3 消えた恋人の手がかり
来国光が幽世への移動と篠の道の通過について考えを述べ始めた。
『幽世と現世は位相が隣り合っておる。剣奈が現世と幽世を移動する時には、ただその位相をまたぐだけで良い。しかし篠の道は時間と空間を超える。そもそも時間は不可逆で逆行などできぬはずなのじゃ。しかし篠の凝り固まった怨念が時空を固く結びつけ、固定化しておるからそれが可能となる。じゃからそれを、その結び目を越えるためにはいったん篠の身体を経由する必要があるのじゃろう』
「いや、邪斬さん。その説明は一見正しいのだけれど、それだと玉藻さんや白さんが時空を越えられないんじゃないかな?」
藤倉が問うた。
『この二人は怪異、すなわち幽玄体じゃ。身体を持っておるように見えるが、じつは妖気の塊で、恐るべき量のエネルギー集合体なのじゃ。肉体を持たぬが故、時空の移動が可能になるのであろう』
「じゃあ物質である邪斬さんは、篠の道を越えられないの?」
『淡路への移動も、今回の日原鍾乳洞からの移動も、ワシは現世に取り残されておる』
「じゃあ、剣奈ちゃん、丸腰?ものすごく危なくない?」
『そもそもじゃ。剣奈が篠の道を移動した後の身体には、ワシは剣気をほとんど流しこめぬ』
「じゃあ、剣剣奈ちゃん…… 移転した後は普通のか弱い女の子だってこと?」
「多分そう。闇坂村(淡路島の隠れ里)でボク、邪気に襲われて…… 剣気をお腹に溜めようとしたんだ。でも…… 溜められなかった……」
剣奈が答えた。
「じゃあ、ものすごく危ないってことだよね?」
「そうね。だから私が絶対一緒にいようと思ったのだけれど…… 日原ダンジョン(日原鍾乳洞を剣奈たちはこう呼ぶ)で、私は取り残された」
玉藻が言った。
『じゃのう。危うく金晶天狐咆でダンジョン一帯をすべて消滅させるところじゃったの』
「え!?きゅうちゃっ!めっ!」
驚いた剣奈が玉藻をたしなめた。
「あらあ?緊急時には「環境破壊禁止」は解除されるのじゃなかったかしらぁ?」
「そ、そうだけど!すべて消滅させるのはやりすぎ!手加減下手にもほどがあるよ!」
剣奈が玉藻をジト目で見つめた。玉藻は目を泳がせた。
「ん、んんん。ま、まあ白さんが一緒だったわけでしょ?白さんも強いんでしょ?」
藤倉が尋ねた。話を向けられた白蛇は鎌首をしゃんともたげてドヤ顔になった!
「う、うむ。妾強いのじゃ?」
――白蛇、実は白龍である。神の眷属である。天候を変えるほどの力を持っている……はず……。彼女がこれまでにした攻撃は、剣奈をイジメるいじめっ子リーダーを噛んで、記憶喪失にして、一年間昏睡状態にする毒を流しただけであるが……
「じゃあ玉藻さんと白さんが闘ったらどうなるの?」
「も、もちろん妾が勝つのじゃ!」
「あらあ?じゃあ、模擬戦やってみましょうか」
「い、いや、それは絶対嫌なのじゃ」
白蛇が慌ててテーブルの下に避難した。全員がジト目で白蛇を見つめた。結論は…… 出ていた……。たぶん……。
「玉藻さんと白さんが一緒に移動することは出来ないの?」
「たぶんできるのじゃ。なれど、今回は地龍に呑み込まれたのが妾と剣奈だけなのじゃ。篠の道に送り込んだのは地龍の力によるものなのじゃ。うむぅ…… その時、玉藻も呑み込まれておったらどうなったのじゃ?」
「え、えええっと…… 多分、私…… 地龍さんのお腹を斬り裂いて出てきてたかと……」
「とんでもないのじゃ?」
「で、でも!もうわかったから大丈夫よ?お腹を斬り裂かないわ?」
「なるほど。とすると……、剣奈ちゃんと玉藻さんと白蛇さんが時空を通るのは、地龍を呼び出せば可能ってことだね。ただし、情報が確定するまではなるべく篠の道を通ることは避けよう。剣奈ちゃんの負担が大きすぎるし、弱体化によるリスクも大きすぎる」
藤倉が言った。
「でも…… 地龍さんにまた頼まないと何の手掛かりもないよ?」
「そうかも知れない。でも、そうじゃないかも知れない。まずは情報を整理しようか」
1.半年前、玲奈の魂は、篠の道を通って安土室町時代の淡路島、闇坂村に連れて行かれた。そして、そこで邪気に呑み込まれ、どこかに連れ去れた。彼女の身体は今、桃林病院で昏睡状態。
2.今回の日原ダンジョン探索で、成り行きとはいえ、地龍によって玲奈の居場所の手掛かりが見つかった。
3.「篠の道」で時空を越えて玲奈のもとにたどり着ける可能性があるが、移転者に多大なる苦痛を与えるうえ、移転後は特殊能力や戦闘能力を失い、一般人と同じ、か弱い存在になる。
4.玉藻さんや白さんのような妖は、移転同行者になれるうえ、能力を保ったまま移転が可能。
5.地龍の助けを借りれば、剣奈ちゃんは玉藻さん、白さんとともに玲奈のもとにたどり着ける可能性がある。ただし篠の道は通らざるを得ない。
情報整理を終えた藤倉が、決意に満ちた顔をあげた。
「よし!ようやく玲奈救出の手掛かりが見えた!」
「うん!玲奈姉!ようやく玲奈姉の手掛かりを見つけたよ!ボク、必ず玲奈姉を見つけるよ!」




