26 粘つく音を追って
また音が聞こえた。水の音のような音。それは重く粘りつくような音だった。そしてまた歌のような、すすり泣くような声も聞こえていた。そして、その音と歌は、静かに風に溶けて消えていった。
————
ルララララ ルララララ
(嬉しかったなぁ…… ろくでもない人生を送ってたアタイ…… いいことなんて何一つなかった。でも、剣奈と千剣破さんはアタイに生き場所を与えてくれた…… そして忠さま(藤倉)と結ばれて……)
うっ ああああ
触手が女の身体をまさぐり、刺激を与えてきた。女―贄の生体エネルギーを活性化させるためである。そして……
ズルズルズル
無理やり活性化させられた贄の生体エネルギーが、黒き邪気粘体にすすり取られた。女の魂が連れて来られた安土桃山時代から数えて、もう四百年以上の時が経過していた。その間、女は、この果てしなき無間地獄の中で、生かされ続けてきたのである。黒女として……
(あれは全部夢だったのかなぁ……)
邪気の黒き粘体に覆われた黒女は、再び意識を深く沈めていった。
――――その頃
ザクッザクッ
「こんな山奥に村が?」
「そうだね、黒闇神、つまり闇神様信仰の村の伝承が正しければこの先に」
藤倉たちは鬱蒼とした山道を歩いていた。ここに至るまで、かなりの紆余曲折があった。藤倉たちはまず伊豆を訪れた。藤倉は、邪気が地脈を通じて闇坂村から逃走したと考えていた。そして日原鍾乳洞で得た手がかり、海辺、役小角、龍脈。そこから逃走先は伊豆の可能性があると考えたのである。
「伊豆の龍神伝説で知られる伊豆山神社では、地下に火の赤龍と水の白龍が眠るとされているんだ。そしてその二龍の目や耳から地脈水、つまり温泉が「走り湯」として噴き出していると言われているんだ」
「うんうん」
「そしてね、赤白の龍が地域の守護神、天地調和の象徴と言われているんだ。そして伊豆各地では海や池を守る龍の伝説がたくさんあって、海、温泉の伝承と深く結び付いているんだ」
「なるほど!」
剣奈と藤倉は伊豆を探索した。さまざまな場所を訪れ、玲奈の手がかりを探った。大室山、徐福ゆかりの地なども巡った。その結果、いくつかの手がかりが見つかった。それらはある場所を暗示していた。
「妾…… あの時見えた島影は、淡嶋に思えたのじゃ……」
藤倉の脳裏にある場所がひらめいたのは、白蛇が自信なげに言ったこの一言だった。
大室山には磐長姫(姉)と木花咲耶姫(妹)の姉妹神の産所伝説が残る。山頂の浅間神社には、瓊瓊杵尊に捨てられた磐長姫が、安産の神として祀られている。「安産・女性守護」「島への神の漂着」「山岳信仰」「神宝伝説」。
白蛇が呟いたのは、藤倉がこれらの考えを頭に巡らせていた、まさにその時であった。
カチリ
さまざまな神話・伝承、玲奈消失と邪気の逃走、剣奈の日原鍾乳洞冒険、そして今回の伊豆冒険、それらの情報が一気に藤倉の脳内を巡った。すべてが、一人の少女を探し出す、ただそれだけのために。
その瞬間である。それらさまざまな情報が、藤倉の頭で不思議な関連性をもって繋がった。
突然、藤倉が叫んだ。
「淡嶋神社!そして戸津井鍾乳洞!」
なぜ藤倉の頭にそれが浮かんだのか、藤倉自身もそれは説明できない。あえて言うなら「玲奈を見つける」、その強い意思、そして人体の不思議、潜在意識のなせる業である。あるいは神の導きがあったのかもしれない。
そして今、それは確かなつながりとして藤倉の心に確信をもたらしていた。
玲奈がそこにいると……




