第10話 ツルハシ・ラプソディー
廃墟と化したかつての街・リオモアへ到着した二人。街を探索しているとフィーリアの意外な過去が明らかになり……?
「確かあそこが居酒屋さんで、あっちが食堂だったかな?」
フィーリアは廃墟と化した街並みを案内するように指さして回る。
スベルの話を聞いた二人は、ハリマークの探索を後に回しすぐ街を出発した。馬車を手配してくれたおかげで数時間ほどでリオモアに到着したのだが、実際に見る街は聞いていた以上にもの寂しい雰囲気に包まれている。
「あっちがお肉屋さんで、こっちが……ギルドの跡地?かな」
「ほとんど食べ物屋じゃないか。まあ、よっぽど賑わってたのが伝わってはくるけど……」
ガレットは半ば呆れながら廃墟のガイドを聞いている。
「そりゃあ、ここで働いてた人たちはよく食べる人ばっかだったからね。僕も何年か滞在してたけど、熱い人たちばかりだったよ」
「こんなところに何年も? 一体何してたんだ、その間」
ざっと街を見て回ったところ、魔法屋の跡地らしき店は存在しなかった。それなら、彼女は何のためにこの街に長く滞在していたのだろう。
「鉱山といえば、採掘ですよ!」
「お、お前が?ツルハシ握りしめて?」
「うん!中々出来ない体験だから、楽しかったなあ。……たまに魔法でズルはしたけどね。へへへ」
きっとフィーリアが恥ずかしがっているのは、魔法でズルをしたところなのだろう。しかし、ガレットはヘルメットをかぶり、ツルハシを振り下ろすエルフの姿を想像していた。
「――ククッ」
「わ、笑わないでよ!僕、腕力はそんなにないんだから仕方ないでしょ!」
頬を膨らませるその顔を見て、余計に笑いがこみ上げる。
「あははは!いや、違うって!お前がツルハシ握りしめて鉱山にいる姿を想像したら……お、おもしろくてな……クッ……」
「だから笑わないで……ってなんだ、そっちの方かあ。
それは確かにそうかもね。ふふっ。でも……」
「ヘルメット姿の僕も、可愛いって評判だったんだよ?見せてあげられないのが残念だなあ」
フィーリアは謎のポーズを決めて、流し目でガレットを見つめる。
(確かに、男だらけの山の中にこんなちんまりしたエルフがいたら、そりゃマスコットみたいに可愛がられるだろうな……)
「そ、そうだな。非常に残念だよ。……しかしなんでまたそんな肉体労働をしようと思ったんだ?路銀だったら、他にいくらでも仕事先はあったはずだろ?」
危うく口に出しかけた『マスコット』という言葉を心に秘めて、その経緯を尋ねてみた。この街にはギルドもあったみたいだし、この見た目ならよっぽど飲食業の方が稼ぎは良さそうなのだが。
「確かにお金のこともあったけど、純粋に鉱石が欲しかったんだよね。あの頃は掘れば掘るほど出てきたからさ、お金とは別に結構貰えたんだよね」
「なんでまた鉱石なんか……」
「うーん……それはまだ、秘密かなあ」
唇に指を当てて笑う。またこれだ、秘密を宣言する時のお決まりポーズ。
「長生きしてると秘密も多いな。……でも、その時がきたら教えてくれるんだろ?」
「そういうこと」
さすがにもう昨日今日の仲じゃない。彼女の考えそうなことは、少しずつガレットも理解できるようになった。
「街にも人にも歴史あり、だな。……さあ、懐かしむのは程々にして目的の物を探そうぜ」
「そうだね!えっと、スベルから貰った地図だと……んん?なんだろこれ」
広げた地図を顔に近づけて、フィーリアが唸りだした。
「なんだ?どうした?」
「これは……地図じゃなくて……手記?」
「手記?」
「うん……ほら、見て」
地図を裏返し、ガレットに向ける。そこに書かれていたのは、所狭しと並べられた文字だった。
「……暗号だな。こりゃ」
「えー!そうなの!?」
「昔書庫で見たことがある。一部の冒険者の間で流行ってた特殊文字だな。うーんと、確か……」
「ツル……ハシ……ラプソディー?」
「ツルハシラプソディー!?懐かしいなあ」
「知ってるのか?」
その質問に答える代わりに、フィーリアは道端に落ちている木の箱に飛び乗った。
「――コホン。それではお聞きください。」
静かな街に流れたのは透き通る歌声。
「――我ら、山に生かされ。我ら、命を燃やす。恵みの天に祈ろう。我ら、炎を灯す」
「――ふぅ。何百年ぶりかなあ……毎日作業が終わったら広場で薪をくべて、みんなで歌ってたんだ。天の恵みに感謝する!ってね」
「おお……いい歌声だな。……んで、それがミスリルと何か関係あるのか?」
「いやあ……そこまではわからないや」
不意に聴くフィーリアの歌声は、繊細で伸びやかだった。心地よく思わず聞き入ってしまう。けれど、それがどうミスリルに繋がるのか、二人には想像がつかなかった。
「鉱山を片っ端から探し回すってのもなあ……何かヒントが欲しいところだけど……とにかく、山に入ってみるしかないか」
「そうだね。とにかく見に行ってみようよ!」
◆
二人は坑道へ足を運びしばらく探索を続けるも、ミスリルどころか他の鉱石すら見当たらない。
「本当に最後の最後まで採掘しきっちゃったのかなぁ」
「放棄されたこと自体が答えだろ?今回もスカしたかなあ」
「うむむ……そうなのかなあ」
「唯一のヒントが巻物に書いてある歌だけってのも、考えりゃ怪しいもんだしな」
「でもそれなら、どうしてツルハシラプソディーなんか書いたんだろ?」
「それは分からんなぁ……まあ、宝の地図がタダのいたずらなんてよくあることだし、あまり期待は出来ないかもな」
「なんか切なくなっちゃうなあ……スベルになんて言えばいいんだろ」
「そのまま言うしかないだろ。……とりあえず、今日のところはここまでにしよう。早めに休んで明日朝から仕切り直そう」
「うん……街に戻ろっか」
◆
「ねえガレット、もう少し街を見て回らない?あんまり勝手に見るのはよくないと思うけど……こういう機会も滅多にないから、よく見ておきたいなあって思って」
そう提案されたのは街に戻り、テントを張る場所を探している時だ。
「そうだなぁ。こういう場所を見て回れる機会はあまりないし、しっかり目に焼き付けておくか」
まだ日が沈むまで時間があったこともあり、二人は街巡りを再開することにした。
「あ、ここ僕が泊まってた宿屋があった場所だ。何年も同じ部屋借りてたから、住んでたって言った方が正しいかも。……こうして見ると、やっぱり寂しいね」
「五百年以上前の話だろ?人が住んでなきゃ、いくら頑丈に作っても家はダメになる。確かに寂しいけど、これも人の歴史の一つなのかな」
フィーリアはかつての記憶を振り返り、ガレットは風景から過去を空想する。知る者と知らない者。二人は同じ街に、違う景色を見ている。
「あっちは……ギルドだな。かつてのギルドはどんな感じだったんだろう」
「いっっっぱい人がいたよ。なんなら、酒盛りまでし始めちゃうからまるで酒場みたいだったなあ。ギルドの制度自体、今ほど確立されてたわけじゃなかったからね。やりたい放題だったよ」
「なんていうか、凄い贅沢だよなぁ」
「皆それが楽しみで頑張ってたからね!」
「違くてさ、さっきから気になったこと全部答えてくれるもんだから。……普通は空想するだけで終わるのに、リアルな答えが聞けるって贅沢だなあって」
フィーリアは一瞬きょとんとした後、可笑しそうに笑った。
「なんか、らしくないじゃん?」
「そうかもな。でも、たまにはこういうのも悪くないだろ?」
「そだね……僕もそう思うよ」
形あるものはいずれ滅ぶ。それは人であろうが物であろうが変わらない。ただ早いか遅いか、それだけの違いだ。
言葉にはしないが、お互いの時間が平等でないことは充分理解している。
そんな二人だからこそ形のないものの価値も知っているし、たとえお宝が見つからなくても二人が辿る道には意味があって、尊い時間であることに変わりはないのだ。
「そろそろ戻るか」
「うん。ご飯食べて、ゆっくり寝て、明日に備えよ!」
「寝坊したら置いてくからな」
「あ!お宝の独り占めはよくないよ!」
「知らないのか?お宝は見つけたもん勝ちだぞ!」
楽しそうに言い合う二人を包むように、街は静かに夜を迎えるのだった。




