第9話 放棄された街・リオモア
クリーケンとの戦いから数日。ガレットらは穏やかな船旅を続けていた。
そして目的地が近づくと、一人の船員が話しかけてくる。
スベルと名乗るその船員は、おもむろに宝の地図を取り出して……?
海の魔物・クリーケンの襲撃から二日。その後は特に何事もなく、平和な日が続いた。
ガレットは土壇場で発動させた魔法の感覚を忘れないようほどほどに特訓を重ね、フィーリアは懲りずに浴場へ通う。つかの間の船旅を、それぞれ自由に過ごしていた。
「――だいぶ様になったかな」
倉庫で一人ガレットは呟く。あれほど上手くいかなかった魔法が土壇場で成功した理由を、彼はずっと考えていた。
「俺にとって魔法は、守るための力なんだ」
(――守りたい……守らなきゃ!!)
あの時、ガレットは心の中でそう叫んでいた。もう誰も失いたくない。その想いが、再びガレットに魔法の力を呼び覚ましたのだ。
(思えば、孤児院にいた時からそうだったのかもな。みんなの生活を守るために頑張ってたからな)
「なんか小っ恥ずかしいけど……悪くないもんだな」
その時、キィと音を立てて倉庫の扉が開いた。
「おつかれ、ガレット。そろそろ港に着くみたいだよ?」
ひょこっと顔を覗かせたのはフィーリア。
「もう到着か……たった数日だったけど長く感じたな」
「そう?僕はあと十年くらいは乗っていたいよ。この船魔法屋さんはあるし、お風呂も凄くいいし……名残惜しいなあ」
「おいおい、十年もいたら次の街に行く頃にはいいおっさんになっちまうぜ。旅を続ければまた機会はあるだろ?続きはその時に取っておこうぜ」
「……それもそっか。ガレットがおじさんになる前に沢山色んなところに行かないとね!」
「そういうこった」
◆
「あ、そういえばさっき船員さんが来て、降りる前に声をかけてくれって言ってたよ」
下船の支度をするため、部屋に向かって歩いていると、思い出したかのようにフィーリアが口を開く。
「んん?あのいつも走り回ってる人か?なんか用でもあったのかな?」
「さあ?すぐにぱたぱた走ってっちゃったから、そこまでは聞けてないなあ」
「ここの船員はみんな大変そうだなあ……おかげでみんな快適な船旅を送れてるわけだし、ついでにお礼のひとつも言わないとバチが当たるな」
「ほんとだね!ちゃんとお礼言わなきゃね!」
そんな話をしながら二人は部屋に戻り支度を進めたのだが、変わらずフィーリアの荷物量は凄まじく、まだまだ時間がかかるのは見て取れる。
「……これ、あとどれくらいかかるの?」
「ん?もう終わるよ?」
キョトンとした顔で返す。
「いやいや……三時間はかかる量だぞ……」
「ふふふ……ところがどっこい。こちらをご覧あれ!」
何を思ったか彼女は立ち上がり杖を構えた。
「バッ、バカ!!いくらなんでもまとめて吹き飛ばすなんてやめろ!!」
「おバカだなあ。そんなわけないでしょ!――異次元に荷物をしまう魔法!」
その魔法は、部屋中に散らかったフィーリアの荷物を次々と吸い込む。見事に一瞬で綺麗さっぱりに片付いてしまった。
「ど?僕の大事なお片付け魔法」
その様子は『ふふん』と心の声が聞こえてきそうなくらい、得意げだ。
「……ずっと気になってたけど、これのおかげか」
「そうだよ。カバンひとつ持たずに旅が出来るなんて快適だよね。まあ……たまに整理しないとさすがの異次元もごちゃごちゃになっちゃうけどね」
(まったく。魔法使いってのは……)
「ま、早く片付くならそれに越したことはないか。……んじゃそろそろ行こうぜ」
そう言いながら指をさした窓の向こうには、港が眼前に迫っていた。
◆
「いやあ、本当にお二人ともありがとうございました」
スベルと名乗ったその船員は笑顔で二人に礼を述べた。
「こちらこそ!至れり尽くせりだったよ!」
「ああ、申し訳なくなるくらいにな。やったことといえば、魔物一匹退治したくらいだし」
いやいやいや。とスベルは大袈裟に手を振る。
「それが何より助かりました。それでですね、お二人に礼といっちゃなんですが……」
そう言うと彼はカバンに手を突っ込み、何かを探し始めた。
「お礼って、報酬はもう先払いで受け取ったぞ。遠慮なく使わせてもらったし」
「そうだよね。僕何回お風呂入ったか覚えてないくらいだよ?」
「いやあ……はは。これはおまけというか、冒険者なら断ることはないんじゃないかと思います。……あ、これだ!」
カバンから出てきたのはボロボロの巻物だ。
「なんじゃこりゃ?まさか宝の地図なんて言わないよな?」
ガレットが訝しげにその巻物を見つめていると、スベルはニヤリと口角を上げた。
「まさに、そうでございます」
「えぇ〜!?お宝!ほんとに!?」
「はい。これはこの近くにある街……いや、街だった場所に隠されたあるお宝の在処を示しているとされるものです」
「街だった場所ってのはどういうことだ?」
「あ……もしかして、この辺だとリオモアのことかな?」
フィーリアが口にした名前にガレットはピンときていない様子だ。
「ガレット様の反応も無理はございません。……なんせリオモアは五百年以上前に、放棄された街なのですから」
――放棄された街・リオモア
街の近くには豊富な資源を抱えた鉱山が連なっており、各地から多くの鉱夫が集まっていた。
しかし、いくら資源が豊富でも、採り続ければいつかは絶える。あまりにも大勢の人が長年にわたり採取に励んだ結果、五百年ほど前に資源は尽き、街から少しずつ人は去っていった。
人の手によって大きくなった街は、人が離れたことにより機能が維持できなくなり、とうとう放棄されてしまった。
「っていうのがリオモアの歴史かなぁ」
「おお、よくご存知ですねフィーリア様」
「当時は賑わってたからねぇ。みんな泥だらけで鉄くさい街だったけど、あの賑わいは今じゃ見れないもんなぁ」
懐かしむように語るフィーリアを、スベルは首を傾げて見つめている。
「こいつはこう見えて千年以上生きてるんだと。大お姉さんエルフなんだよ」
「ははぁ……エルフが長命なのは存じておりますが、まさかそれほどとは……いやはや驚きです」
「でも、賑わってた時も放棄されてからもお宝が〜なんて聞いたことないよ?」
「だからこその、地図なのですよ」
コホンと小さく咳払いをして、二人に耳打ちする。
「実は……あるらしいんですよ。ミスリルの鉱脈が」
「ミッ、ミスリル!?」
何のための耳打ちなのか、二人は声を大にして叫んだ。
「シーッ!!……この巻物は、とある魔法使いがリオモアを探索した時に書いたとされています。しかしその人物は探知は出来たものの、高齢だったために採掘は諦めたんだとか。代わりに、誰かに見つけ出してほしいと願ったのでしょうかね。勝手な想像ですが、そんな想いとともに、代々受け継がれてきたものなんです」
スベルは切なそうな表情で続ける。
「残念ながら私が生きるのは海の上。このままじゃいつまで経っても、この地図は紙切れのままでしょう。だから、いつか託したいと思える冒険者に出会う日を願って、こっそり持ち歩いてたんです」
「……もしかしてその魔法使いって」
「ええ、私の祖先にあたる人物です。言い伝えによると、魔法使いのくせに、宝探しが趣味だったようです。……お礼なんて言い方して申し訳ありません。これでは、ただの厚かましいお願いですね。……どうか祖先の果たせなかった夢を、代わりに叶えてはもらえないでしょうか?」
スベルは深々と頭を下げようとした。
しかし、それより早くその肩にガレットの手が置かれる。
「奇遇だな。俺もお宝探しが目的の冒険者なんだ。断る理由はないぜ」
「その通り!僕たちに任せて!」
「おお!ありがとうございます!……実はこの船は三日ほどこの街に停泊しますので、タイミングも今しかなかったんです。この機会を逃せば次いつここに来られるかわからない。……何卒、よろしくお願いいたします!」
リオモアの街がそうであったように、時間が経てば言い伝えや人の想いは薄れていくのかもしれない。
それでもスベルは、先祖の想いを絶やさずに生きてきた。しかし彼の言うとおり、船に乗り海の上で暮らす身ではその想いを果たすことは限りなく難しいだろう。
「巡り合わせも旅の醍醐味、だな」
「よーし、頑張って掘りまくっちゃうよ!」
二人は突如の寄り道案内に、喜んで飛びついたのだった。




