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黒女の哭音が聞こえる ~拐かしの隠れ里~  作者: 夏風
一章 震災の轟音が奪う人の道 希望と絶望、虐待と搾取

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14 救済顔の搾取者

 ある日、父親の竜作が居場所を突き止め、マンションに怒鳴り込んできた。岸本は仲間と一緒に、さんざんに竜作を叩きのめした。

 

 ボロボロになった竜作が叫んだ。


「こ、これは誘拐やで?け、警察に訴えてやる!」 

「ほう。おもろいことぬかすやんけ、ワレ。ええんか?ワレが実の娘を、子どもん時から犯しとったん知っとるんやで?ワイはこの子を保護しとんねん。警察にたれこんだら、どっちが困るんや?なあ玲奈よ」 

「うん」

 玲奈はぎゅっと岸本の腕を抱きしめた。岸本は財布から一万円を適当に抜き取り、竜作に向かってばらまいた。


「手切れ金や。二度と顔見せんのやったら、やるわ。それとも裸で生田川泳ぐか?え?」

 竜作は、ばらまかれた一万円札を拾い集めると、一目散に逃げだした。


(なんやあっけないな。アタイは抵抗することもできんかった。絶望の象徴やったクソ親父。それがこんな無様に…… 簡単に…… アタイも強くなりたい…… ひとりで、ひとりでも生きていけるほど……)


 ――――


 それからも岸本は、玲奈を客に紹介し続けた。岸本の行った行為は明らかに犯罪である。


「青少年保護育成条例」や「淫行条例」では、十八歳未満の女性とのみだらな性行為を禁じており、処罰対象となる。

 

 岸本が行ったことは、未成年の性的搾取・人身売買行為であり、児童福祉法(第六十条)・刑法(第二二六条)・児童買春・児童ポルノ禁止法(第四条・第七条)などで摘発される行為である。しかし岸本は、玲奈の状況を考えると露見するリスクは低いと踏んでいた。


 親がこのことを知ったら、警察にタレ込むリスクはある。だが、親には逃げ出した娘を保護しているだけと勘違いさせてある。散々痛めつけたし、手切れ金も渡してある。親が玲奈を毎晩のように犯していた弱みもある。彼は親経由の摘発は、されないだろうと高をくくっていた。


 岸本のふところは潤った。JKを抱きたいという需要は大きかったのである。岸本は玲奈が商品になる間は存分にかくまってやろうと考えていた。玲奈を手元に置き、客を選んで行為させていれば、摘発される心配はほとんどないと計算していた。

 

 玲奈が行為を嫌がるようになれば、あっさり捨てるつもりだった。三宮センター街に行けば、かわりの家出娘はいくらでもいる。彼は玲奈を便利に使ったが、彼女には執着していなかったのである。


 ――――


 岸本のマンションに転がり込んで、ひと月が過ぎた。玲奈は十六歳になった。誕生日のお祝いの余韻のあと、彼女は岸本にしなだれながらおねだりした。


「アタイ、バイクの免許を取りたい」

「いいぜ。通わせてやるよ。バイクも仲間から手に入れてやるよ」

「うれしい!」


 玲奈は教習所に通わせてもらい、普通自動二輪免許を取得した。親の同意書は、岸本が脅しとともに、いくばくかの金を握らせ、竜作からもぎ取ってきた。

 

 免許を取った後、玲奈は中古バイクを手に入れた。岸本が暴走族仲間から、さんざん使いたおされた古いビラーゴ400を譲り受けたのである。

 

 玲奈は感謝した。しかしこの時、岸本は身銭を切っていない。ビラーゴ譲渡の対価は、その男に三日間、玲奈を預けることだったのである。


 平穏な毎日。バイクでのあちこちへの散策。玲奈は生まれて初めて、人生が楽しく思えた。


 しかし、そんな楽しい時間は長くは続かなかった。岸本がトラブルに巻き込まれ、逃亡したのである。岸本は行方をくらませた。音信不通となった。


 玲奈はしばらく岸本のマンションで暮らしていた。しかし不審な男たちが訪ねてくるようになった。玲奈は身の危険を感じ、部屋に残された金を持って逃げだした。


 彼女はしばらくネカフェで寝泊まりした。ナンパされると男について行った。そして一夜を共にした。


 岸本の紹介で関係のあった男たちの世話になることもあった。男たちは玲奈を都合よく扱うかわりに、ひとときの居場所を与え、いくばくかの小遣いを渡した。女を買うより安いので、男たちにもメリットはあった。

 

 玲奈は岸本の女として、認知されていた。その関係か、薬物や暴力にさらされたり、身体改造などはされなかった。それだけが、せめてもの幸運だった……


 生活はいつも不安定だった。玲奈は知り合った男たちの家を転々として日々を過ごした。


 アルバイトをしようと考えたこともあった。しかし親の同意がネックになり、採用されなかった。


 そんな日々がしばらく続いた。玲奈はいつしか十七歳になっていた。


(あと一年。あと一年逃げ切れば、なんとかなる……)

 玲奈は必死に生き延びようとした。十八歳になると、親の同意なしに雇用契約を結べるようになる。そうすれば、自分で自活した生活を送ることができるようになるのである。


(でもあと一年、こうやって転々としながら生きてけんのか?いっそ身体を売るか……)

 楽に金銭収入を得るために、売春が頭にちらついた。しかし売春は明らかに犯罪である。警察に捕まるリスクが高かった。もし警察に検挙されれば、親の元に連れ戻される。


(連れ戻されたら、きっとアタイは閉じ込められる。そしたら二度と、家を出ることはできんくなる)

 岸本という庇護者を失った今、彼女に親に立ち向かえる手段はもうない。玲奈は、家に連れ戻されることが恐ろしかった。

 

 玲奈は岸本に恋愛感情は持っていなかった。彼が自分を金儲けの道具にしていたことはわかっていた。そしてそれが犯罪だと知っていた。

 

 しかし彼は暴力を振るわなかった。部屋も食事も与えてくれた。免許も取らせてくれたし、バイクももらえた。

 

 岸本との生活は、家での地獄の日々に比べると、とても幸せで平穏だったのである。


 玲奈は男たちの家を転々としながら、バイクを乗り回した。男たちは玲奈を都合よく扱ったが、玲奈の男になろうとは言い出さなかった。岸本の存在が玲奈を守り、また、足かせになった。

 

 一人の男の部屋にいられるのは、長くても二週間ほどだった。居場所がなくなると、玲奈はネカフェで寝泊まりした。


 玲奈の収入は、男たちに身を任せたときにもらえる、いくばくかの小遣いだけだった。玲奈の不安定な生活が続いた。


 玲奈は自分の身が、どんどん薄汚れていく気がした。ルララララ ルララララ


(アタイは、穢されて、汚物まみれの女……)


 玲奈は唄いながら、心底そう思った。それが自分だと…… 自分の肌から生臭い匂いが、歌とともに立ち上る気がした……

 

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