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吹き飛んでしまった右腕はさすがに戻すことはできなくて、エドワード殿下の右腕はなくなってしまった。ほかにも擦り傷や切り傷が多数。あちこちガーゼだらけである。
はじめのうちは、痛みに「うんうん」と唸っていた殿下も、1週間もすればだいぶ落ち着き、もう歩き始めている。
そして病室も、領主の館からテントの病室へと移ってきた。
「わたしのためだけに、わざわざ来るのは時間の無駄だろう」
なんて言う。聖人君子だ。それでもさすがに、衝立で囲った。
「あまり無理をなさらないように」
さすがにキャシーも、ひとこと物申した。
「脚はなんともないんだよ」
殿下はさわやかに笑った。そうでしょうけれども、しっかりと治していただきたいのがみんなの本音である。
フレデリック以外のケガ人たちも、だいぶ回復した。中には後遺症が残った者もいるのだが、なにせ殿下の後遺症が一番重いのだ。
「なあに、ちょっと足を引きずるくらい、なんでもないさ」とか
「だいじょうぶ、左肩が上がらなくても右肩は上がるから」とかおっしゃる。みなさんの爪の垢を、ぜひリチャードに飲ませてやりたい。
殿下の看護には、王都から来たベテランの看護婦がついている。専属と言っても、2人で部屋にこもったりしない。やつらとは違う。
傷の処置は彼女がやるが、それ以外の雑用はキャシーたち下っ端看護婦が順番でやる。
食事の配膳や、シーツの交換。水差しの交換。やることはいろいろある。
キャシーは食べ終えた食器を下げに、殿下のところへ行った。
うそをついたことをあやまりたいのだが。
黙っていた方がいいのだろうか。
フレデリックにも、うそをついたし。あ、でも殿下は元気にはなったから、うそではないか。
でも、おたがいに心配していたからなー。聞きたいのかなー。
どうしよう。
だいたい、殿下に話しかけていいのだろうか。
「きみが、フレデリックを看取ってくれたんだね」
殿下のほうから話しかけてきた。
「も、申し訳ありませんでした」
蚊の鳴くような声しか出なかった。殿下はわずかに首をかしげた。
「なぜあやまるのかな?」
「……うそをつきました」
「ああ、うん、それね。誰もきみのことは責めないよ。しかたがなかったんだ。わたしも混乱していたしね」
殿下は穏やかに言った。
「フレデリックのことは先生から聞いたよ。手の施し様がなかったって」
「フレデリック様は、殿下の心配をなさっておられました」
「うん」
「わたしは、そこでもうひとつうそをついたのです。殿下は手術を受けて回復なさると言いました。そんなこと先生じゃないとわからないのに」
「うん」
「でも、安心させてあげたかったんです」
「わたしは、ちゃんと回復した。うそではなかったね」
エドワード殿下は、そう言って笑った。
「感謝しているよ。彼を放置したままひとりぼっちで死なせなくてよかった」
とても悲しそうな笑顔だ。
「あの、フレデリック様から頼まれたことがあるんです。髪の毛を公爵ご夫妻に渡してほしいと」
キャシーはポケットから、幾重にもガーゼに包んだ髪の毛を出した。エドワード殿下に、託そうと思っていたのだ。
「そうか……」
殿下はキャシーの手の上のガーゼをじっと見つめた。
「それは、きみが直接渡してほしい」
「え⁉」
「公爵夫妻も、息子の最後を聞きたいだろう。機会を作るから」
断れるわけがない。
「かしこまりました」
それから3か月後。戦争は終わりを迎えた。




