第18話 闇夜の戦い
双子の正体を確かめるべく動き出した魔法使い達。フィーリアは魔族探知に動き、ガレットは双子が身を寄せているという家屋の調査に赴く。
しかし、その行動は敵に読まれていて……?
「ガレット殿!」
夜道を歩いていると、不意に男の声に呼び止められる。
「ディーヴァ。悪い、遅くなったな」
呼び止めたのは筋肉系魔法使いのディーヴァだった。しかし、相方のセレンの姿が見えない。
「セレンはどこだ?」
「セレンは先んじて周囲を見回りに行っている。――我々も合流するぞ」
「了解!」
二人が向かったのは、とある家屋。例の双子はそこに滞在しているらしい。
――数時間前。
「闇討ちぃ!?」
「しィッ!――まだ確証は無いと言っただろう」
「でも、なんでそんなことを……」
ガレットの問いかけに、セレンは指を二本立てた。
「理由は二つある。一つは、単純にあの幼子が魔族だった場合だ。のさばらしておく理由がない。すぐさま策を練り、叩く必要がある。――そして」
「問題は二つ目だ。幼子が操られていた場合。――これが何を意味するか、わかるか?」
「……近くに魔族が潜伏している可能性がある」
「その通りだ」
「更に、操られているとしたら早々に解放せねば……彼女らの意識が戻ってこられなくなる。魔族の魔法とは、それほど恐ろしい」
もしあの双子が操られているだけだとしたら、魔法をかけている元凶である魔族を倒さなければ、解放されることはない。
そしてディーヴァの言う通り、長い間魔族の魔力に晒されてしまえば、たとえ魔法が解けたとしても、彼女達の意識が戻ってこられなくなる可能性がある。
「魔族との……戦闘」
ガレットが息を飲む。魔族の恐ろしさは幼い頃に経験しているが、まともに戦ったことはない。
その恐ろしい姿と力は、しばらく経った今でも忘れることはない。あの頃より力をつけたとはいえ、戦って勝てるビジョンはまるで浮かばない。
「その反応は正しい。……仮に魔族がいたとして、単独とも限らん。勝てる保証のない戦いになる」
ディーヴァは淡々と語る。まるで、ガレットを諭すかのように。
「それでも、やるよ。操られてるかもなんて聞いて、放っておけない。それに……あの子たちが人を殺すところなんて、見たくない」
俯きながらもガレットは強い意志を示した。それを見て、セレンとディーヴァは笑みを浮かべる。
「うむ……やはり見込みどおりの男だ!」
「勇敢な若者……良し!」
決行は街の静まる深夜になった。下手に町民に見られれば、ただの不審者でしかない。タイムリミットは日が昇るまでだ。
◆
――ガレットとディーヴァが合流しようとしていた頃、時を同じくしてこの二人も動き出していた。
「ごめんねぇ、エルフちゃん。巻き込んじゃって……」
「ううん、僕も許せないから。それに……魔族の息がかかってるなら、叩くチャンスは今しかないよ」
二人は魔法で飛びながら会話を続ける。既にミュールが《コート・ミラジア》を発動させているので、堂々と飛ぶ二人の姿を認識する者はいない。
「私は十中八九、精神干渉の魔法を使える魔族が潜んでいると思ってるけど……あなたはどう?」
「うん、僕もそうだと思う。あの場では確信は持てなかったけど、あの子達から感じたのは魔族の魔力だけだった。……あれだけ強力な魔法をかけるんだ、遠くにいるとは思えない」
そう語るフィーリアの表情はやはり硬い。
「エルフちゃん。あなた、魔族に何か個人的な恨みがあるわね?」
「――うん、あるよ。そんなに顔に出てたかな?」
「ええ、とっても分かりやすいわ」
「そっか……僕もまだまだだね。でも、安心して。怒りで我を忘れるほど、若くはないから」
(やっぱり声をかけて正解ね……対魔族において、これほど頼りになる魔法使いもいないわ)
ミュールは軽く笑いながら口を開いた。
「それなら安心だわぁ。じゃあ――手筈どおりにいきましょう」
「わかった。コート・ミラジアの持続時間中に、僕が魔力を辿って隠れている魔族を見つけ出す……だね」
彼女達もまた、魔族討伐に向け動き出していた。
そして――各々の作戦が始まる。
◆
「ディーヴァ、ガレット殿!」
ディーヴァの案内の元、辿り着いたのは街の外れにある、一軒の家屋を見下ろせる丘。
「あそこに……いるのか」
ガレットが家屋を見下ろすと、僅かだが禍々しい魔力を感じる。
「ディーヴァ!ガレット殿!」
「セレン!」
少しするとセレンが合流した。周囲を見回してきたものの、魔族の気配は感じられなかったらしい。
「ってことはやっぱり……」
「いや、断定するのはまだ早い。魔族とて、襲撃が予測できぬほど馬鹿ではないだろう……確かめに行くしか、あるまい」
「そのようだ……気を引き締めよ」
二人はローブを脱ぎ捨て、杖を変形させる。圧倒的な力を持つこの二人ですら、油断する素振りは微塵も見せない。
ガレットは深く息を吸って、気持ちを落ち着かせた。
「ああ――潜入開始だ!」
三人が揃って丘を降り始めた頃、家屋から外を眺める影が二つあった。
それは――双子の魔法使い・アリスとエリス。
「やっぱり来たね」
「都合がいいよ。この辺りは人気もない……邪魔者を消すにはもってこいだね」
怪しく笑う二人の目には、黒い魔力が光っていた。
◆
その頃、フィーリアは街の見渡せる上空を飛行していた。地上で探知を張り巡らせるより、上空で行った方が逆探知のリスクも低く、簡単に反撃を貰うこともないからだ。
もっとも、コート・ミラジアが持続している間はその心配もないのだが、これはミュールの提案だ。
「保険みたいなものよ。探知に力を割いている時に、もし私が突破されれば、即座の対応は難しいでしょう?」
「うーん……確かに。でもそれはミュールも同じでしょ?」
「私は分身もあるし、どうとでもなるわ。間違ってもあなたに傷を負わせたくないのよ」
それなら、とフィーリアは納得し作戦を受け入れた。そして、杖を構え魔力を練り始める。
(……範囲は街一帯とその周辺。経験上、これ以上離れたら流石の魔族も精神操作は難しくなるはず。探知する魔力を魔族のものに絞って――よし)
地上でミュールが頷く。
「探知……全開!」
それを合図に、フィーリアの魔力探知が広がり始めた。距離と条件を絞っているせいで普段よりも時間がかかるが、それは作戦に織り込み済みだ。
「頼むわよ……エルフちゃん」
ミュールが呟いた、その時。
「やはり動き出したな」
「!!」
闇の中から聞き覚えの無い声が聞こえた。
「……お前らほどの手練だ、こうすることはわかっていた。……探知には時間がかかるだろ?その前に、消えてもらうぞ」
姿を現したのは口元を布で隠した男。しかし、その頭には……角が生えている。
「やっぱりもう一匹いたわね……魔族さん」
ミュールが構える。
「我が名はグリべー。この名を聞いた事、光栄に思い死ぬがよい」
◆
ガレット達は魔力を極限まで抑え込み、家屋を囲んでいた。玄関付近をセレン、裏口をディーヴァ。そして、全体が見える位置にガレットが配置についた。
セレンとディーヴァは自身の魔力を抑えているため、魔力探知が使えない。二人は目視で、やや離れてガレットが探知を行っている。
(探知は確かに得意だけど……これだけ離れちゃ、すぐ戦闘にも参加出来ない。結局あの二人任せになっちまうな)
しばらく二人が外から家屋を探っていると、ガレットがふと違和感を感じた。
(なんだ……探知に何かが引っかかった!)
慌てて周囲を探るも、異変は見当たらない。ガレットは冷や汗をかきながら、探知範囲を広げる。
「!ガレット殿の魔力が荒ぶっている……」
「なにか見つけたか!?」
セレンとディーヴァもガレットの異変に気づく。
ガレットは必死に探知を続ける。そして――その魔力の正体に辿り着いた。
「セレン!ディーヴァァァア!上だあああああ!」
力の限り叫ぶ。こんな声を出したことは今までにない、それだけの脅威が二人に迫っていた。
二人はその声を聞き、即座に空を見上げる。目に飛び込んできたのは、巨大な魔法陣。
「むっ!こ、これは!」
「探知が使えないとはいえ、気づかないとは……!」
「避けろー!!!!」
ガレットが叫ぶと同時に、魔法陣から一筋の光が発射された。
そして地上に降り立った瞬間――
ドゴォォォン!!!!
巨大な球体に膨れ上がったエネルギーが、家屋の一帯を吹き飛ばした。
無論、爆心地にいたセレンとディーヴァはもろに巻き込まれる。
「ぐああああ!!」
「くっ……無念!!」
土煙が晴れ、目に映るのは瓦礫の山。
そして……静かに近寄る二人の人影。
「こんな罠に引っかかってくれるなんて、馬鹿なのかなあ」
「なんにせよ、手間が省けたよ。ありがとね」
アリスとエリスだ。もはや隠すつもりも必要もないのだろう、堂々と魔力を漲らせている。
「セレン!ディーヴァ!」
二人に声をかけるも、反応はない。
「あははは!見たでしょ!もう死んでるよ!」
「粉々になって溶けちゃったんじゃない?うふふ!」
「ぐ……くそっ!」
双子の醸し出す圧力に、ガレットはやはり身動きが取れなくなる。
(どうする……)
◆
ガレット達が魔法攻撃を受けたのと同時刻。魔族の魔力にのみ探知を限定していたフィーリアも、その異変を感知していた。
(誰かがあの双子と戦ってる……でも今は、それが誰かまでわからない)
始まったもうひとつの戦いも気になるが、今はそれどころではない。
「早く見つけないと……」
空を飛ぶフィーリアの下でも、戦いは始まっていた。
(ミュールの言った通りになっちゃった。……何とか耐えて!)
「どうした。そんなものか、人間の魔法使い」
グリべーの眼前には、膝をつき息を荒らげるミュールの姿があった。
「はぁ……はぁ……うふふ。やっぱり魔族は強いわねぇ……楽しくなってきちゃった」
逆境に立たされながらも、ミュールはなお笑う。
「お次はこちらからいくわよ……私、こう見えて器用なの」
その目は魔族にも引けを取らないほど、怪しく輝いていた。




