第13話 冒険者の街・ハリマーク
ミスリル発掘から一夜明け……二人は揃って襲い来る苦痛に耐え忍んでいた。
そう、それは筋肉痛。
流儀に則り、ツルハシを振り回した結果だ。
そして、そんな二人にとある人物が尋ねてきたという一報が入る。
全く心当たりのない二人だが、その人物とは……
第12話 冒険者の街・ハリマーク
数日前、到着すると同時に素通りした街、ハリマーク。シルスから聞いていた通り、あちらこちらに冒険者らしき人が大勢歩いている。
そんな中、この二人はというと――
「ね、ねえ……ガレット……」
「な、なんだよ……」
「呪いかなんか貰っちゃった……のかな……」
「あのなあ……これは……ただの筋肉痛だよ」
宿屋のベッドに横たわり、筋肉痛に悩まされていた。
「お、お宝の代償は……大きいねえ……うぐぐ」
「あれだけやったからな……いててて」
二人が横たわり苦しんでいるその時、不意に部屋のドアをノックする音が聞こえた。
――コンコン
「はぁい……誰ですかぁ?」
蚊の鳴くような声でフィーリアが返事をする。
「失礼いたします。お客様がお見えですので、お伝えに参りました。ただいまロビーにてお待ちいただいておりますので、よろしくお願いいたします」
「そんな知り合い……いてて。いないんだけどなぁ……」
ドア越しに宿屋の店員が淡々と要件を伝える。しかし尋ねてきたという客人に、二人は全く心当たりがない。
「と、とりあえず行ってみるか……あいててて……」
「そだね……うう、身体バキバキだよぉ」
揃いも揃ってまるでお年寄りのように腰を曲げ、二人はよちよちと歩き出した。
◆
ロビーに着いてそれらしい人を探すものの、やはり知った顔は見当たらない。いたずらの線も考えたが、ピンポイントで狙われるのも変な話だ。
「一体誰なんだよ……おや?」
「ねえ、なんかこっちに手振ってる人いない?」
行き交う人の中、ぴょんぴょん飛び跳ねながらこちらに手を振る女性が目に入った。
「おーい!そこのお二人様ー!こっちですよー!」
「……知り合い?」
「ううん……知らない人だ……」
するとその女性は人の波をずんずんと掻い潜り、二人の元までやってきた。
「はじめましてー!私はこの街のギルドに所属してるリリンと申します!お二人が、シルス様に推薦されたガレットさんとフィーリアさんですよね!?」
「……推薦?」
「一体なんのこと?」
「……え?」
その瞬間、三人の時間は止まった。
それから少し後、場所を変えて話すこととなり近くの店に移動すると、リリンは気まずそうに話を始めた。
彼女の話を聞くと、近々この街でとある大会があり、そこに二人で出場してほしいとのことだ。
「ええと……まさか聞いてないとは思わなかったですけど……」
「……二回目だぞ」
「シルスさんて、思ってるよりかなりやり手?」
どうやら、またしてもしてやられたらしい。一体彼女はどこまで手を回しているのだろう。
◆
「――ってところかな?旅に刺激を与えるのも、年長者の役目さ。――しかし」
シルスは書類を整理しながら、一枚の紙を手に取る。
そこには、赤字でこう書かれていた。
【魔族討伐要請】
「こちらも話が大きくなってしまったな……避けては通れない道、か。果たして、どうなるやら」
◆
「魔術大会?」
「はい!数年に一度この街で開催しているもので、腕に覚えのある魔法使いがこぞって参加します!是非、フィーリアさんに参加して貰えないでしょうか!?」
「唐突だなあ……どうする?フィーリ……」
ガレットがやや難色を示しつつ振り返ると、そこには既に手を挙げ満面の笑みを浮かべる彼女がいた。これでは聞くまでもなさそうだ、全て顔に書いてある。
「……出るってさ」
「やったー!ありがとうございます!それでは早速ですが、ご案内するのでこれから会場でエントリーをお願いします!」
「ち、ちょっと待て。その大会っていつ始まるんだよ?」
トントン拍子で決まってしまい、何も確認をしていなかったガレットは慌てて日にちを問いただす。するとリリンは途端に冷や汗を流し、呟くように小声で答えた。
「……明日です」
「明日ぁ!?いくらなんでも急すぎるだろ!」
「し、仕方ないじゃないですかあ!私だってこの数日間ずっと探してたんですよ!?もうとっくに着いてるはずなのに、探しても探しても見つからないし!」
「それは……」
心当たりしかないガレットは何も言い返せない。到着と同時に街を素通りしてしまったのだから、いくら探しても見つかるはずはないのだ。そんなこと知らん!と言いたいところだが、健気に何日も街を探し歩いていたと思うと少し心が痛む。
「まあまあ二人とも。僕はなんの問題もないよ?話聞いてたら筋肉痛も治ってきた気がするし!」
当の本人もこれなのだから、もはや何も言うことは無いだろう。
「うう……ありがとうフィーリアさん。……ちなみに、大会終了まで私がお二人をサポートします。大船に乗ったつもりでいてください!」
「お二人?俺は観客側だろ?」
「いえ?今大会は、二人一組ですよ?」
「なんで先に言わないの……」
「あれ、言ってなかったでしたっけ?それは失礼いたしました」
「てへっ」と舌を出すリリン。その開き直った様子に、もはや怒る気も失せてしまった。
「二人一組なんて最高じゃん!絶対優勝できるね!」
「……わかったよ。やるよ。でも、俺は魔法使いじゃあないからな?」
「それは問題ないですよ!一人魔法使いがいればそれで大丈夫!」
(はぁ……なんでこんなことに)
なんとなく、ガレットは嫌な予感がした。
◆
街の北側にその会場はあった。ギルドに併設されているそれは、随分多くの観客を収容出来そうな大きさだ。
リリンの案内の元、二人は受付を済ませる。
「――はい。それでは受付を完了させていただきます。明日は十時頃には会場にお越しください」
「やれやれ、息付く間もないとはこのことだな」
「ふふふ。でも、色々経験出来ていいじゃない?」
「お前はか弱いのかタフなのかわからんぞ」
「その時々だよ!」
やる気に満ち溢れているフィーリアは、本当に筋肉痛などどこかへいってしまったようだ。
「……で、聞いた話をまとめると要するに二人一組で戦って、降参させるか行動不能にしたら勝ち。故意の殺害や過剰な攻撃は失格となる。……だよな?」
「やり過ぎないようにだけ注意しないとね!」
「まあ、お前以上の魔力を持つやつなんか同じエルフでもなきゃそうそういないだろ。手加減を忘れるなよ」
そう、ガレットは彼女の魔法に絶対の信頼を置いている。普段はこんな調子だが、戦闘になれば千年の経験と膨大な魔力で敵を圧倒する。正直、こんな大会に相手になるような魔法使いがいるとは思ってなかった。
「油断はしちゃダメだよ?今の時代は人間にだって、恐ろしく強い魔法使いは沢山いるんだから」
「うーん……あんまりピンと来ないけどな」
「ガレットって、意外と情勢に疎いのかな?」
「そうかもな。そんなことに見向きしてる暇があったらダンジョンに潜ってたし」
フィーリアはため息をつきながら「やれやれ」と言いたげなポーズをとる。
「あのね、ここ最近魔族が大人しいのはどうしてか知ってる?」
「……それどころか、魔族が大人しいのも知らなかったけど」
「それは、急速に人間が力をつけてきているからなんだよ」
「ちょ、無視しないで」
「今までも生まれる種族を間違えたような強さを持つ人は確かにいたけど、この百年くらいの進歩は目を見張るものがあるよ。たとえ魔族といえども、安易なことは出来ないくらいにね」
「ほぉん……そうなのか。なんでそんなに急に進歩出来たんだ?」
「魔法ギルドが発達したからだよ」
魔法ギルド。歴史はまだ浅いが、各地の魔法使いが集まっては日夜研究に勤しんでいる、と聞いたことがあるがその拠点自体はまだ少なく、剣士のガレットには縁のない場所だった。
「その辺の学校で十年教わるより、魔法ギルドで一年過ごす方が強くなれる――と言われてるくらいだからね」
「そりゃあ凄いな……だから今の時代には、隠れた強い魔法使いが沢山いると」
「そういうこと。わかればよろしい」
彼女はニッと笑う。確かに、縁がないとはいえ考えたこともない。魔法使いのことも、怒られない程度に調べとかないといけないな……と心の中で反省をしたガレットだった。
「で、お前は明日に向けてなにか準備することはないのか?俺は逆にもう何もしないつもりだけど」
そう、こういう時は焦ってあれやこれやしても仕方がないのだ。そんな時は、いつも通りの自然体でいるのがいちばん精神的にも良い。
「そうだね……たくさんご飯食べて、大きいお風呂に入って……ゆっくり寝る……かな!」
「いつも通り、ってことな」
「えへへ。そのとおり」
二人の考えていることは同じだった。アクシデントもイベントも、いつも通り乗り越えて、楽しむ。きっとそれができるのも一人じゃなくて二人旅だから。
しかし――二人はまだ知る由もなかった。
明日からの魔術大会が、荒れに荒れることを。
そして……ガレットが抱いた嫌な予感が、現実になることを。
ぬるっと新章突入です!ここから話は大きく動いていきます。
二人の前に一体何が現れるのか……乞うご期待!




