無数のADMINが突入してくる。


 しかし。


 その先頭には、見覚えのある男がいた。


「……カイ」


 カイが立っていた。


 青白い光をまといながら。


「逃げろ、レン」


「え?」


「俺がこいつらを止める」


 レンは首を振る。


「一緒に来いよ」


「無理だ」


「なんで?」


 カイは笑う。


「俺はADMIN側だからな」


「……!」


「正確には、今はな」


 カイが拳を握る。


「でも――」


 青い光が爆発する。


「お前たちが逃げる時間くらいは作れる」


 カイが走った。


 速い。


 レンの視界から消える。


 次の瞬間。


 ADMIN十体が一斉に吹き飛んだ。


「すげえ……」


 ミサキが呟く。


「彼は《加速》の使い方を極めてる」


「それだけじゃない」


 ユナが言う。


「カイは自分の時間感覚を操作できる」


「時間感覚?」


「本人だけが、周囲より何倍も速く動いているように感じられる」


 レンはカイを見る。


 無数の敵を相手に、一人で戦っている。


 拳。


 蹴り。


 回避。


 反撃。


 その動きは、もはや人間のものではなかった。


 だが。


 ADMINの数は減らない。


「行こう」


 ユナが言う。


「でも……」


「レン」


 カイが叫んだ。


「早く行け!」


 レンは歯を食いしばる。


「……絶対、また会うからな!」


 カイは笑った。


「ああ」


 レンたちは走り出した。


 その背後で。


 カイが拳を振り抜く。


 ――轟音。


 地下施設の入口が崩れ落ちる。


 レンたちは暗い地下道へ入った。


 ***


 三十分後。


 三人はEden中央都市の地下にある廃駅へ到着した。


「ここならしばらくは安全」


 ユナが言った。


 レンは壁にもたれた。


「七人のうち、あと四人……」


 ミサキが端末を操作する。


「一人目の位置が分かった」


「誰?」


 画面に名前が表示された。


 **《白石アオイ》**


 異能――


 **《幻視》**


「幻を見る能力?」


「違う」


 ミサキが答える。


「相手が『現実だと思っているもの』を変える能力」


 レンは眉をひそめた。


「……かなり危険じゃないか?」


「うん」


 ミサキは頷く。


「そして彼女は――」


 地図を拡大する。


 目的地は、巨大な森。


 **《幻想領域・ミラージュ》**


「そこで、五年間ずっと誰とも接触せずに暮らしてる」


「じゃあ会いに行こう」


「待って」


 ユナがレンを見る。


「ミラージュには一つルールがある」


「何?」


「**入った人間は、自分が仮想世界にいることを忘れる**」


 レンは固まった。


「……それって」


「うん」


 ユナが頷く。


「私たちも、戻ってこられなくなる可能性がある」


 沈黙。


 レンはしばらく考えた。


 そして。


「それでも行く」


「レン……」


「仲間を集めるんだろ?」


 レンは立ち上がる。


「だったら、行くしかない」


 ミサキが笑った。


「そう言うと思った」


 ユナも頷く。


「じゃあ、出発しよう」


 ***


 数時間後。


 三人は《幻想領域・ミラージュ》へ到着した。


 巨大な森。


 木々の間から、青い光が漏れている。


 静かだった。


 あまりにも静かだった。


「……誰もいない?」


 レンが歩く。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 その瞬間。


 世界が変わった。


「……え?」


 森が消えた。


 レンの目の前に――


 自分の家があった。


「……俺の家?」


 窓。


 机。


 ベッド。


 すべて現実と同じ。


「レン!」


 遠くから声が聞こえる。


「学校、遅れるよ!」


 母親の声。


 レンは息を呑む。


 玄関へ向かう。


 ドアを開ける。


 そこには。


 五年前の記憶には存在しないはずの――


 **普通の日常**があった。


「……」


 レンは動けない。


 学校へ行く。


 友達と話す。


 授業を受ける。


 放課後、家に帰る。


 何も起こらない。


 異能も。


 ADMINも。


 ZEROも。


 全部、夢だった。


 そんな気がしてくる。


「……これが、現実?」


 レンが呟く。


 すると。


 背後から声がした。


「そうだよ」


 振り返る。


 そこにいたのは――


 ユナだった。


 いつもの黒いコートではない。


 普通の制服。


 そして、笑顔。


「帰ろう?」


 レンは黙った。


「……ユナ」


「なに?」


「お前、本当にユナか?」


 少女は笑う。


「何言ってるの?」


 一歩近づく。


「全部夢だったんだよ」


「……」


「Edenなんて存在しない」


「……」


「異能もない」


「……」


「あなたは普通の高校生」


 レンの心が揺れる。


 普通。


 その言葉が。


 ずっと欲しかった。


 戦う必要もない。


 世界を救う必要もない。


 誰かを傷つける必要もない。


 ただ普通に生きる。


 それでいい。


 そう思った。


 その瞬間。


 右手が痛んだ。


「……っ」


 黒い光。


 レンは自分の手を見る。


 そして気づいた。


 **この世界には、影がない。**


 家にも。


 人にも。


 木にも。


 何一つ。


「……そういうことか」


 レンが笑う。


「残念だけど」


 右手を握る。


「俺はもう、騙されない」


 世界に亀裂が走った。


 目の前のユナが崩れていく。


 その向こうから。


 一人の少女が現れた。


 短い青髪。


 白いパーカー。


 そして、金色の瞳。


「……どうして?」


 少女が呟く。


「どうして幻を見破れたの?」


 レンは答えた。


「本物のユナには――」


 右手を構える。


「**影があるから**」


 少女は目を見開く。


 そして。


 初めて笑った。


「面白い」


 彼女が指を鳴らす。


 森全体が崩壊する。


「私は白石アオイ」


 空間が歪む。


「異能《幻視》」


 そして。


「あなたたちを――」


 無数の「レン」が現れる。


「**現実ごと騙してあげる**」


 レンたちは一斉に構えた。


 七人の異能者を巡る戦い。


 その最初の戦いが――


 今、始まった。


**――第六章・終**


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