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横取り女、地に堕ちる  作者: 吉田ルネ


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5/8



 吹き飛んでしまった右腕はさすがに戻すことはできなくて、エドワード殿下の右腕はなくなってしまった。ほかにも擦り傷や切り傷が多数。あちこちガーゼだらけである。

 はじめのうちは、痛みに「うんうん」と唸っていた殿下も、1週間もすればだいぶ落ち着き、もう歩き始めている。


 そして病室も、領主の館からテントの病室へと移ってきた。

「わたしのためだけに、わざわざ来るのは時間の無駄だろう」

 なんて言う。聖人君子だ。それでもさすがに、衝立で囲った。


「あまり無理をなさらないように」

 さすがにキャシーも、ひとこと物申した。

「脚はなんともないんだよ」

 殿下はさわやかに笑った。そうでしょうけれども、しっかりと治していただきたいのがみんなの本音である。

 フレデリック以外のケガ人たちも、だいぶ回復した。中には後遺症が残った者もいるのだが、なにせ殿下の後遺症が一番重いのだ。


「なあに、ちょっと足を引きずるくらい、なんでもないさ」とか

「だいじょうぶ、左肩が上がらなくても右肩は上がるから」とかおっしゃる。みなさんの爪の垢を、ぜひリチャードに飲ませてやりたい。




 殿下の看護には、王都から来たベテランの看護婦がついている。専属と言っても、2人で部屋にこもったりしない。やつらとは違う。

 傷の処置は彼女がやるが、それ以外の雑用はキャシーたち下っ端看護婦が順番でやる。

 食事の配膳や、シーツの交換。水差しの交換。やることはいろいろある。


 キャシーは食べ終えた食器を下げに、殿下のところへ行った。

 うそをついたことをあやまりたいのだが。

 黙っていた方がいいのだろうか。

 フレデリックにも、うそをついたし。あ、でも殿下は元気にはなったから、うそではないか。

 でも、おたがいに心配していたからなー。聞きたいのかなー。

 どうしよう。

 だいたい、殿下に話しかけていいのだろうか。


「きみが、フレデリックを看取ってくれたんだね」

 殿下のほうから話しかけてきた。

「も、申し訳ありませんでした」

 蚊の鳴くような声しか出なかった。殿下はわずかに首をかしげた。

「なぜあやまるのかな?」


「……うそをつきました」

「ああ、うん、それね。誰もきみのことは責めないよ。しかたがなかったんだ。わたしも混乱していたしね」

 殿下は穏やかに言った。

「フレデリックのことは先生から聞いたよ。手の施し様がなかったって」

「フレデリック様は、殿下の心配をなさっておられました」

「うん」


「わたしは、そこでもうひとつうそをついたのです。殿下は手術を受けて回復なさると言いました。そんなこと先生じゃないとわからないのに」

「うん」

「でも、安心させてあげたかったんです」

「わたしは、ちゃんと回復した。うそではなかったね」

 エドワード殿下は、そう言って笑った。

「感謝しているよ。彼を放置したままひとりぼっちで死なせなくてよかった」

 とても悲しそうな笑顔だ。


「あの、フレデリック様から頼まれたことがあるんです。髪の毛を公爵ご夫妻に渡してほしいと」

 キャシーはポケットから、幾重にもガーゼに包んだ髪の毛を出した。エドワード殿下に、託そうと思っていたのだ。


「そうか……」

 殿下はキャシーの手の上のガーゼをじっと見つめた。

「それは、きみが直接渡してほしい」

「え⁉」

「公爵夫妻も、息子の最後を聞きたいだろう。機会を作るから」

 断れるわけがない。

「かしこまりました」




 それから3か月後。戦争は終わりを迎えた。


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