第6話 船旅と剣士と魔法
第二章開幕!!
無事に十分すぎる路銀を稼ぐことに成功した二人は、船に乗るべく港を目指す。
無事に船に乗れたのもつかの間、フィーリアがひとり姿を消して……?
サオカの街を後にして数日。ガレット達は目的の港町へと到着していた。
「おお……さすがに迫力あるなあ」
波止場には大小さまざまな船が所狭しと並んでいる。これほど大きな港を見るのはガレットも久しぶりだった。
船の出入りが多いだけあって、街を行き交う人々も絶えない。そんな活気のある街に、ひときわ目を引く少女の姿があった。
大きく尖った耳と腰まである薄緑色の髪を靡かせ、目を輝かせながら辺りをぴょんぴょん飛び跳ねるエルフ。
「わあ……こんなに沢山並んでるの初めて見た……ガレットー!!凄いね!!僕感動しちゃったよ!!」
「フィーリア……少し落ち着こうよ……」
人の目などまるで意に介さず、彼女はガレットの名を呼んだ。その姿からは想像もつかないが、彼女の年齢は千を越えている。
「本当に乗ったことないんだなあ」
聞けば彼女は、一度も船に乗ったことがないという。長く旅をしていたら、それなりにお世話になっていそうなものだが……
「フィーリア!俺らが乗るのはこっちみたいだぞ!」
ガレットは彼女を呼び寄せ、指をさす。その先にあったのは立派な客船だった。
「これに乗れるの!?……シルスさんも太っ腹だねぇ」
「はは、そうだよな。まさかこんな立派なのをあてがってくれてるとは思わなかったぜ。……んじゃ、そろそろ行くか」
「よーし、行こう!初めての船旅へ!」
フィーリアはまたしても、手を広げてパタパタと駆けていった。
◆
「ガレット様とフィーリア様ですね。確かに、拝見致しました」
受付でチケットを提示し確認してもらう。ガレットは無事に乗船出来そうでホッとしていた。
「それでは、中へどうぞ。いやあ、それにしても助かりますよ。シルス様お墨付きのお二人が道中の護衛を受けてくださるなんて!」
男は嬉々として語る。しかし、二人の頭上には《?》が浮いていた。
「どゆこと?」
「うーん……こりゃしてやられたか」
心当たりはある。というより、考えてみれば最初から不自然だったのかもしれない。
そもそも報酬は銀貨三十枚という約束だったのだが、シルスが差し出したのはそれに加えて金貨が一枚とこの乗船チケット。金貨は一枚で銀貨三十枚分の価値があるし、チケットもそれなりに値が張る。
いくら訳ありの依頼だからって、奮発し過ぎじゃないか?と心のどこかでは思っていたが、こういうことだったのか。
「全く……抜け目のない人だよ」
「ふふふ。商人の世界はギブアンドテイクなんだ。何事もなければ快適な船旅な訳だし、悪く思うなよ二人とも」
メガネを光らせ、シルスは悪い笑みを浮かべていた。
「――てところだと思うぞ」
「なるほどねぇ。さすがシルスさん、ただ者じゃないね!」
一応嵌められた側ではあるのだが、この様子では微塵もそんなことは思っていなさそうだ。
「まさか聞いてないとは思いませんでしたよ……アハハ。あの方らしい」
船員は困り顔で笑っている。
「まあそれだけ貰っちゃったしな……いいぜ、護衛の話引き受けるよ」
「うん!任せといて!」
「そう言っていただけると助かります。とはいえ、危険な航路ではないので基本は自由に過ごして頂いて結構です。お部屋もそれなりのグレードを準備いたしましたので、ごゆるりとお寛ぎくださいませ」
「わかった。何かあれば遠慮なく呼びに来てくれ」
「かしこまりました。……それでは、良い旅を」
◆
その後しばらくして船は出航した。二人が案内されたのは上から三つ目のランクの部屋だった。
「それでは、また何か不明なこと等ありましたらお気軽にお呼び出し下さい。――そうだ。これをお渡ししておきますね」
男が取り出したのは二枚のカード。
「なあに?これ」
「これを提示して頂けば、お二人が船内で使用した施設や買い物などの請求が我が社宛になるようになっています。言わば……護衛の先払い報酬といったところでしょうか」
「ええ!?ご飯食べ放題ってこと!?」
「はは。簡単に言えばそうでございます」
「良いのかよ?何も無かったら損するだけだぜ?」
「構いませんよ。この船が無事に目的地に到着すれば、この程度は誤差でございますから」
確かに、冒険者二人が贅沢をしたところでたかが知れている。
待遇を手厚くしモチベーションを上げさせて、有事を解決してもらえるなら安いものだ。
「そういうことなら、ありがたく使わせてもらうよ。とはいえフィーリア、あんまり派手には……」
「お連れ様なら既にどこかへ向かわれましたよ」
「あの……ごめんね?」
「はい?」
「赤字にならないようには……頑張るよ」
「ははは!そんなご心配なさらなくとも!」
そうだ。この男は知らないのだ。
我々がつい先日まで、破綻した金銭感覚のお陰で路上生活になりかけていたことを――
◆
「しかしまあ、こうして歩くとより広く感じるな……」
姿を消したフィーリアを探しつつ、船内を散策しているガレット。あいつのことだ、行先はなんとなく予想がついている。
レストラン・大浴場・装飾屋・占い師
どれも喜んで飛びつきそうなところだが、向かっている先はいずれとも違う。
「ま、ここだよな。客船にもちゃんとありやがる」
ガレットが足を止めたのは《魔法屋》。読んで字のごとく魔法が売買される場所だ。
――カランコロン
「いらっしゃい」
案の定、老婆が迎える。魔法屋は年寄りが経営する決まりでもあるのだろうか?
「……おぬし今失礼なことを考えなかったか?」
「えっ?いや、はは。そんなことないぜ!それより、変なエルフが来なかったか?」
一撃で心を見透かされたガレットは慌てて話をそらす。
「ああ、さっき来て奥の方に行ったよ。ほれ」
老婆が指さすと、店の隅っこにしゃがみこんであれやこれやと漁る姿が目に入った。
「うーん。ないなぁ」
「おい、フィーリア。そんなに夢中で何探してんだ?」
「ガレット!いい所に!今君にも出来そうな簡単な魔法書を探してたんだ〜」
「俺に?わかってると思うけど、俺は魔法使いじゃないぞ。大したものは使えない」
ガレットは魔法を修めたわけではない。よって、使えるのは精々が生活に便利な魔法程度だ。
「知ってるよ。だから、教えてあげようと思って。――この僕が直々にね!」
「はぁ?なんでまた……」
「……僕ら二人しかいないし。ガレットも多少は魔法を覚えた方が心強いかなって」
「まあ確かになあ……」
そうは言うものの、ガレットは自分が魔法を使う姿を想像できなかった。無理もない、彼はずっと剣士として腕を磨いてきたのだ。
「――あっ、これなら」
フィーリアが一冊の薄い本を取り出した。
「随分古いなあ。一体なんの魔法が書かれてるんだ?」
「ふふふ……これはガレットにぴったりの魔法だよ。その名も――剣戟を飛ばす魔法!」
ガレットも、そしてフィーリアもまだ知らない。
この一冊との出会いが、後に歴史に名を残す《魔法剣士》を生み出すきっかけになることを――
こんばんは!
5話まで読んで下さった方々本当にありがとうございます。
6話からは第二章になります。本格的な旅の幕開けですね。この二人の活躍?に期待していてください。
それでは恒例のセルフQ&Aにいきましょう!
Q:フィーリアちゃんは船に乗ったことがないみたいだけど、どんな旅をしていたの?
A:空を飛ぶ魔法で海くらいはひとっ飛びです。
Q:5話の最後で残ってたふたつのハードローフはどうしたの?
A:ちゃんと食べました。フィーリアちゃんの硬くなったパンを柔らかくする魔法を使って。これを食べる度に、彼女は自分を助けてくれたメリアを思い出し、心を暖かくすることでしょう。




