表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒女の哭音が聞こえる ~拐かしの隠れ里~  作者: 夏風
二章 千剣破 救済への手掛かり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/25

21 千剣破の一念 司法を動かす

 高島は、事前調査と面談から得られた内容に加え、仲のよさそうな姉妹の様子を見て、基本的に養子を承諾する方向で、心を固めた。そこで、生活・健康・教育・支援体制などについて話を進めることにした。

 

「ご家族が支え合って暮らしている様子、とても大切なことです。それでは次に、現在の住居や生活環境についても、教えていただけますか?」 

「はい、自宅は宝梅で母の持家です。夏休み後は、東京吉祥寺のマンションに連れて行こうと考えています。どちらの家も個室やリビングが十分にあり、玲奈に安心して過ごしてもらえる環境を整えています。家事分担や生活習慣は、家族で話し合いながら決めています」


「健康状態について、何かご心配な点はございますか?」 

「身体的には問題ありませんが、精神的なケアには引き続き注意しております。必要時には医療機関や専門家に相談します」

 

「玲奈さん、ご自身が法的に久志本家の家族の一員となった後、どのようなことを望んでいますか?不安なことはありませんか?」


 玲奈はきっと顔をあげて話し始めた。

「正直まだ、家族になれるって聞いても実感がわかない…… です。アタイにとって家族とはアタイに暴力をふるう存在だったし……でも、久志本家のみんなは温かくアタイに接してくれる。剣奈をずっと守ってやりたいし、千剣破母さんや千鶴ばあちゃんには恩返ししたい。これからは、久志本家の一人として生きていきたいです」

 高島は玲奈の顔を見ながら、うんうんとうなずいていた。


「教育については、どのようにお考えですか?」 

「この前、玲奈と少し話したんですが、しっかりと教育を受けさせたいと考えています。一般高校に編入するのか、年齢差を気にしなくても済む夜間に入るのか、あるいは高等学校卒業程度認定試験にチャレンジするのか、玲奈と話し合って決めたいと思ってます。私の考えとしては、玲奈を大学に行かせてやりたいと考えています」


「わかりました。それではしつけ、困ったときの対応について、どうお考えですか?」 

「私は、ほめて育てる方針です。失敗や困難があれば家族全員で受け止めて、話し合いながら解決しようと思っています。玲奈に、安心して悩みや意見をぶつけてもらえる環境を作りたいと思います。必要ならカウンセリングなども受けさせたいと思っています」


「周囲で支援していただける方は、いらっしゃいますか?」 

「祖母がおります。孫と同じように玲奈を見守ってくれています」

「最後に確認ですが、剣奈さん、玲奈さんが家族になることについて、どう思いますか?」 

「ボクは、玲奈姉なしなんて考えられない!もうすでに家族です。これからも、ずっと一緒がいい!」

 玲奈はそんな剣奈の様子を見て、泣きそうな顔をしていた。高島はそんな様子を見て、静かにうなずいた。

 

「ありがとうございます。皆さん、それぞれのお気持ち、しっかり受け止めさせていただきました。養子縁組が、玲奈さんとご家族の今後の幸せにつながるよう、裁判所としても努めます。何かご質問ありますか?」 

「はい。よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「養子縁組の許可がなされた場合、不服申立てはいたしません。ですので、不服申立ての経過措置を待たずに、確定証明書の同封をお願いしたいと思っております」 

「不服申立てはしないということですね。玲奈さんも、剣奈さんもそちらでよろしいですか?」 


「はい!」

「わかりました」 

「ありがとうございます。玲奈が安全に、幸せに生きていけるよう、頑張っていきたいと思っています。なにとぞ、よろしくお願いいたします」

 千剣破が高島に深く頭を下げた。玲奈も高島に頭を下げながら言った。


「よろしくおねがいします……」 

 相談室に、和やかな空気が広がった。新しい家族の始まりを予感させる気配が広がっていた。


「それでは本日の面談は以上になります。結果は後日連絡いたしますのでしばらくお待ちください」

「ありがとうございました」

 千剣破、玲奈、剣奈が退出した。部屋に残った高島は考えていた。


(通常は審査に二週間から数か月を要するけれど、長年の虐待、セーフティーネットからの漏れ…… 法的居場所喪失は早く解消した方がよさそうね。申立人の救済意志も強いし、すでに家族として溶け込んでいる。緊急保護の必要性から、早急に結論を出した方がよさそうね)


 これ以上、「手続きの都合」で子どもの安全を先送りにするわけにはいかない。その決意とともに、高島は所見の柱を整理し、緊急審理の必要性を訴える文書案の骨子を頭の中で組み立てた。


 高島はパソコンに向かい、早急に面談の内容について、家族の様子・本人の証言・心理状態・生活環境・支援体制などを詳細に盛り込んだ記録書を作成した。そして緊急性の根拠として、長年の虐待、性的虐待の疑い、救済の遅れ、法的居場所確保の急務、申立人側の十分な養育環境、保護の必要性、本人意志表示なども、報告書に明記した。

 

 高島はその日のうちに、申立書・戸籍・住民票・学校・福祉・児童相談所資料や第三者証言などの関連証拠一式をまとめてファイリングした。さらに緊急に養子縁組許可審判を行うべき理由、先延ばしにすることで生じるリスク、本人による現在の安全・安定した生活の肯定、速やかな法的保護の必要性についての意見書を添えて裁判官に提出した。意見書には、「即日または最短日での審判・確定」が妥当である旨、所見を明記した。


 高島の異例の尽力で、翌日、審判許可が決定した。彼女はさらに庶務部門と連携し、異例の速さで「審判書謄本」と「確定証明書」が発送された。


 法は決して、冷たく、冷徹で、杓子定規なものではない。人の心で動く、厳正、なれども、温かみのあるまなざしを持たねばならぬ。理不尽なる被害者に、光であれ――高島はそう信じていた。


 久志本家に「審判書謄本」と「確定証明書」が到着したのは面談の三日後、八月二十二日のことである。異例の速さだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ