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黒女の哭音が聞こえる ~拐かしの隠れ里~  作者: 夏風
三章 ボクは、必ず君を見つけ出す たとえ君がどんな姿でも

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28 雌伏の春を越えて

「わかったの?タダっち!?」 

「ああ、手掛かりを見つけた!ピースがつながった!」

「淡嶋神社?戸津井鍾乳洞?この近くなの?」 

「いや、紀伊…… つまり和歌山県だよ」 

「ええええ!そんなに遠く?あ、でも玲奈姉が消えたのは淡路島!だからむしろそれが自然かも?」

「ああ。いったん吉祥寺に帰ろう。そしてもう一度、冷静になって検討してみよう。そしてゴールデンウイークに和歌山へ行こう!」

 

「ええええ!今だよ!せっかく見つけたんだよ。今行こうよ!」

「わかるよ。俺もその気持ちだ。今すぐ行きたい」 

「なら!」

「だけど。今回、邪気を取り逃してしまったらどうなる?今度こそ手掛かりが無くなるかもしれない」 

「そ、そうかもだけどぉ」 

「俺はこのチャンスを逃したくない」 

「うん」

「男はむやみに進むだけが男じゃない。大きく飛躍するために、力を溜めないといけない時もあると思う」 

「なるほど!わかるよ!男には耐えなきゃならない時があるんだ!」 

「雌伏の時を経て、絶対に玲奈を取り戻す」 

「うん!」

 剣奈がアニメに影響されたかっこよさげなセリフを言った。藤倉が剣奈を抑えるふりをしながら、前のめりになっている自分を必死で抑えた。


 二人をにこやかに見ていた玉藻が静かにつぶやいた。

 

「そうですわね。私も邪気を逃さない(わざ)を、磨いておきますわ」

 

 ――――


 春休みを終えた剣奈は小学校四年生になった。あれほど剣奈を苦しめたいじめは、いつの間にか解決していた。剣奈は小学校四年生の新学期を、心静かに過ごしながら、毎晩のように藤倉、千剣破、来国光、玉藻、白蛇、山木らと様々な話をした。


 そして…… 剣奈二年のゴールデンウイークが訪れた。


 吉祥寺のマンションの前に一台のバイクが止まっていた。高揚した剣奈が、心配顔の母・千剣破(ちはや)にキリリと顔を向けた。


「じゃあボク、いくね!」

 千剣破は不安げに剣奈と恩師・藤倉に語りかけた。

 

「ええ。気を付けて、藤倉先生、くれぐれも剣奈をよろしくお願いします」 

「わかりました。お任せください」


 昨夜、剣奈はウキウキと冒険の準備を整えた(実は千剣破が全部用意した)。そのコンパクトに整理された荷物を、藤倉がVストロームに装着していった。


 玉藻と白蛇がバイクのリアキャリアに備え付けられた専用のケージに入り込んだ。内部にはクッションが備え付けられ、外が見えるようにアクリル製の窓も装着されていた。剣奈、千剣破、玉藻が渾身で製作した移動用秘密基地である。白蛇はニコニコしながら彼女らが作り上げるのをじっと見ていた。

 

「快適じゃのう。では妾らは白蛇城にはいるのじゃ」

 白蛇が金狐に変化した玉藻に言った。金狐はなにか言いたげにちらりと白蛇を見たが、そのまま素直にキャリア(白蛇城)に入り込んだ。


「行ってらっしゃい」 

「うん!」

「行ってまいります」 

「私は出来るだけ病院の玲奈のお見舞いに行くわね」 

「うん!」 


「お願いします」

 剣奈が元気よく返事し、千剣破が藤倉に頭を下げた。

 

 ブォン ブォン 

 トトトト…… 

 ヴィーーン 


 藤倉のVストロームが発進した。剣奈はニコニコとタンデムシートで千剣破に手を振った。千剣破の後ろにGWの春の空がきらめいた。


(そう言えばもうすぐ玲奈姉の誕生日…… ホントだったら機嫌よく歌を歌いながら、得意のアップルパイを焼いていたはず)

 太陽がきらりと瞬いた。風が剣奈の身体を撫でていった。玲奈が呼んでいる気がした。


(玲奈姉!待ってて!もうすぐ会えるから!)

 剣奈は東名の風を感じながら、心のなかでそう呼びかけていた。


 ――――


 藤倉たちは和歌山を訪れた。淡嶋神社を訪問し、そして戸津井鍾乳洞を訪れた。それらの訪問で、黒闇神くろくらみのかみ、闇神様信仰の隠れ村が山中にあるとの伝承を手に入れた。


 戸津井鍾乳洞周辺には、円明寺や衣奈八幡神社、竜王社など農耕・雨乞いの神を祀る社や伝承があった。少し距離は離れるが、同じ和歌山の熊野地方には神倉神社、丹生都比売神社などで、「闇」「隠れ」「神々」「闇をもたらす神」の伝承が伝わっていた。

 

 藤倉たちは淡嶋神社から戸津井鍾乳洞に至る道すがら、丹念に資料と伝承を調べ、またその土地の人たちに話を聞いていった。


 その際、藤倉の鶴甲大学日本史教授の肩書は、人々の心のガードを下げるのに役立った。また剣奈や玉藻の美貌は、男たちの口を軽くするのを大いに助けた。


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