表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒女の哭音が聞こえる ~拐かしの隠れ里~  作者: 夏風
三章 ボクは、必ず君を見つけ出す たとえ君がどんな姿でも

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/28

27 その流されし神

 淡嶋神社、和歌山加太の海近くにある神社である。人形供養や雛流し神事で知られている。 淡嶋神社は全国に二十社あまり、関連神社(淡島神社・栗島神社・淡路神社など)を含めるとその数、千を超えるという。加太の淡嶋神社はその総本山である。


 淡嶋神社の主祭神は少彦名命である。婦人病・安産・縫製など、女性に関連したご利益があるとして古くから信仰されている。社伝は言う。かつて神功皇后が三韓征伐からの帰途、激しい嵐に見舞われた。沈みそうになる船の中で、彼女は必死に神に祈りを捧げた。すると、「船の(とま)(屋根)を海に投げ、その流れのままに船を進めよ」とお告げがあった。

 

 彼女はお告げの通りにした。すると友ヶ島に漂着し、彼女ら一行は命を繋ぐことが出来た。そしてその友ヶ島に奉られていたのが少彦名命(すくなひこなのみこと)大己貴命(おおむなちのみこと)(大国主命)であった。

 

 後に神功皇后の孫の仁徳天皇が、友ヶ島を狩りで訪れた。その際、神功皇后のそのいきさつを聞いた。彼は、このような島では不便であろうと考え、お社を対岸に移した。それが加太淡嶋神社の起こりと伝えられる。


 「淡嶋」の名は、友ヶ島(群島)のうち流れ着いた島が、淡嶋と呼ばれていたことに由来する。

 

 藤倉の頭の中では、無意識的に次のような推論がなされていた。少彦名命は、蛭子神、恵比寿神、淡島神ら三柱と同一視されることが多い。その共通点は「流された神」「漂流する神」である。


 『古事記』『日本書紀』は言う、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)伊弉冉尊(いざなみのみこと)の第二子として淡島が生まれたと。しかし淡島は『成りに成りて、成らざる処ひとところ有り』、つまり身体の一部が不足した状態で誕生した。このため、二柱は淡島を流したのである。


(淡路から紀伊、不遇なるものが流された道…… 太古からある人の想いの積み重なった確かなる回廊……)

 

 また『日本書紀』や『伯耆国風土記』では少彦名命が和歌山から粟島(淡路島・淡嶋)を経て常世国に至る話を記している。すなわち、


『其後、少彦名命行至熊野之御碕、遂適於常世郷矣。亦曰、至淡嶋、而縁粟茎者、則弾渡而至常世郷矣』


『この後、少彦名命は熊野の岬に至り、そこから常世の国へ行った。淡嶋に至り、粟の茎につかまったところ、はじかれて常世の国へ渡ったと』


『日本書紀』神代下第八段一書六


(……伊豆と熊野…… 海と地脈、そして伝承のつながり…… 地龍の通りし道はこれか……)


 藤倉の脳内では、「役小角」「空海」「徐福」「龍」「龍脈」「伊豆」「海の道」「和歌山」「漂流」「漂着」「淡嶋神社」「女性守護」「少彦名命」「蛭子神」「淡島神」「淡路」「南海トラフ」「相模トラフ」「黒潮」「海の道」などの知識が駆け巡り、一気に有機的につながっていった。


 淡路から加太への古の道。淡路から流された淡島伝説。人々の信じるその伝承の道。玉藻に脅威を感じ、玲奈を吞み込んで逃走を図った闇坂村の邪気。


 邪気が玉藻の脅威から逃れるためのとっさの判断で、淡路から加太へつながる古の道をたどった、そう藤倉は考えたのである。


(邪気は玉藻さんから距離をとるため、とっさに古の回廊に身を投じ、紀伊に逃れた。だが、それでもまだ恐れていた…… 九尾の影を…… だからさらに身を隠す場所が必要だと考えた。そして見つけたんだ。地脈に通じる深く暗い洞窟を――戸津井鍾乳洞を。そこを、邪気は絶好の隠れ家とした…… そしてそれを嗅ぎつけた地龍は地脈の道で紀州にいたり、篠の道に剣奈ちゃんを導いた…)


 藤倉は改めて熟考した結果、己の直感に間違いはないと確信した。


 玲奈の消失から、八か月がたとうとしていた。そして今…… ついにその邪気の尻尾を見つけた。藤倉はそう確信した。


 彼は高ぶる気持ちを抑え、静かに海を見ていた。


 ザザァ


 海はただ、静かに潮騒の音を響かせていた。藤倉の耳に、かすかに歌が聞こえた。そんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ