16 ボクと地球を救お?
その後、あきらかに現世と異なる場所への移転に巻き込まれたかと思うと、少女は刀がしゃべると言い出した。
「クニちゃだよ。ボクのパーティの大切な仲間。剣の妖精さんだよ」
「はぁ?何言ってやがる。頭大丈夫か?いや、おかしいのはアタイか。ここはどこや?甑岩はあるのに、他はなんもねえ。人もいなくなってやがる。何しやがった」
「ボクもわかんないんだけど、神社でお参りすると、時々神様がいたずらしてくるんだよ。大丈夫。多分すぐ戻されるよ」
「はぁ?神様?そんなんいるワケないやろ。神様がいるんやったら、どうしてアタイは殴られ続けた?どうしてアタイは、酷い目にあわされ続けた?なんで救ってくれんかった!なんでアタイは地獄の日々を送らなあかんかったんや。なんで絶望の日々を送らなあかんかったんや」
玲奈は唇を噛み締め、両手の拳を握りしめた。唇に歯が食い込んだ。手のひらに爪が食い込んだ。そんな玲奈の様子を見て、刀が説明した。
玲奈の壮絶な生い立ちを思えば、苛立ちや反発はもっともだと刀は語った。そしてその重たい人生を、腐らず踏みとどまった。それは、ただ苦しめられたというだけでなく、むしろ神の与えた試練を乗り越えた証かもしれないと。そしてその在り方自体が、「神に選ばれた証」と言えるのではないかと。
玲奈は反発を覚えて、刀、来国光の言葉を聞いていた。しかし来国光は続けて、驚くべきことを語った。来国光もまた、魂を鋼の体に閉じ込められ、不自由で冷たい体のまま、気が遠くなるほどの長い年月を過ごしてきたと。土の中に長い間、突き立てられて動けぬまま、ひたすら耐えて時を待ったと。
また、来国光は、この少女が、男子として生まれながら、神の意志で女にされたとも語った。彼女が誰にも頼れないまま、敵と闘う厳しい日々を繰り返していたと。そして数え切れないほど傷つき、命さえ危うい経験をしてきたと。
そんな目に遭わされ続けたはずの少女は、それでも自分に与えられた使命を肯定した。そして少女は言った。玲奈もまた、特別な力を持つ者として、意味があって、この道を歩んでいるはずだと。
「けっクソったれ。じゃあ何か?その神様とやらは、わざわざアタイを選んで、酷い目に遭わせ続けたってか。ならそれは神やのうて、邪神か祟神やないんか」
『そうじゃの。そうやも知れぬ。しかしの、その祟神は、それでもこの世を救いたいと思うておるのじゃ。そのために、できることをしようとし、ジタバタしておるのじゃ』
「崇高な志のために、アタイは踏みつけられ続けたってか。は、いい迷惑や。アタイやのうて、他の奴を選んでくれや」
「お姉さん。ボクもわかんない。なんでボクが選ばれたのか。なんでボクが女の子にならなきゃいけないのか。それでも、選ばれちゃったんだよ。地球を救わなきゃいけないんだよ。ボクら以外、誰にもできないんだよ」
そして少女は言った…
「だからね、お姉さん。ボクと地球を救お?ボクのパーティメンバーになって?」
ルララララ ルララララ。少女の声を聞きながら、玲奈の耳には、久しぶりに、あの歌が聞こえてきた。
玲奈は久しぶりの心温まるような感覚に、不思議な気分になっていた。少女の言うことはさっぱりわからなかった。しかし、玲奈は彼女の純真な熱意に引きずられるように、心地よい気持ちを受け入れるように、少女の家について行った。
また玲奈は心のどこかでわかっていた。どうせ保護者から、自分は断られるだろうと。だから、それまではこの気持ちを大切にしたかった。そして、自分を受け入れてくれた少女の熱意も大切にしたかった。
(親に断られるまでや。たまにはいい気持ちになってもいいやろ。それに、こいつも、言われてあきらめたほうが、傷つかんですむやろ)
ルララララ ルララララ。玲奈はそう思いながら、けれどどこか上機嫌に唄いながら、少女とともに、彼女の家に向かうのだった。




