28 雌伏の春を越えて
「わかったの?タダっち!?」
「ああ、手掛かりを見つけた!ピースがつながった!」
「淡嶋神社?戸津井鍾乳洞?この近くなの?」
「いや、紀伊…… つまり和歌山県だよ」
「ええええ!そんなに遠く?あ、でも玲奈姉が消えたのは淡路島!だからむしろそれが自然かも?」
「ああ。いったん吉祥寺に帰ろう。そしてもう一度、冷静になって検討してみよう。そしてゴールデンウイークに和歌山へ行こう!」
「ええええ!今だよ!せっかく見つけたんだよ。今行こうよ!」
「わかるよ。俺もその気持ちだ。今すぐ行きたい」
「なら!」
「だけど。今回、邪気を取り逃してしまったらどうなる?今度こそ手掛かりが無くなるかもしれない」
「そ、そうかもだけどぉ」
「俺はこのチャンスを逃したくない」
「うん」
「男はむやみに進むだけが男じゃない。大きく飛躍するために、力を溜めないといけない時もあると思う」
「なるほど!わかるよ!男には耐えなきゃならない時があるんだ!」
「雌伏の時を経て、絶対に玲奈を取り戻す」
「うん!」
剣奈がアニメに影響されたかっこよさげなセリフを言った。藤倉が剣奈を抑えるふりをしながら、前のめりになっている自分を必死で抑えた。
二人をにこやかに見ていた玉藻が静かにつぶやいた。
「そうですわね。私も邪気を逃さない業を、磨いておきますわ」
――――
春休みを終えた剣奈は小学校四年生になった。あれほど剣奈を苦しめたいじめは、いつの間にか解決していた。剣奈は小学校四年生の新学期を、心静かに過ごしながら、毎晩のように藤倉、千剣破、来国光、玉藻、白蛇、山木らと様々な話をした。
そして…… 剣奈二年のゴールデンウイークが訪れた。
吉祥寺のマンションの前に一台のバイクが止まっていた。高揚した剣奈が、心配顔の母・千剣破にキリリと顔を向けた。
「じゃあボク、いくね!」
千剣破は不安げに剣奈と恩師・藤倉に語りかけた。
「ええ。気を付けて、藤倉先生、くれぐれも剣奈をよろしくお願いします」
「わかりました。お任せください」
昨夜、剣奈はウキウキと冒険の準備を整えた(実は千剣破が全部用意した)。そのコンパクトに整理された荷物を、藤倉がVストロームに装着していった。
玉藻と白蛇がバイクのリアキャリアに備え付けられた専用のケージに入り込んだ。内部にはクッションが備え付けられ、外が見えるようにアクリル製の窓も装着されていた。剣奈、千剣破、玉藻が渾身で製作した移動用秘密基地である。白蛇はニコニコしながら彼女らが作り上げるのをじっと見ていた。
「快適じゃのう。では妾らは白蛇城にはいるのじゃ」
白蛇が金狐に変化した玉藻に言った。金狐はなにか言いたげにちらりと白蛇を見たが、そのまま素直にキャリア(白蛇城)に入り込んだ。
「行ってらっしゃい」
「うん!」
「行ってまいります」
「私は出来るだけ病院の玲奈のお見舞いに行くわね」
「うん!」
「お願いします」
剣奈が元気よく返事し、千剣破が藤倉に頭を下げた。
ブォン ブォン
トトトト……
ヴィーーン
藤倉のVストロームが発進した。剣奈はニコニコとタンデムシートで千剣破に手を振った。千剣破の後ろにGWの春の空がきらめいた。
(そう言えばもうすぐ玲奈姉の誕生日…… ホントだったら機嫌よく歌を歌いながら、得意のアップルパイを焼いていたはず)
太陽がきらりと瞬いた。風が剣奈の身体を撫でていった。玲奈が呼んでいる気がした。
(玲奈姉!待ってて!もうすぐ会えるから!)
剣奈は東名の風を感じながら、心のなかでそう呼びかけていた。
――――
藤倉たちは和歌山を訪れた。淡嶋神社を訪問し、そして戸津井鍾乳洞を訪れた。それらの訪問で、黒闇神、闇神様信仰の隠れ村が山中にあるとの伝承を手に入れた。
戸津井鍾乳洞周辺には、円明寺や衣奈八幡神社、竜王社など農耕・雨乞いの神を祀る社や伝承があった。少し距離は離れるが、同じ和歌山の熊野地方には神倉神社、丹生都比売神社などで、「闇」「隠れ」「神々」「闇をもたらす神」の伝承が伝わっていた。
藤倉たちは淡嶋神社から戸津井鍾乳洞に至る道すがら、丹念に資料と伝承を調べ、またその土地の人たちに話を聞いていった。
その際、藤倉の鶴甲大学日本史教授の肩書は、人々の心のガードを下げるのに役立った。また剣奈や玉藻の美貌は、男たちの口を軽くするのを大いに助けた。




