第12話 君となら、この先もずっと
タイムリミットが迫る中、二人は懸命にミスリルを探す。しかし、どうにもこうにも人手が足らず疲労困憊の中困り果てていると、そこに現れたのは……?
そして、少しずつ。本当に少しずつ変化を見せるガレットとフィーリアの関係性。
目を離せない、渾身の一話がここに……
鳥の鳴く声だけが聞こえる静かな朝。ガレットはテントに差し込む朝日に照らされ目を覚ました。ふとテントを見渡すと、既にフィーリアの姿はない。
「……珍しいな。どこいったんだろ」
欠伸をして外に出る。街の様子は昨日と変わらず、静かなままだ。
(……そりゃ当たり前か)
そんなことを考えながら一人歩いていると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「この声は……あいつの歌だ」
引き寄せられるように声の方へ進んでいくと、広場にたどり着いた。確かここは、かつての坑夫たちが仕事終わりに薪をくべ、肩を並べて歌をうたった場所だ。
その広場の中心に、彼女はいた。
「――恵みの天に祈ろう。我ら、炎を灯す」
いい歌声だ。何故朝っぱらから歌っているのかはわからないが、水を差すのも野暮かと思い、ガレットはしばらく隠れて聞くことにした。
「忘れるな、山を離れても。我らの宝は……」
「――ここにある」
そこまで歌うと「ふぅ」と息を吐いた。
――パチパチパチ
そんな彼女が耳にしたのは、不意の拍手。もちろん、それを送ったのはガレット。
「ツルハシラプソディーの続きか?……朝からいい声を聞かせてもらっちゃったな」
「ガ、ガレット!いつの間に……」
まさか聞かれていたなんて……と言いたげな表情で顔を赤くしている。
「ついさっき起きて歩いてたら聞こえてきたもんだからつい……盗み聞きしたみたいで悪いな」
「気づいてないところで聞かれるのって恥ずかしいね……でも、褒めてくれてありがとう。えへへ」
「つい聴きたくなる、そんないい声してたぜ。ところで、今の歌って……」
「気づいた?ツルハシラプソディーの続きだよ。……何かヒントがないかなあと思って思い出してたんだ」
「宝はここにあるか。ふふっ、まさかな」
あまりに安易な想像をしてしまった自分を鼻で笑う。しかし、万が一……ということもあるのではないだろうか?そんな思いが、彼の頭で膨らんでゆく。
「フィーリア、ミスリルの特性って知ってるか?」
「うーんと、魔力を留めることが出来る。だっけ?」
「半分正解。ちょっとこっちに来てくれ」
広場の中心に立ち、手招きをする。
「ここの真下に、魔力を流し込んでくれないか?思いっきり」
フィーリアは唐突すぎて、首を傾げている。
「なんでまたそんなことを?」
「仮説が正しければ……だよ。いいからほらっ」
「うーん?じゃあ、やってみるよ?――せぇのっ!!」
掛け声とともに一気に魔力を練り上げる。彼女が身に纏う魔力は、きっとガレットが一生をかけても辿り着けない程の量だ。
「それじゃ、いくよ!――そーれっ!!」
両手を地面に置いて、一気に流し込む。すると、足元から不思議な光が立ち込めてきた。
「いやあ……安直なのも、案外バカにできないものだな……」
「なになに!?どういうこと?」
「答えはシンプルだったってことさ。さっきお前の歌を聴いてピンときたよ。……自信はなかったけどな」
注がれた魔力はやがて、何かを象るかのように線となり広がってゆく。
「ミスリルは、注いだ魔力に応じて光を放つんだ。もう見えてるだろ?ずっとこの下に眠り続けてた……お宝が!」
「こ、これは……まさか鉱脈!?」
光の線が象るそれは、まるで上から見下ろす鉱脈のようだ。しかも、広場中を埋め尽くすほどに大きい。
「全然知らなかったよ……魔法を使う人がほとんど居ない街だったから、僕もズルする時しか使わなかったし……」
「まあ……気づかないのも無理ないだろうな。坑夫たちもまさか自分らが毎晩集まるここに、こんなものが眠ってるなんて思いもしないだろ」
「ははあ……灯台もと暗しってやつだねぇ。それでガレット、どうやって採取するの?」
「ん?そんなの決まってるだろ」
親指を立てて、笑顔で言い放った
「掘るんだよ!魔法はナシだぜ!この街のやり方に則って……汗水垂らして石を掘る!」
「おお……燃えてるねぇ……僕も頑張っちゃおうかな!」
フィーリアはニヤリとしながらツルハシを二つ取り出した。一つは使い古された彼女のものだ。
「二つも持ってたのか?使わせてもらうぜ」
「予備だよ予備!……さあ、いざ!」
寝起きであることも忘れて、二人は一心不乱に地面を掘り始めた。
もうお宝は目の前にある……その事実に胸の高鳴りは抑えられなくなっていたのだ。
◆
――数時間後。
意気揚々と地面を掘り始めた二人だったが、その作業は恐ろしく難航していた。
「ぜぇ……ぜぇ……い、今どれくらい掘れたんだ?」
「ふぅ……ふぅ……んんと……一メートルくらい?」
二人が掘った穴は、人が一人入れるかどうかの小さいものだ。決して舐めていたわけではないが、ここまでとは思っていなかった。
「気が遠くなるな……こういう時人手が欲しくなるな」
「そうだね……僕はか弱いし魔法も禁止されてるから思うようにいかないよ」
(自分でか弱いって言ったぞ……)
「ん?なんか言った?」
「い、いや何も……アハハ……」
そんなやり取りをしながら二人は座り込んで休憩をしていた。
(あと一日で掘れるのかよこれ……)
穴を眺めながらガレットが項垂れる。フィーリアは舌まで出してへーへーしていて、まるで疲れきった犬のようだ。
だが、そんな二人にも希望の光が舞い降りる。
「おーい!ガレット様〜!フィーリア様〜!」
他に人が居ないはずの街に、三人目の声が響いたのだ。
「この声……スベル!?」
「はあ……はあ……ようやく着きました!」
息も絶え絶えに叫ぶその姿は大汗でぐしょぐしょだ。
「着きましたってお前……仕事はどうしたんだよ?」
「そうだよ!来ちゃって大丈夫なの?」
二人は彼の仕事の心配をする。船乗りは停泊期間でも、物資の調達や整備などで本来は休んでいる暇など無いはずだ。
「はあ……ははっ。船長に無理言って停泊してる間暇をもらいました。……やっぱり、人に任せっきりじゃ先祖に顔向け出来ませんから」
笑顔でそう言い切った。きっと熱い心をそのままにしておけなかったのだろう。
「まあ……ミスリルを持ち帰ることが条件ですけどね。持って帰れなかったら、コレです。見知らぬ土地でポイされない為にも、頑張りますよ!」
そう言いながら自分の首を切るように親指でなぞった。
「よくやるなあ……でも、嫌いじゃないぜ。」
「熱い男だ……!頑張らないと!」
スベルの人生をかけた行動に二人は感化され、立ち上がった。
「ちなみに朗報があるぜ、ミスリルはこの地面の下にある。もっとも、どこまで掘れば出てくるのかはわからないけどな」
「ちょうど人手が欲しかったんだよ〜!さあ、仕切り直して頑張ろう!」
と、意気込んだ瞬間。
――ぐきゅるるる……
彼女の腹の虫は正直だったらしい。
「あ……でも、その前にお昼ご飯……食べたいかも」
「……ぷっ」
「……フィーリア様……ふ、ふふっ」
気持ちはわかる。しかし、二人は笑いを堪えきれなかった。
「わ、笑わないでよぉ!二人もお腹すいてるでしょ!」
フィーリアの顔は、朝歌っているところを見られた時より、何倍も赤くなる。
「ははは……随分と可愛らしいエルフさんなんですね。ちょっと意外です」
「だろ?うちのエルフは変わり者なんだ。でも、この感じに救われることも多いんだぜ」
「あー!ガレット今僕のこと可愛らしいって言ったね!聞いちゃったよ!」
真っ赤な顔のままガレットを指さす。反撃のつもりなのだろうが、どこからどう見ても自分の首をしめてるようにしか見えない。
「そうだな、そう言ったことにしといてくれ。んじゃ、飯作るぜ。スベル、手伝ってくれ!」
「承知いたしました!」
「あ……が……ぐ……」
どうやら疲労と溜まった熱でフィーリアはおかしくなってしまったようだ。その後しばらく一人でガギゴギ言っていた。
◆
「――ふぅ。生き返ったな」
「ガレット様、料理がお上手なことで……」
「凄いでしょ!ガレットは意外と家庭的なんだよ!」
昼食を終える頃にはフィーリアもすっかり元に戻っていた。きっと、魔力を大量に使ったせいでスタミナが切れていたのだろう。
「意外と言うな!……さあ、腹も膨れたところで本腰入れますか!」
「よーし!一気にいっちゃうよ!」
「私も船乗りとして鍛えた身……全力でやらせて頂きます!」
そこからの三人は凄まじく、時間が経つのも忘れ穴掘りに没頭した。もっとも、約一名早々にへばってしまったのは言うまでもないが……
――そして、夕暮れ。
カキャン!
スベルの振り下ろしたツルハシが今までとは違う音を奏でた。
「今の音は!」
「ああ……ようやくお目見えだぜ。これが……」
「ミスリル!?」
三人が掘り起こした穴は気づけば巨大なものとなっている。その真ん中に、緑色に輝く石が姿を見せた。
「……凄い。初めて見る輝きです」
「そうだな……よし、ラストスパートだ」
「僕も頑張るー!」
そして、日没。
「……ははっ。虹の鉱石に続いて……大当たりだ」
「ほ、ほんとだね……ふぃー……ふふっ」
「感無量ですね……」
三人の眼前には、暗くなった街に輝く見事な鉱脈が広がっていた。
「これが先祖が見られなかった景色……とうとう」
「ああ、自信を持って顔向け出来るぜ」
「ふふふ。綺麗だねぇ」
三人は多くを口にせず、しばらくの間その輝きを目に焼き付ける。それほどまでに、ミスリルの輝きは美しかった。
「さて、それじゃあ遠慮なく採取させてもらうとするか」
「そうですね……でも」
スベルは俯くと、少し間を開けて口を開く。
「実は、私がこれに拘ったのは先祖の想いだけが理由じゃないんです」
「んん?どゆこと?」
「私の生まれた村は貧しく、日々生きるだけでも苦労の絶えない場所でした。さらに私の家は大家族でして、そんな日常を送る家族を少しでも助けられたら……と船乗りになりましたが、なかなか満足する額を送ることは出来ず……」
「そんな時、お二人が現れて正直思いました。今しかない……と。ですが、卑しい私の心は素直に全てを伝えられませんでした。……情けない話です」
「なんだそんなの、別にいいじゃんか。な?フィーリア」
「うん。そんな思い詰めることじゃないよ?ご先祖さまが残してくれた宝物じゃん!」
「……はぁ」
スベルは本気で思い詰めていた。ここまでしてもらっておいて、本当の理由を隠したままだなんていられない……そう思って自身の事情を白状したのだが、二人の反応は思っていたものと随分違った。
「これだけあるんだ、随分家族に楽させてあげられるだろ?折角頑張って掘ったんだ。もっと喜んどけって!」
「そうそう!僕も頑張ったかいがあったよ!」
(なんて……純粋な方達なんだろう)
二人の言葉にスベルは何かが込み上げてきた。たまらず目頭を手で押え、嗚咽する。
「うっ……ありがとうございます……ありがとうございます……」
「泣くなって。お前が希望を捨てないでいたから俺たちは出会えたし、ミスリルにも辿り着けたんだ。むしろ、こんな良いもの見せてくれて感謝したいくらいだよ」
「ガレット様……」
「後ろめたいことなんかない!僕たちに託したスベルの直感は正しかった!でしょ?」
「フィーリア様……」
涙は止まらない。それでもスベルの口角は上がった。
(私は……自分を信じて良かった)
その後、採掘したミスリルは《カセラ・プセラ》で異次元に収納した。ハリマークで素材屋に売れば、とてつもない額になるであろう量だ。
「あの、おふたりは本当にいらないのですか?」
恐る恐るスベルが問いかける。
「くどいぞ。俺たちは金に困ってないし、必要なところで使ってくれればそれでいいさ」
「ちょっと記念に欲しい気もするけど……ガレットの言う通りかな。えへへ」
「全く……なんて懐の広いお方達でしょうか。このご恩は、必ずお返しいたしますよ」
スベルがそう言うと、フィーリアはニヤッと笑ってこう言ったのだ。
「じゃあさ……みんなで歌ってくれない?リオモアと僕の思い出の歌、ツルハシラプソディーを!」
――我ら、山に生かされ。我ら、命を燃やす。恵みの天に祈ろう。我ら、炎を灯す。
忘れるな、山を離れても。我らの宝は……
ここに、眠ってる。
◆
「ガレット様、フィーリア様、本当にお世話になりました」
スベルはピシッと頭を下げた。日が昇り、街に戻った三人が素材屋へ直行し換金を行なうと、目玉が飛び出るような額で買い取ってもらうことが出来た。
無事に故郷への送金手続きも済み、スベルの顔は晴れ晴れとしている。
「燃え尽き症候群には注意だぜ?お前の旅も、まだまだ続くんだろ?」
「ええ、最初は稼ぐためにはじめましたが、やはり私は海が好きです。様々な出会いや、別れ。皆さまの人生の大事な一瞬に関われるこの仕事は私の誇りです。……お二人との出会いは、私の生涯の宝物です」
「ああ、俺もだよ」
二人は固く握手を交わす。
「あ!ずるい!僕も混ぜて!」
「ははは。ほんとに千年生きてるなんて信じられないくらい明るい方ですね。でも、その明るさと前向きな心はきっとガレットさんを癒し、背中を押す大きな力になりますね」
「ええっ!?……そうなの?ガレット……」
何故か自信なさげにチラリと後ろを振り返る。
「おいおい、こういうことは本人に聞くもんじゃないだろ……でも、その通りかもな」
「かもってなに!かもって!」
「あはは!……では、そんなお二人に私からプレゼントです」
スベルが取り出したのは、二つのネックレス。その中心には緑色に輝くミスリルがはめられている。
「こっそり売りに出さずに取っておいたものを使って、装飾品屋で加工してもらいました。」
「すごーい!お揃いのネックレスだ!僕お揃いなんて初めてだよ!?」
既にフィーリアは目を輝かせて喜んでいる。
「手の込んだことを……けど、ありがとう」
「お二人の旅に、一瞬でも混ざれたこと。恩義とともに一生忘れません」
「ああ、また会った時は世話かけるぜ」
「絶対また会いに来るから!」
「はい!……それではお二人とも、お元気で」
こうしてスベルは、再び大海原の旅に戻っていった。
「んーー!なんだかいい気分だよ、僕」
そう言いながらフィーリアは身体を伸ばす。その気持ちは、ガレットも同じだった。
「そうだな。……でも、正直今回は疲れたぜ。ツルハシはしばらく遠慮願いたいな」
「そ、そうだね……ねぇ、ガレット」
「ん?」
いつものように名前を呼ばれ、何気なくフィーリアの方を振り向く
――その瞬間。
「――はいっ」
フィーリアは、ミスリルのネックレスを優しくガレットの首にかけた。
「……な、なんだよ」
思いがけない行動に困惑が隠しきれない。何故自分じゃなくて俺に?と思ったが口には出来なかった。
「んー……なんとなく?」
「……なんじゃそら」
「えへへっ。……貰いものでごめんだけどさ、いつもありがとう。君と旅ができて、僕すごく幸せだよ。……って意味を込めて……ね、その……」
「――ぷっ」
慣れないことをしたのだろう。このエルフは顔に出やすいったらない。全く、スベルの言う通りだ。
「じゃあ、お返しだな」
ガレットはフィーリアの首にネックレスをかけ、頭にポンと手を置いた。
「俺も幸せだよ。お前と旅に出たのは間違いじゃなかったって断言出来るくらいな。けど、まだまだこれからだ」
「……うん」
「これからもよろしく頼むぜ、相棒」
「うん……よろしくね!相棒!」
――少しずつお互いを知って、少しずつ縮まる距離。そこに種族の差は関係ないのかもしれない。
旅に出て、まだ短い時間しか経っていないが既に二人は互いにかけがえのない存在になりつつあった。
先の長い旅の中で育まれつつあるものが、どう変化していくのか……
それは、まだ二人でさえも分からない――
これからも、ガレットとフィーリアの旅路を優しく見守っていきましょう。
なんせ、まだ私にも、彼らにも、誰にも旅の果ては分からないのですから。




