47 両親の親身な会話と雅の失意
午後九時、NHKのニュースで彼女らの事件が報道された。男性アナウンサーは、次のように告げていた。
「本日午後、有田郡清水町の山間部で、和歌山県立和歌山高等女子学院の女子生徒四名が探索活動中、谷底に転落し、このうち一名が現在も行方不明となっております。現場では滑落や転倒の痕跡が見つかっておりますが、警察では引き続き詳しい捜査および捜索を続けています。なお、同行していた生徒たちからは、現場周辺で偽の看板で誘導され、謎の人物から襲撃を受けて少女が連れ去られた、との証言も出ており、警察でも慎重に調べているということです。現在、有田警察署ならびに地元消防、住民、学校関係者が連携して、現場周辺および有田川本流での捜索活動を続けております。警察では人命救助を最優先し、追加の応援体制も敷いており、現場の状況が判明し次第、詳しくお伝えすることになっております」
雅はニュースを聞いて、父の津村幸一(和歌山市農林課職員)、母の津村美乃里(ぶらくり丁呉服店店員・和裁講師)に訴えた。
「なんべんゆうたら、わかってくれるんよ。ちゃうやんか。川なんか探したかて、無駄やて。なんで山んなか探してくれへんの?」
「ちゃんと山の中も探してくれてるやろ。ニュースやさかい、そのへんのことまで言わへんだけやで」
「せやかて……」
雅が湯呑をぐっと握った。力を込めた指先は白く、湯呑はプルプルと震えていた。眉根はギュっと寄せられ、すがるような目つきで両親を見つめた。息遣いが荒かった。娘のそんな様子に幸一が、優しく言った。
「雅、そない心配せんでも、役場の人も町内会も、みんな真面目に動いとるさかいな。山でも川でも、手分けして探してるはずやで」
「ほんまに山も探してくれてるん?なんか川ばっかり気ぃしてる気して…… てか、川なんか探さんでええって」
「役場にも警察にも話したんやったら、ちゃんと伝わっとるはずや。困っとることがあったら、またお父ちゃんに言うてくれたらええ」
「うんうん。雅の言いよること、ちゃんとわかっとる人もおるからな。みんなで大事に見てくれてるで」
「もうええ!」
ドタドタドタ
雅は涙目になって、二階の自室に駆けあがっていった。
(みんなおんなじや。口では信じてるって言うて、ほんまは全然信じてくれてへん。あかん。このままやったらあかん。川なんか探してたらあかんのや。どないしたらええんやろ)
二階に駆けあがる娘を、両親は心配したように見守っていた。
「お父さん、雅、すっかり妄想のこと信じ込んでしもて……」
「あれだけのことがあったんや。自分らの不注意とは、認められへんねんやろ。否定しても頑固になるだけや。ちゃんと聞いてあげんとな」
「そうですね……」
「そやけど、大人として、ちゃんとやることはやらんとな。川に流されてしもたんやったら一刻を争う。はよみつけんと」
「ほんまですね」
両親のそんな会話は、二階の雅の部屋までしっかりと聞こえていた。
(誰も、親かて信じてくれへん)
忸怩たる思いの中、雅は唇を噛んでいた。
(あかん。お父ちゃんもお母ちゃんも信じてくれへん。どないしたらええんやろ。それにしても大変なことになってしもた。隠れ里、甘く見たらあかんかった。昔ながらの生活で穏やかに暮らしてるて、なんで私思い込んでたんやろ。おばあちゃんの言う通りやった。アマッポ、村近くで立入警告……そや!おばあちゃんや。おばあちゃんやったら信じてくれる)




