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黒女の哭音が聞こえる ~拐かしの隠れ里~  作者: 夏風
一章 震災の轟音が奪う人の道 希望と絶望、虐待と搾取

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7 希望と失意の牛城金属工業

 震災から間もなく、震災復興優遇融資が始まった。二月に入るころには、被災した商店や工場向けの特別融資が動き出した。そして、春が訪れた。行政の支援により、ケミカルシューズ工場や町工場のための仮設工場が順々に建ち始めた。仮設工場や共同仮設店舗が整備されていった。


(仕事を再開できる目処が立ってきたな。俺も頑張らんと)


 パシン

 

 竜作は両手で頬を叩いた。行政からの支援を受け、自分の工場を持ち、長田の復興に力を尽くそう。彼は、希望に満ち、そう決心した。


 「中小企業災害復旧資金貸付制度」により、被災者は借入利率が大幅引下げられ、借入限度額は引上げられた。「阪神・淡路大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」により、工場や商店街復興などの災害復旧がすすめられた。

 

 竜作は申請窓口を通じ、仮設工場獲得を目指した。ところが申請条件は、「従前に自ら工場を所有・運営していた事業者」「被災により自力再建が困難と判断された事業者」などであり、審査は極めて厳格だった。

 

 竜作はどちらの条件にも当てはまらなかった。仮設工場は、従前事業主が対象であり、従業員だったものや、新規開業者の申請は、ほとんど通らなかったのである。

  

 竜作は「中小企業災害復旧資金貸付制度」による融資申請も試みた。震災前の住居と勤務先により、被災証明は獲得できた。一方、罹災証明は主たる事業所名義での発行のため、手に入れることは出来なかった。

 

 彼は被災証明書とともに「牛城金属工業」立ち上げのための融資を申し込んだ。しかし経験や信用、具体的な返済計画について、難色が示され、審査は通らなかった。「受注は良い仕事を行って評判で勝ち取る」との記述は、若い竜作では説得力がなかった。


「なんでや!なんで頑張ろうとしとんのに、門前払いされなあかんねん」

 竜作は、やり場のない怒りとともに書類の束を握りつぶした。


 そんな時、故川口社長の友人が、竜作が川口の意思を継ぐならと、お金と場所を提供した。竜作は小さな敷地にプレハブの工場を立て、中古の旋盤とフライス盤を購入した。大震災で一度は砕けた自らの夢。川口オヤジの継承。長田の復興。竜作は出資者に感謝しつつ、こぶしを強く握りしめた。


 震災翌年二月、牛城金属工業は誕生した。


 長田に元気を。


 みなが頑張って、町の復興に取り組んだ。復興需要により、竜作のもとにも、たくさんの仕事が舞い込んだ。建築資材の金属加工が主な仕事だった。

 

 ガス管、水道管、電柱基部、フェンス、ガードレール、マンホール蓋、橋梁部材など、都市インフラ復旧に伴う金属加工の問い合わせが、次々と舞い込んだ。暖房器具の金属部品、調理器具の金属部品、避難所向けの折り畳みベッド部品などの問い合わせもあった。

  

 竜作は汗にまみれて働いた。ようやく手に入れた自分の工場。どんどん舞い込む受注。彼は、自分の仕事ぶりが受注を呼び込んでいると信じた。これでいつまでもやっていける、そう信じていた。


 だが、現実は厳しかった……


 長田を支えたケミカルシューズ産業は、震災の影響で取引先がほとんどなくなってしまっていた。分業ネットワークも崩壊していた。

 

 復興の流れは速かった。復興特需が終わった後、仕事の問い合わせは、パタリとやんだ。壁にかけられた大きなカレンダー、そのどこにも、納期の赤い丸印が無くなってしまった。


 仕事が途切れた。


 やがて…… 仕事の全くない日々が、続くようになった……

 

 竜作は毎日工場に通った。油にまみれて機械の調整に取り組んだ。それしかやることがなかった。

 

 問い合わせの電話は鳴らなくなった。訪れる人は誰もいなくなった……


「なんでや?なんで誰も来んのや。なんで仕事が取れんのや……」

 それでも彼は、電話がかかってくるのを待った。


「いい仕事してたら、問い合わせは、おのずとやってくるもんや」

 故川口社長の言葉が、彼の心に刻み込まれていた。震災直後は、工場にいるだけで電話が鳴り響いた。それでますます、彼は川口の言葉を信じ込んだ。

 

 彼は、自分で営業活動をした経験が、まるでなかった。仕事をとるすべを、彼は全く持っていなかったのである。

 

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