第14話 開幕!魔術大会!
流されるまま魔術大会に参加することになった二人。しかも、なんと出番はトップバッター!相手はまだ幼さの残る少女二人。
二人は冒険者として、エルフとして、強さを見せつけることが出来るのか!?
「ふわあああ……すごい人だかりだねぇ」
「こんな日でもお前は本当に変わらないな。リリンは用があるって先に行っちゃったぞ」
大きく欠伸をしながらフィーリアはキョロキョロと辺りを見回す。確かに昨日も人が多いなとは思ったが、今日はその比ではない。
「そんなにでかい大会ってことか。しかし、お前も知らない大会なんだろ?」
「うん。初めて聞いたよ。リオモアを出てからあまりこの地方に来てなかったけど、やっぱりもっとこまめに色々回るべきだねぇ」
一体それは、どのような時間の感覚で言っているのだろう。少し聞いてみたい気もするが、なんとなく察しもつくのでやめておいた。
「よーし。とりあえず受付に行くか。……もう参加者もずいぶん集まっているようだしな」
ガレットの視線の先には、明らかに観戦に来た人々とは違う雰囲気を纏う者たちの姿がある。年頃も様々だが、放つオーラは皆一様に強い。
「みんな強そうだねぇ。でも、優勝は僕たちが貰うよ!」
はしゃいでいるのは、うちのエルフ一人だけ。思いっきり悪目立ちしているが、本人にその自覚がないのがまた怖い。
「……おい、ちょっと落ち着け!めちゃくちゃ目立ってるぞ!」
「え?どうせこの後目立つんだから一緒だよ!あ、みんなよろしくねー!楽しく勝負しよー!」
この人は自分がエルフであることを忘れてしまったのだろうか?下手をしたらとんでもない煽りになってしまう。
そんな様子にヒヤヒヤしながら、ガレットは出場者の方に目をやる。
しかし、彼らの反応は予想とは違った。
「……ほっほ」
「くす。可愛いエルフがいるね」
「……倒すのみ」
誰一人、揺さぶられている人はいない。
「……おお、効果なしか。良かったやら良くないやら……」
ホッとしたのもつかの間、それは新たに強敵の予感をガレットに植え付けた。
「よし!じゃあ受付済ませて、中にいくよ!」
「でもやっぱり、お前がいちばん強いよ……色んな意味でな」
フィーリアはズンズン進んでいく。それに引っ張られるように、ガレットは肩をすぼめながら、ちょこちょことあとをついて歩き始めた。
(俺、完全にオマケじゃん……ま、いいか)
◆
二人は受付を済ませると中の方へ通された。そこには四方を客席で囲った巨大な闘技場が広がっている。
「大きいねえ!ここでみんな戦うんだね!」
「でっかいなあ……なるべく目立たないようにしよ……」
しばらく会場を眺めていると、突如アナウンスが響く。
「会場の皆さま、大変長らくお待たせいたしました!只今より開会式を執り行います!え〜それでは、まず初めにハリマークのギルドマスター・レイブン様よりお言葉を頂きたいと思います!」
「いいぞー!」
「早く始めろー!」
ただのアナウンスだというのに、既に会場の熱気は最高潮だ。こんなに盛り上がるイベントだったなんて聞いてない。魔法使いではないガレットは、さらに肩をすぼめ、小さくなった。
そして、一人の壮年の男が壇上に上がる。
「――ギルドマスターのレイブンだ。ここに集まった各地の力自慢よ……数年に一度のこの祭り、心ゆくまで魔法をぶつけ合ってくれ。新たな強者が拝めることを期待している!」
「この街のギルドマスターは随分おっさんだなぁ……」
「見た目はね……でも」
フィーリアはゴクリと息を飲みこむ。
「あの人、ここにいる誰よりも強いよ。多分、ガレットじゃ逆立ちしても勝てないくらいに」
「……出る側じゃなくて良かったな」
魔法使いは相手の魔力を読み取り、実力を測る。だから、あえて流れる魔力を抑え擬態する人も少なくない。だがレイブンの魔力は微塵も隠れる様子はなく、あまりにも堂々としていた。
「レイブン様!ありがとうございました!出場者の皆様も、観客の皆様も気合いが入ったことでしょう!それでは早速試合に入らせて頂きます!今大会はトーナメント方式となっております!今から控え室に表を貼り出しますので、ご自分の位置を確認してください!それでは、記念すべき第一試合は――」
「フィーリア&ガレットVSムスカ&ミレルタ!」
「おおおお!一試合目だって!いい感じだね!」
「……初っ端かよお」
フィーリアはやる気満々だが、ガレットは頭を抱えている。もはや、全て仕組まれているんじゃないかと思うくらいだ。
「両チームは闘技場に残ってください!その他のチームは一度控え室にお願いします!」
ゾロゾロと退出していく出場者たち。そんな中、一人の女性がフィーリアに近寄ってくる。
「――頑張ってね、可愛いエルフちゃん」
「ありがとう!頑張ります!」
そう一言だけ声をかけると、そのまま手を振り去っていった。
「それでは早速ですが両チーム、準備はよろしいですか!?」
号令に合わせ、相手の二人も杖を構える。
(二人とも女の子の魔法使い……そりゃそうか。しかし、まだ十代半ばくらいか?)
まだ幼さを残す二人は、構えながらも苦笑いしていた。
「初戦からエルフが相手なんて……私たちも運が悪いな?」
「そうだね。でもさ、それなら逆に……ね?」
「ああ。一ミリも遠慮なくぶっぱなせるな!」
きっと二人はフィーリアの強さに気づいている。しかし、それをいい機会と捉える心の強さは、さすがこの場にいるだけのことはあるようだ。
「全力でやろうね!よろしく!」
「なんか変なエルフだけど……いいね!」
「楽しくなってきたよ……」
「どうやら準備は万端なようです!再度確認しますが、過剰な攻撃と故意の殺害は禁止です!それ以外はルールなし!それではいきますよ……!」
会場が一瞬の静寂に包まれる。
「第一試合!フィーリア&ガレットVSムスカ&ミレルタ……開始!」
――そして開戦のゴングが鳴り響いた。
その瞬間――
「――魔力の光!」
奇しくも三人は同時に同じ魔法を放った。それは闘技場のど真ん中で激しくぶつかり、爆ぜる。その衝撃で闘技場は客席まで土煙に包まれた。
「うわあ!す、すげえ威力だ……」
「……ふふ、将来有望だね」
フィーリアは笑みを浮かべながら再度杖を構える。すると突如、土煙から死角を狙いミレルタが現れた。遠距離からの撃ち合いを不利と判断し、即座に敵陣へ突っ込んだのだ。
「いくよ大先輩……腕力を上昇させる魔法!」
なんと、彼女が選択したのは肉弾戦。魔力で強化した腕で振るう杖がフィーリアを襲う。
「ふふん。それは少し焦ったね?僕の相棒を忘れてもらっちゃ困るよ!」
キィン!
「ななっ……受け止められた!?」
間に入ったガレットが杖の一撃を受け止める。
(女の子と思って油断しなくてよかった。強化された分、見た目より遥かに重い!)
「仕事をくれてありがとよ!……悪いな、この剣も特別製なんだ……よっ!」
剣を振り抜くとミレルタはひらりと後方へ飛び、入れ替わるようにムスカの射撃がガレットを襲う。
「あぶねっ!いいコンビネーションだぜ……」
「ただの剣士だと思って油断したよ!兄ちゃんも強いな!」
声が響く。しかし、既にその姿はどこにも見えない。
「戦い慣れてるな……フィーリア、こっちからも攻めるぜ」
フィーリアは目を閉じ、意識を集中していた。ガレットが声をかけるとスっと目を開き、笑う。
「探知完了!さあ……まずは視界を晴らしちゃうよ!……吹き飛ばす魔法!」
瞬間、一陣の突風が闘技場を通り抜ける。それは、綺麗さっぱり土煙を持ち去った。視界は戻ったが、二人は見当たらない。
「上からくるよ!伏せて!」
「気づくのが遅いよ!」
「撃ちまくれぇ!」
直後、上空から無数の弾幕が襲いかかってくる。しかし、フィーリアはすでに魔力を探知し、防御結界を展開していた。二人の攻撃はことごとく弾かれ、結界を突破するに至らない。
そして数秒後、攻撃は収まった。
「ぜ、全部防がれちゃった……」
「硬すぎるだろ!なんだあの結界!」
決めるつもりで魔力を放出したのだろう。二人の息が上がっている。
「止まった!ガレット、そのまま真上に撃って!」
「おう!」
重心を少し落とし、息を吐く。今は違うけど、昔は魔法使いを目指してたんだぜ。そんな思いを込めて、ガレットは空へ剣を振り抜いた。
「上手く飛んでってくれよ……剣戟を飛ばす魔法!」
地上から飛翔するその一閃。もはや彼女たちに、それを防ぐ術は無かった。
「な、なにい!」
「速い!……避けきれないね」
ズドォォォン!!
ガレットが放ったそれは、見事二人に命中した。 直前に防御を挟んだことで直撃は免れたようだが、二人は力なく地面に落ちてくる。
「――はいっ。決まったね、ガレット」
指をクルクルさせながら落ちてくる二人を魔法で受け止め、フィーリアは満面の笑みを浮かべている。
「……ったく。上手く立ててもらっちまったな」
その瞬間、客席から怒涛の歓声が鳴り響いた。
「け、決着ゥ〜!!!!勝負を決めたのはエルフのフィーリアではなく、剣士のガレットだ〜!!これが魔法剣士というやつなのでしょうか!見事な一撃はまさに戦況を一閃しましたぁ!!」
実況もだいぶ熱が入っている。……んな大袈裟な、と心の中で思ったものの案外悪い気はしない。
「ガレット〜!!!!かっこよかったぞ〜!!!!」
「フィーリアちゃんも可愛いわ〜!!!!」
無数に送られる賛辞に、フィーリアはデレデレだ。
「いたた……もうちょい善戦出来ると思ったけど……完敗だね」
「まさかお兄さんがあんな一撃を放ってくるとは思いませんでした……お見事です」
ムスカとミレルタも無事なようだ。負けたばかりだというのに、その顔はどこか嬉しそうに見える。
「二人も強かったよ!戦い慣れしてるし、十年も修行したら完璧なコンビになれるよ!」
「私らにとって十年は先が長いっての……でも、ありがとう。いい経験が出来たよ」
「またいつか……強くなったら手合わせしてくださいね」
こうして四人は握手を交わし、舞台を後にした。
◆
「ねえねえ!君たち何歳なの!?姉妹!?二人とも可愛いねぇ〜!」
試合後、用意された控え室に入ると一足先に戻っていたムスカとミレルタが視界に入った。二人の顔を見るなりフィーリアは目を輝かせて近づいていき、まるで酔ったおじさんのようなだる絡みを見せていたのだ。
「普通試合で負かした直後のやつにこんな質問攻めするか?」
「ううん。でも、フィーリアさん可愛いし……嫌じゃないかも」
二人も満更でもなさそうにフィーリアを受け入れている。女子三人が楽しくお喋りしているところに入り込む勇気は当然この男――ガレットにはない。
「おーい!ガレットさーん!」
「あ、リリンだ」
しばらく三人を見守っていると、用事を済ませたリリンが駆け寄ってきた。
「お、遅くなってすみません!でも、無事に一回戦は勝てたみたいですね!……あれ?フィーリアさんは?」
「お疲れさま。どうなる事かと思ったけど、無事にな。フィーリアはあそこで歓談中」
「……あの二人対戦相手ですよね?現代のエルフはそんなにコミュニケーション能力が高いのでしょうか……」
「いや、多分あいつだけ。それより、次の試合は……と」
リリンが不思議そうにフィーリアの様子を見ている横で、既にガレットは次の試合のことを考えていた。一度勝てば終わり、ではなく負けるか優勝するまで続くのだ。相手のことを知っておかなければ、いざという時足をすくわれることになる。
「うーんと……セレン&ディーヴァVSノックス&インツォール」
もちろん名前は聞いたことがない。しかし、その名前にリリンが反応する。
「ええ!?その組み合わせなんですか!?」
「なんだ?なんかあるのか?」
ガレットがそう聞くと、リリンは引き気味に笑いながら答えた。
「いやあ……なんか熱くなりそうだな……って。あはは……」
訝しげにリリンを見つめる。しかし彼女がそんな反応をした理由は、第二試合が始まるとすぐにわかった。
◆
「――な、なんだこいつらは!」
「な、なんて熱い戦いじゃ!」
まだ始まったばかりのこの大会。一筋縄ではいかなさそうだ。




