50* 悲鳴響く闇の儀式 絶望の洞
※本話には、暴力および(間接的ではありますが)性的暴行の描写が含まれます。作者の表現上の意図によるものであり、過度な刺激を与えることを目的としておりません。
苦手な方は、本話を飛ばしてください。本話の要点は、「雅と京子が男たちに拉致され、闇の儀式の犠牲にされたこと、そして謎の存在(闇神?)が彼女たちを逃がそうとしていたこと」です。これを理解していただければ、この先の話は問題なくつながります。
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コポ コポコポ
ズル ズルズル
ゲテ…… メ……テ
ルララララ
ア タ…… イ…… ミ
ニゲ…… テ……
ルララララ
「な、なに?」
潮騒の音に紛れて、声と歌が聞こえてきた。粘りつくような、くぐもったような、若い…… 女の声だった。
雅はその声を、どこかで聞いた、そんな気がした。彼女はあたりを見渡した。しかし、暗闇の中で、人の気配はまったくなかった。いや……
ホ、エッホッ
エッホ エッホ
遠くから人の声が聞こえてきた。そして…… 光の点が、いくつか見えた。光の点はゆらゆらと揺れていた。
エッホ エッホ
だんだん声が近づいてきた。男たちの声だった。光の点は大きくなり、やがて炎がはっきりと見えた。男たちが灯す松明のあかりだった。
鐘の形に編んだ竹製の格子状のカゴがかぶせられた移動用の籠が見えた。目籠、あるいは唐丸籠と呼ばれる籠だった。江戸時代、罪人の護送によく用いられた乗り物だった。
格子状のカゴの中は丸見えだった。カゴの中に白い着物を着た女が緊縛され、座らされていた。女の口に白い猿轡が噛まされていた。
「京子っ!はっ!」
思わず声が出てしまった雅である。慌てて口を押えたが遅かった。潮騒と男たちの声以外、あたりは静寂に包まれていた。そんな中で叫ばれた若い女の声である。隠しようがない。
一瞬虚を突かれた男たちである。しかし次の瞬間、声のした方向を見た。岩があった。ちょうど人が背後に隠れられそうな岩だった。男たちはニヤリと笑って口を開いた。
「ほぉ〜。わざわざ獲物さんの方から来てくれたんやな」
「いや、興味津々なんやないか?」
「はよませた娘やんか」
「それやったらええわ。ええ器になりそうや」
「ははは、ほんなら儀式でしっかり根、はってもらえそうやな」
雅は男たちが何を言っているのか、わからなかった。しかし男たちの下卑た笑い声と態度から、よからぬことをたくらんでいるに違いなかった。
(京子だけでも逃がさんと。カゴを壊さんと)
雅の胸が痛みと恐怖で締め付けられた。足が震えてガタガタ震えた。しかし後悔だけはしたくなかった。「守りたい」、その一心だけが雅の足に力を与えた。
タタタタッ
雅は短刀を抜いて走り出した。唐丸籠の竹カゴを斬り裂くつもりだった。
「ああああああっ!」
しかし……
パシィ
男の張り手が飛んだ。男の脇をすり抜けて唐丸籠に突っ込むはずだった。しかし男の横っ飛びで、あっさりと雅は追いつかれた。そして頬を張られてしまったのだ。
「きゃあ!」
ズザザザザァ
張り飛ばされた雅が地面に倒れ込んだ。倒れた雅に下卑た笑いの男たちが近づいてきた。
「よ、よってこんとって!捕まるくらいやったら死ぬ!」
雅は身を起こし、乙女座りの格好で短刀の切っ先を自分の喉元にあて、男たちに叫んだ。叫ぶ声は震えていた。手もガタガタ震えていた。
「ほぉ〜。勇ましい娘やなぁ」
「元気な娘は、わしら好きやで」
「ええ感じに跳ねそうやんか」
「こ、こんとって!ほんまに死ぬで!」
「ええで?器はもうあるしなぁ」
「まあ、死なんかったら治療したるさけ」
「あんまり逆らうと手と足の腱、斬るで?」
「舌かまんように抜くで?この娘みたいにや……」
「え?」
雅は呆然と京子を見た。京子は勢いよく首を横に振った。その瞬間。
バシィ
突然近寄ってきた男が、雅の手を横から張り飛ばした。
ザクッ
喉元が切れて、血が飛んだ。
ザザァ
潮騒の音が聞こえた。冷たく岩に打ちつけられているようだった。鍾乳洞の闇はあまりに暗く、深かった。寄せては返す潮騒が、闇に吸い込まれていく気がした。
雅の魂も…… 波の音に溶け…… やがて、洞窟の闇にとらわれていくような恐怖に支配された。
「おいおい。あぶないなぁ」
「ちゃんとしつけんとあかんわ」
男たちの声で、意識が現実に引き戻された雅である。
(ひとまず逃げよう)
逃げ先を見つけようと、あたりを見回した瞬間、
「んぐ」
いつの間にか後ろから忍び寄っていた男がいた。雅が口を開いた瞬間、手ぬぐいを押し込まれ、猿轡を噛まされてしまったのである。
「んんんん」
雅の顔が絶望に染まった。京子を助け、自らの身を護るための短刀は、弾き飛ばされ、もうどこにあるのかも、わからなくなってしまっていた。
「ほないこか」
「器が二つも手に入ったやんか」
「闇神さんと黒女さんのご加護やなぁ」
「ちゃんとお供えせなあかんで」
「根をちゃんと、はってもらわなあかんな」
「その前に、しつけせなあかんのんとちゃうか?」
「そやなぁ。赤子みたいやもんなぁ」
「ははは もっともや」
男たちがニヤニヤと笑いながら近づいてきた。雅の心は絶望に染まり、全身がガタガタと震えた。悲鳴を出そうにも、口は塞がれ、くぐもった声が漏れるばかりだった。
「ん…… んんん……」
男たちは縄を取り出した。雅の両手両足がきつく縛られた。雅はただ首を大きく振るばかりだった。もう逃げ出すこともできない。恐怖が振り切れた…… 足元が濡れた。
「これどうする?きちゃないで?」
「そらきちゃないもんは、あかんわな」
「そやな。どうせ儀式には不要やしな」
男たちが雅の縄を締め直した。
「うっ」
暗闇の中、雅の身体を火のような痛みが貫いた。その夜、洞窟に二人の女の悲鳴が響き渡った。その悲鳴は、いつまでも途切れることがなかった。そして微かに、歌うような、泣くようなそんな音も。
朝日が差すころ、洞窟の闇は静かに色を変えていた。
二人がはたして、日常に戻れる日は来るのか…… 波は、昨日も今日も、ただ静かに潮騒の音を響かせていた。
いつもどおりに……




