煌めきを
出会いから一夜明け───ガレットは報告をするべくギルドを訪れるが、こっそり着いてきていたフィーリアがまさかの行動に......?
ガレットとフィーリアが数奇な出会いを果たしてから一夜が明けた。
洞窟を後にして街へ戻ると、フィーリアは用事があるとのことで、その間にガレットはギルドへ足を運んだ。
「今回もガセだったよ。洞窟で一泊までしたのに成果なしはあんまりだぜ」
受付でいつものように語る。その様子はギルドの面々も見慣れたもので、誰もその話を疑う者はいなかった。
「そうでしたか……ごめんなさいね。いつもこんな依頼ばっかり受けてもらって……」
困り顔で笑うのは受付スタッフのミラ。彼女は誰よりも多くガレットの結果報告を聞いてきた人物でもある。
「気にしないでくれよ。好きでやってるんだ。それに、誰もやりたがらないからな……結果に関わらず報酬も貰えるし」
「そうですか。そう言ってもらえると私も少しホッとします」
「ああ、けど……このお決まりのやり取りも、今日が最後になるかもしれないんだ」
「ええ!?それってどういう……」
突然の申し出にミラは困惑する。ガレットはこの街出身ではないが、ここを拠点にしてもう随分長い。
冒険者というのは不思議なもので、数年も同じ街を拠点にしていれば、いつしかそこが故郷になる。腰を落ち着け、そのまま永住する者も少なくない。
「悪いな。この街は気に入ってるんだけど、やることができちゃってさ」
「やること……?お宝探しじゃなくて?」
「それはずっと続けるよ。なんて言えばいいかな……お守り?」
「お、おも?」
状況が読めずミラが困惑していると、視界にガレットの背後に忍び寄る影が映った。
「上手く言葉が出てこないがそんなところだな!ははは!」
「ふーん。お守りねぇ。僕との旅をそんな風に考えてたの?ガレット」
「そうそう!お守りみたいな旅に……え?」
「ん?」
「ふ、フィーリア。いつから俺の後ろにいた……?」
ガレットは背後から聞こえる声の主---エルフのフィーリアに背を向けたまま声をかけた。その顔には一筋の冷や汗が伝っている。
「いつからって……最初からだよ。邪魔しちゃいけないなあとは思ったけど、久しぶりの街の様子も見たかったから魔法で気配を消して着いてきたのさ」
「そ、そうでしたか……じゃあもしかして……」
「全部聞いてたけど?」
その一言を聞いた瞬間、ガレットは勢いよく地面へと突っ伏した。
これは土下座だ。
ガレットのそれは、自分が剣を抜くよりも、フィーリアが魔法を放つよりも速かった。
「すみませんでした!!!!」
「ガ、ガレットさん!?」
ミラはそんな様子を見て狼狽える。フィーリアはそんな二人を見て、悪い笑みを浮かべた。ミラを手招きし、近寄る彼女の耳元でコソコソと何かを呟く。
「ふんふん……えぇ〜!!!!!??」
ミラが声をあげる。口元を手で押さえているものの、その声は少しも抑えられていない。
「ガレットさん!いつの間にそんな大胆なことを!しかも出会ったばかりのエルフさんに!!」
その声に周りもザワザワし始める。
「なんだ?ガレットがなんかやらかしたのか?」
「見ない顔連れてるな。結婚報告か?」
気づけばギルド中の視線は三人に向けられていた。そんな様子をフィーリアは悪い笑みを浮かべたまま、満足そうに眺めている。
ガレットは地面に突っ伏したまま顔を上げられない。周りの声は全て聞こえている。手柄ゼロで帰ってきて笑われるより、よっぽど恥ずかしい。
(こ、こいつ……天然の皮を被った悪女め……)
するとフィーリアはそんなガレットの横にしゃがみこみ、耳に手を当て周りに聞こえないように言った。
「だから言ったじゃん。ガレットより遥かにお姉さんだって。伊達に長生きしてないよ?あ、でも別に怒ってないから安心してね。じゃあ僕は街を見てくるから、この場は任せたよ」
「……申し訳ございませんでした」
恐る恐るガレットが顔を上げると、既にフィーリアの姿は無い。
「あれ?フィーリアさんは?」
「おや!嬢ちゃんいなくなっちまったぞ!逃げられたぜガレット!ガハハハ!!」
ギルドはますます騒がしくなった。もう、彼女は怒らせないようにしよう。こうしてガレットは、年上エルフの扱い方をひとつ学んだのだった。
◆
「やっと解放された……」
あの後、お祭り騒ぎはしばらく続いた。やれ、とうとう大当たりを引いただの。一生の宝を見つけ出しただの。本当に好き勝手、言いたい放題だった。
ミラをはじめとする群衆はとてつもなく手強く、小一時間にわたる説明の末、かろうじて誤解は解けた。そうして、皆が飽き始めた頃に隙を見て抜け出してきたのだ。
「ったく……それにしてもフィーリアはミラになんて言ったんだ?変なこと言ってないと良いけどな……」
「ふふふ……それに関しては心配ご無用さ。事実しか言ってないからね」
ぼやきながら歩いていると、不意に返事が返ってきた。
「……今回は魔力の接近でわかったぜ」
「限界まで抑えてみたのに、優秀だねぇ」
振り返ると、笑みを浮かべるフィーリアがいた。
「一人で動く冒険者には必須のスキルだからな。それにお前の魔力は分かりやすいんだぜ」
「へぇ……君には僕の魔力が、どう映ってるの?」
「それは……どこまでも純粋で透き通ってて……膨大なのに優しくて……混じり気のない不思議な感じだな」
真面目な顔をしてそう答えるガレットを、フィーリアはポカンとした顔で見つめていた。
「……どうした?」
「あ……いやあ……ははは。さっきは、からかわれて突っ伏してたのに……今度は恥ずかしげもなくそんなこと言うんだね」
「? それとこれとは話が別だろ?」
不思議そうに答えるガレットの顔を見ていると、次第にフィーリアは笑いが込み上げてきた。
「……ぷっ。あはははっ!」
「な、何がおかしいんだよ!?」
「ごめんね。純粋なのは君も同じだね」
フィーリアは指で涙を拭う。そんなに笑わなくても……とガレットは不服そうだ。
「でも、ありがとう。そう言ってもらえて、嬉しい」
「お、おお。それは良かった……あのさ」
「何?改まって」
「その……さっきは悪かった。どう言っていいか分からなくてお守りなんて言っちまった。けど、それはそのまんまの意味じゃなくて……」
「ふふ、大丈夫だよ。わかってる。僕も悪ふざけしちゃってごめんね。君がこの街でどんな人達と、どんな風に過ごしてきたのか見てみたかったんだ」
「それは……良いさ。内容はともかくとして、最後にあそこの連中とワイワイ出来たのもいい思い出になるしな」
「そうだね。でも、最後なんて言わずまた帰ってきたらワイワイやればいいよ」
「はは、そうだな。今生の別れじゃないもんな。……でも、もうあれは勘弁してくれよな?」
「考えとく」
「えええ……そういえば、あの時ミラになんて言ったんだ?」
「だから事実しか言ってないってば。変なこと言ってないから気にしないで!」
そう言うとフィーリアは駆け出した。そして川に架かる橋の中央まで来ると、地面を蹴り魔法で空を飛んだ。
街全体を眺められる高さまで上昇し、景色を見下ろす。
(ガレット……僕は嬉しかったんだよ。虹の宝石の部屋で、僕の想いに気づいてくれたこと。一緒に旅をしたいと言ってくれたこと。……まあこれは、多少僕も強引だったかもしれないけど。君が真っ直ぐな人だから、久しぶりに誰かと旅を共にしたいって思えた。……確かにすぐ終わっちゃう旅かもしれない。でも、この一瞬の煌めきを――僕は必ず目に焼きつけるよ。)
フィーリアが胸に手を当てそんな事を一人思っていると、遅れてガレットが走ってきた。
「おーい!何そんなとこに浮いてんだよ!怒ってないから降りてこーい!」
大きく手を振るガレット。そんな彼の様子を見ると自然と笑みが零れる。
「今降りるよ。ガレット!そのまま空を見てて!」
フィーリアは、ガレットの到着を待っていた。手を振るガレットに返事をすると、指をパチンと鳴らした。
その瞬間、陽の沈みかけた山々の向こうから、何かが打ち上がった。『ヒュー』という音とともに空へと上っていき、次第に勢いが弱まる。
「旅の始まりだよ。いっちょ景気づけといきますか!」
それは大きな破裂音とともに空中で爆散した。遅れて色とりどりの火花が暗くなった空を彩る。
(これは……花火。フィーリアの魔力が練り込まれてる。綺麗だな。)
不意に打ち上がった花火に、ガレットはすっかり目を奪われていた。そんな彼の横にフィーリアは降り立った。
「旅の始まりだからね!奮発しちゃった!」
「ああ……凄く綺麗だな……」
「へへ……喜んでもらえて何より」
「この二日だけでも、多くを貰った気がするよ。これからの旅には期待しかないな」
「そうだね。君の夢も、僕の世界も。どっちもたくさん探しに行こう!」
旅立ちの前夜。二人はこの先に待つ何かに思いを馳せながら、花火と共に沈みゆく陽を見送った。
Q:フィーリアちゃんはいつ花火なんか仕込んだんですか?
A:街で一度別れた瞬間、魔法で山の麓まで頑張って飛びました。たまったま持ってた貴重な花火に合図で発動する火属性魔法を仕込んで、またすぐに飛んで帰ってきました。
なので、「最初から聞いてた」は実は嘘です。フィーリアちゃんが聞いてたのは「お守り」の件からですよ。
魔法全開で駆け回って、貴重な花火を惜しげも無く打ち上げたのは、新たな旅へ誘ってくれたガレットへのフィーリアちゃんなりのお礼なのです。




