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NULL WORLD ―世界の外側―  作者: 雛
REAL ―二つの世界―
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閑話Ⅵ 零番目

世界には、始まりがある。


誰かが最初に声を上げる。


誰かが最初に目を開ける。


誰かが最初に、この世界を「世界」と呼ぶ。


――けれど。


始まりより前には、何があるのだろう。


*


暗闇の中で、ZEROは目を開けた。


そこには何もなかった。


床もない。


空もない。


壁もない。


ただ、無数の光だけが浮かんでいる。


人間の記憶。


世界のデータ。


能力の情報。


過去に起きた出来事。


これから起きるかもしれない可能性。


それらすべてが、細い線となって暗闇の中を走っていた。


ZEROは、その線に手を伸ばす。


一本。


二本。


三本。


指先に触れた瞬間、知らない誰かの記憶が流れ込んできた。


笑い声。


泣き声。


誰かを呼ぶ声。


そして――


レン。


ZEROは手を離した。


「……また、君か」


当然だった。


この世界に存在するほとんどすべての記憶の中に、彼はいる。


創造した。


壊した。


失った。


忘れた。


そして、もう一度ここへ戻ってきた。


「レン」


ZEROは暗闇に向かって呟いた。


「君は、まだ何も知らない」


*


目の前に一枚の画面が浮かび上がる。


そこには、七つの光が並んでいた。


赤。


青。


白。


緑。


金。


紫。


そして、透明。


それぞれが違う色をしている。


違う力を持っている。


違う人間の記憶とつながっている。


ZEROは、それらを眺めながら呟いた。


「七人」


しかし、その隣にはもう一つ。


誰にも認識されない、黒い点があった。


ZEROはそれを見る。


「……そして、零番目」


黒い点は何も答えない。


それはZERO自身だった。


七つの光が世界を動かすためのものなら。


零番目は、その七つをつなぐために存在する。


《接続》。


人間と人間。


記憶と記憶。


能力と能力。


世界と世界。


本来なら交わることのないものを、一つにつなぐ力。


それがZEROの能力だった。


だが。


「接続するだけじゃない」


ZEROは、自分の胸に手を当てた。


「……切ることもできる」


*


五年前。


世界が壊れた日。


ZEROは、すべてを見ていた。


レンが苦しんでいたことも。


Yunaが泣いていたことも。


世界の外側から、何かが入り込もうとしていたことも。


そして。


レンが、自分自身を切り離したことも。


「君は、自分を捨てた」


ZEROは静かに言った。


「だから僕が残った」


レンが捨てた記憶。


恐怖。


怒り。


後悔。


罪悪感。


そして――


「世界を壊したくなかった、という願い」


それらが混ざり合って、ZEROになった。


だからZEROには分からない。


自分がレンなのか。


レンの一部なのか。


それとも、まったく別の存在なのか。


ただ一つだけ分かっている。


自分が消えれば。


この世界のどこかも、一緒に消える。


だから。


「僕は、僕を消せない」


*


遠くで音がした。


世界が揺れている。


レンが動いている。


七つの光の一つが、強く輝いた。


続いて、二つ。


三つ。


まだ揃ってはいない。


けれど。


近づいている。


ZEROは目を閉じる。


すると、頭の中に一つの光景が浮かんだ。


七人が円を作っている。


中央に立つレン。


その隣にYuna。


そして六人。


七つの能力が一本の線につながっていく。


《SEVEN LINK》


世界の中心に、それが現れる。


ZEROは、その光景を見ながら小さく笑った。


「……やっぱり、ここまで来るんだ」


だが。


その先が見えない。


七つの光のさらに向こう。


世界の外側。


そこだけが、何度見ても黒く塗り潰されている。


ZEROは手を伸ばした。


触れようとした瞬間――


画面が赤く染まった。


《ACCESS DENIED》


ZEROの手が止まる。


「……まだ、入れないか」


その瞬間。


黒い画面の奥から、声がした。


『お前は、何を守っている?』


ZEROは答えなかった。


『世界か?』


沈黙。


『それとも――レンか?』


ZEROはゆっくり顔を上げた。


「どちらもだよ」


『矛盾している』


「そうかもしれない」


『世界を守るためには、レンを捨てる必要がある』


ZEROの瞳が揺れた。


「……それは違う」


『では、レンを守るためには世界を捨てる必要がある』


ZEROは拳を握る。


「それも違う」


『ならば、どうする?』


長い沈黙。


そしてZEROは言った。


「――全部、残す」


声は消えた。


黒い画面も消えた。


暗闇だけが戻ってくる。


ZEROは一人、立っていた。


*


少し離れた場所に、一つの扉があった。


白い扉。


そこには文字が刻まれている。


《CREATOR》


ZEROは、その扉を見つめる。


「創造主……」


その言葉を口にした瞬間。


別の場所に、もう一つ扉が現れた。


黒い扉。


《NULL》


ZEROはそちらを見る。


「……僕は、どちらなんだろうね」


答えはない。


だから、ZEROは歩き出す。


黒い扉へ。


白い扉へ。


どちらにも入らない。


その間を通り過ぎる。


そして、そのさらに奥。


誰も知らない場所にある、小さな部屋へ向かう。


そこには七つの椅子が置かれていた。


一つ目。


二つ目。


三つ目。


四つ目。


五つ目。


六つ目。


七つ目。


そして――


椅子の後ろに、もう一つだけ。


誰も座ることのできない椅子があった。


ZEROはそこに触れる。


「零番目は、座らない」


椅子は静かに光った。


「零番目は、つなぐ」


七つの椅子へ。


世界へ。


記憶へ。


そして――


レンへ。


「だから」


ZEROは振り返った。


「君が選ぶまで、僕は消えない」


*


遠くで、世界が大きく揺れた。


レンの記憶が戻っている。


もうすぐだ。


もうすぐ、五年前に止まった時間が動き出す。


ZEROは最後に一つだけ、画面を開いた。


そこに表示されたのは――


《SEVEN LINK:READY》


その下に、小さな文字。


《MEMORY:100%》


そしてさらに下。


誰にも見えない場所に。


《FIRST CREATOR:UNKNOWN》


ZEROは、その文字をしばらく見つめた。


「……まだ、そこにいるんだね」


初めて。


ZEROの表情から笑みが消えた。


「でも、今度は違う」


彼は暗闇の向こうを見る。


「レンは、自分で選ぶ」


七つの光が輝き始める。


世界が、再び動き出す。


ZEROは静かに目を閉じた。


そして最後に、誰にも届かない声で呟いた。


「――今度こそ、全部を返すよ」


暗闇の中。


七つの光の中央で。


零番目の光だけが、静かに瞬いていた。


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