15 玲奈、ボクっ娘と出会う
(またあそこ行くか。あの岩を見てたら、なんや、心が落ち着くんよな……)
玲奈は夫婦岩と越木岩神社を目指し、バイクを飛ばした。そしていつもの駐輪場に行った。しかし、そこには一台のオフロードバイクが停まっていた。
(ちっ、いつもはあいてんのによ。他探すか?いや、別に時間はたっぷりある。しばらく待つか……)
玲奈はバイクのミラーにヘルメットをかけ、しばらくシートに座っていた。すると中年男と、やたら綺麗な女児が一緒に歩いてきた。その組み合わせを見て、玲奈は吐き気がした。父親と自分を思い起こしたからである。
玲奈は立ち上がり、腕組みをして二人を睨んだ。
「あなたは?」
中年男が尋ねてきた。丁寧な口ぶりだった。
「アタイは牛城玲奈。バイクで旅してる。甲山と夫婦岩、あとあの大岩の神社。アタイはこの辺を通ったら、必ず来てる。ここはいつもアタイが停めてる場所や」
「それはすまなかったね。君の場所とは知らなかったんだ。すぐバイクをどかすから、ちょっとだけ待っててもらっていいかな?」
中年男が言った。玲奈はその言葉を上の空で聞いていた。男の隣の少女が尋常ではなかったからである。
「アタイは昔から変なもんが見えちまう体質でね。オメエ、うっすらと全身光ってやがるな。しかもや、腹から光の紐が出てんで?うっすら消えてなくなっとるけどな。お前それで生きてんか?」
「すごい!すごい!お姉さん見えるんだ!ボク全然見えないよ?お姉さん勇者の目を持ってるのかもしれない!いいなぁ。ボクも見えるようにならないかなぁ」
玲奈十七歳の夏。牛女と巫女が出会った。玲奈はいぶかしみながら少女に話しかけた。すると、少女は目をきらきら輝かせながら玲奈の話に食いついた。そして子供っぽい言葉で玲奈に憧憬の目を向けた。玲奈は思った。
(おかしな嬢ちゃんや。この目のことを話したら、普通、むっちゃ気持ち悪がんのに、こいつは全然ちゃうやん。「すごい!」だの「勇者の目かも!」だの、無邪気に近づいてきやがってよ。不思議な感覚や。初対面やのに、どっかでこいつと会うたことあるみたいな…… いや、おかしな勘違や…… ちょっとからかってやるか)
「まあ、袖触り合うも多少の縁っつうしな。アタイの後ろに乗ってみるか?」
「うわぁ。いいの?乗りたい、乗りたい」
「ちょ、ちょっと待ちなさい、剣奈ちゃん」
男が口を挟んできた。(当然の反応や)、玲奈は思った。
「せっかくのお誘い、ありがたいんだけど、これから私たちは帰るところなんだ。あと、知らない小学生をいきなりバイクに乗せようとするのは、ちょっと常識はずれかな。ともかく場所はすぐ譲るよ。君の場所とは知らず悪かったね。じゃあ私たちは、すぐ移動するよ」
「えー。ボク、お姉さんのバイク乗りたいなぁ。すっごくカッコイイバイクじゃん。タダちのもかっこいいけど、タイプの違うカッコよさがあるよ。ボク、乗ってみたい」
(タダっちだと?こいつ、嬢ちゃんの父親じゃねぇのか?そういや顔が、全然似てねぇ。これ、危ねぇ状況じゃねぇのか?)
「タダっち?オメエ、父親じゃねーのか。オメーこそ、こんな小っちゃな女の子を連れ回してきめーな。このクソロリコン野郎が」
「わ、私はこの子の親から頼まれて、面倒を見てるんだ。知らない人に、ほいほい渡すわけにはいかないね」
「渡すだと?きめー。すけべ心丸出しなんだよ。この変態野郎が。大体親に頼まれて?オメーの女の連れ子かなんかか?連れ子に手を出してんじゃねーよ、クズが」
「違うよ。この人は、お母さんの先生なんだ。ボク、一人旅してて、いろんなとこ行きたいんだけど、電車とかバスが通ってないところは、行きにくくてさ。それでタダっちが、連れて行ってくれることになったんだよ」
「はぁ?教え子の子供を連れまわすだぁ?ますますきめーよ。ボクっ娘の嬢ちゃんよ、世の中の酸いにどっぷり浸からされちまったお姉さんからの忠告や。こいつはやめとけ。見たらわかる。嬢ちゃんに下心丸出しや」
(男は一見優しげに見えても、結局は身体目当てや)
玲奈は、自分がうけた仕打ちと同じ目に、この娘をあわせたくないと思った。できれば救ってやりたいと思った。なぜそう思ったのか、自分でもわからなかったが。




