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NULL WORLD ―世界の外側―  作者: 雛
REAL ―二つの世界―
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14/16

9、零番目の能力者

 世界の境界線が開いた。


 その瞬間。


 Eden全体が、悲鳴を上げた。


 建物が揺れる。


 空が割れる。


 地面を走っていた光の線が、次々と消えていく。


《BOUNDARY ERROR》


《SYSTEM FAILURE》


《CORE CONNECTION:UNSTABLE》


「まずい……!」


 アオイが端末を操作する。


「境界が開きすぎてる!」


「閉じられないのか?」


「無理!」


 アオイが首を振った。


「私の《幻視》じゃ、世界そのものを隠すことはできない!」


 レンは、目の前に浮かぶ三人の影を見る。


 能力者04。


 能力者05。


 能力者06。


 五年前、自分たちを裏切った三人。


「……お前たちは、何が目的なんだ」


 三人のうち、白い仮面の少年が答える。


『目的?』


 笑い声。


『簡単だよ』


『この世界を、本物にする』


「……本物?」


『そう』


 少年が手を広げる。


『今の世界は偽物だ』


『現実も』


『Edenも』


『全部、誰かが作ったものだ』


 レンは拳を握る。


「だったら何だ」


『だから、僕たちが作り直す』


 その瞬間。


 三人の姿が消えた。


「……!」


 次の瞬間、施設の奥から衝撃が走った。


 レンたちは一斉に身構える。


 しかし。


 攻撃してきたのは三人ではなかった。


 黒い空間。


 そこから現れたのは――。


「ZERO……!」


 黒い服。


 赤い瞳。


 レンと同じ顔。


 ZEROはゆっくり歩いてくる。


「ようやく会えたね」


 レンは構える。


「お前は何なんだ」


「前にも言っただろ」


 ZEROは笑う。


「僕は、もう一人の君」


「違う」


 レンは首を振った。


「お前は俺の記憶じゃない」


 ZEROの足が止まった。


「……どうしてそう思う?」


「七人目が言った」


 レンはZEROを睨む。


「お前は、五年前の俺の記憶から生まれた存在じゃない」


「……」


「もっと前から存在してたんだろ」


 ZEROの表情から笑みが消えた。


「……正解」


 ユナが息を呑む。


「じゃあ……ZEROって何?」


 ZEROは自分の胸に手を当てた。


「僕は――」


 一拍。


「零番目の能力者」


 空気が止まった。


「零番目……?」


 ミサキが呟く。


 ZEROは続ける。


「七人の能力者が選ばれる前」


「能力そのものを作るために、最初に存在した実験体」


 レンの右目が光る。


 知らない記憶が流れ込む。


 白い部屋。


 幼いレン。


 そして――。


 もう一人の少年。


 二人は向かい合っていた。


『名前は?』


 幼いレンが尋ねる。


『ない』


 少年が答える。


『じゃあ、僕がつける』


 幼いレンは少し考えて。


『ZERO』


 そう言った。


 レンは息を呑んだ。


「……俺が、名前をつけた?」


「そう」


 ZEROは頷く。


「僕たちは最初から一人じゃなかった」


「君には《創造》の力があった」


「そして僕には――」


 ZEROの周囲の空間が黒く染まる。


「《接続》があった」


「接続?」


「人間の記憶」


「能力」


「世界のデータ」


「それらを全部繋げる能力」


 レンは気づいた。


「Eden Core……」


「そう」


 ZEROが笑う。


「僕が世界と君を繋いだ」


「そして君が、世界を作った」


 レンの頭の中で、何かが繋がった。


 Edenを作ったのはレン。


 しかし。


 そのための基盤を作ったのはZERO。


 だからEden Coreには、二人のデータが混ざっていた。


「じゃあ……」


 レンが呟く。


「俺が世界を反転させた時、お前も巻き込まれた」


「違う」


 ZEROは首を横に振る。


「僕は巻き込まれたんじゃない」


「自分から残った」


「……?」


「君が世界を反転させると知っていたから」


 ZEROの赤い瞳が輝く。


「君が作った世界の中心に、僕自身を置いた」


「そして――」


 ZEROが胸元を指差す。


「Eden Coreそのものになった」


 レンの顔が青ざめる。


「だからお前は……」


「そう」


「Edenが存在する限り、僕も存在する」


 その瞬間。


 カイが前に出た。


「なら、Eden Coreを壊せばいい」


 ZEROがカイを見る。


「やってみれば?」


「……!」


「Coreを壊したら、Edenだけじゃない」


 ZEROが指を鳴らす。


 無数の世界が空間に浮かび上がった。


「ここに接続されている全世界が消える」


「……!」


 カイの動きが止まる。


「つまり」


 ZEROは静かに言う。


「僕を倒す方法は存在しない」


 その時。


「あるよ」


 レンが言った。


 ZEROが振り向く。


「……何?」


「一つだけ」


 レンは右手を握る。


「俺の《反転》」


 ZEROの表情が変わった。


「……」


「Eden Coreを壊すんじゃない」


「お前とCoreの接続を――」


 レンの右目が赤く輝く。


「反転する」


 空間が震えた。


「それなら」


 レンはZEROを見る。


「お前だけを切り離せる」


 ZEROは黙っていた。


 やがて。


「……やっぱり」


 笑った。


「君は覚えてきたね」


「何を?」


「五年前、僕たちが最後に使った能力」


 ZEROの背後に巨大な円形の装置が現れる。


 その中央に、七つの光が浮かび上がった。


「《SEVEN LINK》」


 七つの光が、それぞれ別の色に変わる。


「七人の能力を一つに繋げるシステム」


 レンは目を見開く。


「これがあれば……」


「僕を切り離せる」


 ZEROが言った。


「でも、一つ条件がある」


「何だ?」


「七人全員が、自分の記憶を取り戻すこと」


 ミサキが呟く。


「……だから五年前の記憶が必要なの」


「そう」


 ZEROは頷く。


「能力は、記憶と結びついている」


「記憶を失った能力者は、本来の力を使えない」


 アオイが驚く。


「だから私たちは……」


「そう」


 ZEROが答える。


「五年前に記憶を失った七人は、完全な能力者ではなくなった」


 レンは拳を握った。


「じゃあ、俺たちが記憶を取り戻せば……」


「世界の外側に出られる」


 ZEROが言う。


「そして僕を切り離せる」


 レンは一歩前に出る。


「だったら――」


 その瞬間。


 背後から声がした。


「その必要はない」


 全員が振り返る。


 そこに立っていたのは――。


 白い仮面の少年。


 能力者04。


「僕たちはもう、七人目を見つけた」


 少年が仮面を外す。


 その顔を見た瞬間。


 レンの記憶が、また大きく揺れた。


「……お前……」


 知っている。


 五年前。


 何度も一緒にいた。


 何度も話した。


 そして――。


 最後に裏切った。


「……なんで」


 レンの声が震える。


「お前が……」


 少年は笑う。


「思い出した?」


 レンの右目に表示が出る。


《MEMORY RESTORATION》


《52%》


 少年の名前が、頭の中に浮かび上がった。


「……白石……」


 違う。


 アオイではない。


 別の名前。


 五年前、七人の中心にいた人物。


「……神崎……?」


 カイが振り返る。


「……え?」


 少年は笑った。


「そう」


 レンを見る。


「僕は――」


 少年の姿が一瞬だけ変わる。


 銀色の髪。


 同じ瞳。


 そして。


 今より幼い顔。


「五年前の、神崎カイだ」


 カイ本人の顔から、血の気が引いた。


「……俺?」


「正確には」


 少年が笑う。


「君が忘れた、もう一人のカイ」


 カイが一歩下がる。


「そんな……」


 ZEROが静かに呟いた。


「零番目の能力者は、一人じゃない」


 レンが振り返る。


「……何?」


「僕だけじゃない」


 ZEROの目が赤く光る。


「零番目は――」


 世界中のモニターが一斉に点灯する。


 そこに映ったのは。


 レン。


 ユナ。


 カイ。


 ミサキ。


 アオイ。


 そして、まだ知らない二人。


 その全員のデータの下に、同じ文字が表示された。


《ORIGINAL》


 その下。


《COPY》


 さらに――。


《ZERO》


 レンの呼吸が止まった。


「……じゃあ」


 世界の外側から、無数の声が響く。


『本物は、誰?』


『コピーは、誰?』


『零番目は、誰?』


 レンの右目が激しく点滅する。


《MEMORY RESTORATION》


《ERROR》


《ERROR》


《100%》


 ――記憶が、完全に戻った。


 レンはその場に立ち尽くす。


 そして。


 五年前の最後の光景を思い出した。


 Eden Coreの前で。


 自分自身が言っていた。


『世界を反転させる』


『でも――』


 その隣にいたZEROが答える。


『違うよ、レン』


『反転させるんじゃない』


『僕たちは――』


 そこで記憶が終わる。


 レンが顔を上げた。


「……違う」


 ZEROを見る。


「俺は、世界を反転させたんじゃない」


 ZEROの笑顔が消える。


「俺が反転させたのは――」


 レンの右目が、真っ赤に輝いた。


「俺たち自身だ」


 世界が、再び揺れ始めた。


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