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黒女の哭音が聞こえる ~拐かしの隠れ里~  作者: 夏風
一章 震災の轟音が奪う人の道 希望と絶望、虐待と搾取

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6 絶望の声、砕けし夢

「おやじ!おふくろ!」

 竜作は叫び続けた。しかし、瓦礫から返事は全く返ってこなかった…… 


(まさか!そんなはずあってたまるか!)

 竜作の心が、焦燥で満ちた。

 

 彼は、何度も、何度も、瓦礫の隙間に向かって叫び続けた。両腕で必死に柱や板をどけようとした。しかし、柱は重く、思うようにどけれなかった。手のひらにささくれが刺さった。冷たい汗が止まらなかった。十八歳の若い力も、立ちふさがる瓦礫の前では無力だった。土埃にむせながら、竜作は肩で息をした。


「そんな…… おやじ…… おふくろ…… こんなところで死ぬはずが……」

 竜作は両手両足の力を振り絞って、懸命に瓦礫をどかし続けた。しかし、ついに限界が訪れた。彼は力を使い果たし、呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

 冬空の下、何もかもが変わってしまった。町工場で修業し、やがて独立し、自分の工場を持つ。川口オヤジのように。


 竜作はそんな未来を夢見て、希望に胸を膨らませて毎日働き続けてきた。昨日までの夢に満ちた生活が、一瞬で消え失せてしまった。


 長田は老朽木造建築が密集していた。やがて、あちこちから黒い煙が立ち上がり、火の帯が町を飲み込んでいった。火災の原因は、老人が寒さをしのぐため瓦礫で焚き火をしたのが燃え広がったのだとも、ストーブの火が燃え広がったのだともいわれた。

 

 後にわかったことであるが、焚き火からの延焼は、大火災の主要原因ではなかった。石油ストーブの転倒、配電盤のショート、ガス漏れ、さまざまな火災の原因があった。それらすべてが同時多発的に、複合的に起こった。

 

 さらに工場や倉庫の燃えやすいゴム、油、化学薬品なども、大火災が長く続いた原因となった。長田がケミカルシューズ産業の一大集積地だったことが、皮肉にも火災延焼拡大の大きな原因となった……


 長田の大規模な炎は、延々と消えることなく、燃え続けた。長田の歴史であり、その繁栄を支えたゴム産業。阪神淡路大震災の牙は、それを徹底的に屠った。

 

 二日後、ようやく炎が鎮火した時、長田は焼け野原に変わっていた……

 

 竜作の住んでいたアパートも、彼が働いていた工場も、一面の焼け野原の中、いったいどこにあったのかすらわからなくなっていた。両親も、面倒を見てくれた町工場の社長も、一緒に働いた仲間たちも、みんないなくなってしまった…… 


 全国から医療チームや防衛組織、ボランティアなどが次々と駆け付けた。しかし県庁も市役所も被災して機能を失っていた。未曽有の事態に、リーダーたちの判断が追いつかなかった。せっかくの善意も救援も、受け入れ窓口を欠いたまま空回りし、すれ違いが生じた。「どこで診療してよいか分からない」「行政が要請を出していない部隊は現地入りを控えるべきだ」そんな言葉が飛び交った。


 竜作は小学校に避難し、寒い中、広い体育館で雑魚寝する日々が続いた。やがて少しづつ、行政・医療班・ボランティアの支援体制が整い始めた。数日たったころから、一息ついた避難生活を送れるようになった。熱い豚汁が、心にしみた。


(人の情け、ほんましみるわ。震災で無茶苦茶になってもたけど、みんなで助け合って、お役所からも手が差し伸べられて、ほんでまた元の生活に戻ってくんやな)


 竜作は支援してくれた人たち、一人一人に向かって、ただただ、頭を下げた。 



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