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黒女の哭音が聞こえる ~拐かしの隠れ里~  作者: 夏風
三章 ボクは、必ず君を見つけ出す たとえ君がどんな姿でも

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26 粘つく音を追って

 また音が聞こえた。水の音のような音。それは重く粘りつくような音だった。そしてまた歌のような、すすり泣くような声も聞こえていた。そして、その音と歌は、静かに風に溶けて消えていった。


————


 ルララララ ルララララ


(嬉しかったなぁ…… ろくでもない人生を送ってたアタイ…… いいことなんて何一つなかった。でも、剣奈と千剣破さんはアタイに生き場所を与えてくれた…… そして忠さま(藤倉)と結ばれて……)


 うっ ああああ


 触手が女の身体をまさぐり、刺激を与えてきた。女―贄の生体エネルギーを活性化させるためである。そして……


 ズルズルズル


 無理やり活性化させられた贄の生体エネルギーが、黒き邪気粘体にすすり取られた。女の魂が連れて来られた安土桃山時代から数えて、もう四百年以上の時が経過していた。その間、女は、この果てしなき無間地獄の中で、生かされ続けてきたのである。黒女として……


(あれは全部夢だったのかなぁ……)

 邪気の黒き粘体に覆われた黒女は、再び意識を深く沈めていった。


 


 ――――その頃


 ザクッザクッ

 

「こんな山奥に村が?」 

「そうだね、黒闇神くろくらみのかみ、つまり闇神様信仰の村の伝承が正しければこの先に」


 藤倉たちは鬱蒼とした山道を歩いていた。ここに至るまで、かなりの紆余曲折があった。藤倉たちはまず伊豆を訪れた。藤倉は、邪気が地脈を通じて闇坂村から逃走したと考えていた。そして日原鍾乳洞で得た手がかり、海辺、役小角、龍脈。そこから逃走先は伊豆の可能性があると考えたのである。


「伊豆の龍神伝説で知られる伊豆山神社では、地下に火の赤龍と水の白龍が眠るとされているんだ。そしてその二龍の目や耳から地脈水、つまり温泉が「走り湯」として噴き出していると言われているんだ」 

「うんうん」 

「そしてね、赤白の龍が地域の守護神、天地調和の象徴と言われているんだ。そして伊豆各地では海や池を守る龍の伝説がたくさんあって、海、温泉の伝承と深く結び付いているんだ」 

「なるほど!」


 剣奈と藤倉は伊豆を探索した。さまざまな場所を訪れ、玲奈の手がかりを探った。大室山、徐福ゆかりの地なども巡った。その結果、いくつかの手がかりが見つかった。それらはある場所を暗示していた。

 

「妾…… あの時見えた島影は、淡嶋に思えたのじゃ……」

 藤倉の脳裏にある場所がひらめいたのは、白蛇が自信なげに言ったこの一言だった。


 大室山には磐長姫(いわながひめ)(姉)と木花咲耶姫(このはなさくやひめ)(妹)の姉妹神の産所伝説が残る。山頂の浅間神社には、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に捨てられた磐長姫が、安産の神として祀られている。「安産・女性守護」「島への神の漂着」「山岳信仰」「神宝伝説」。


 白蛇が呟いたのは、藤倉がこれらの考えを頭に巡らせていた、まさにその時であった。


 カチリ


 さまざまな神話・伝承、玲奈消失と邪気の逃走、剣奈の日原鍾乳洞冒険、そして今回の伊豆冒険、それらの情報が一気に藤倉の脳内を巡った。すべてが、一人の少女を探し出す、ただそれだけのために。


 その瞬間である。それらさまざまな情報が、藤倉の頭で不思議な関連性をもって繋がった。


 突然、藤倉が叫んだ。


「淡嶋神社!そして戸津井鍾乳洞!」

 なぜ藤倉の頭にそれが浮かんだのか、藤倉自身もそれは説明できない。あえて言うなら「玲奈を見つける」、その強い意思、そして人体の不思議、潜在意識のなせる業である。あるいは神の導きがあったのかもしれない。

 

 そして今、それは確かなつながりとして藤倉の心に確信をもたらしていた。


 玲奈がそこにいると……


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