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横取り女、地に堕ちる  作者: 吉田ルネ


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3/8



 それから2週間ほどして、リチャード殿下は王都へお帰りになった。

 あれからたま~に顔を見せに出てくるだけで、ほとんど部屋にこもりっきりだったという。キャロラインと2人で。


 キャロラインもいなくなった。殿下と一緒にお帰りになったという。

 へえ。

「明日には看護婦が3人補充されるから、残った人たちでもう少しがんばってくれたまえ。まあ、彼女がいなくなっても、あまり困らないだろうけどね」

 医者はそう言って、ふっと鼻で笑った。

 もしかして、ちょうどよく厄介払いができた、とか思っているのかもしれない。看護婦たちもそう思っているが。


 キャロラインをちやほやしていた患者たちも、殿下と彼女の体たらく(笑)を見て、一気に熱が冷めたようだ。専属なんていって、2人で部屋にこもり、その他大勢の患者には見向きもせず。

 あんなに愛想振りまいていたのに、切り替えの早いこと。

「やっぱり、おれみたいな一兵卒なんか見捨てられるよな」

「そうだな。王太子殿下の方が大事に決まってるもんな」

 やさぐれる患者たち。

「いいえー。患者さんは患者さんですよ。みなさん、同じです」

 キャシーたちはそう言って、いつも通りに処置を行う。なんてステキな看護婦魂。


「そうか、ありがとね。そういえば、手当してくれたのは、いつもきみたちだったよね」

 キャシーは、鼻で笑いそうになったのをすんっと押しとどめた。

「そうですよー。やっと気づきましたか?」

「そっかー。おれたち騙されていたんだな」

 わかってくれてうれしいですよ。


「まあまあ」

 と医者が苦笑いした。

「ここにいる看護婦たちはみんな優秀ですよ。安心してください。包帯だってきちんと巻けますから」

 どっと笑いが起きた。キャシーはちょっとだけ胸がすいた。




 昼もだいぶ過ぎてから、キャシーとローラは昼食のために食堂のテントへ入っていった。今日のメニューはなんだろうな。もうおなかはぺこぺこだ。

 一歩足を踏み入れて、おや? と立ち止ってしまった。

 なんだ、この空気は。食堂中に、どんよりと重たい空気が充満していた。

 こんな時間なのに、食事をする人は大勢いた。戦地にあっては、食事だけが楽しみだから、わいわいと楽しそうな雰囲気のはずなのに、妙に静かだ。みんな下を向いて、もくもくと食べている。


「な、なんなのかしらね」

 声を出すのもためらわれて、キャシーはこっそりとつぶやいた。

「なにか、あったのかしら」

 ローラもこそこそとつぶやいた。

 2人で配膳のカウンターから食事を受け取った。今日はチキンの煮込みと大ぶりのパンが2個。リンゴが半分。

 ふだんだったら、ちょっと寂しいメニューだが、戦時中ならしかたもない。


 長テーブルの開いた席にならんですわった。

 食べ始めると、斜め前に座っていた1人の兵士が新聞を差し出してきた。

「看護婦さんたち、これを見たかい?」

「いいえ」

 と返事をして、キャシーとローラは新聞をのぞき込んだ。




 ――リチャード殿下婚約。お相手はキャロライン・アダムス伯爵令嬢。戦地で育んだ無償の愛。瀕死のリチャード殿下に献身的な看護。


 ぶほっ。2人は思わずむせた。

 この微妙な空気はこれのせいか。新聞の日付は1週間ほど前だ。戦地まで届くのに時間がかかるのだ。


「あんたたちが一生懸命看護してくれているのは知ってるよ。だからなー、これはないよなー」

 ないない。

「瀕死?」

 ローラがぼそっと言った。

「…………」

 答えようがない。献身的な看護って。2人で部屋にこもって?

 はあー。


「ふざけるな! 死人が出ているんだぞ!」

 離れた席で、1人の兵士が叫んだ。

 だよねー。

 今だって、治療の甲斐なくただ横になっている患者がいる。

 手を失った者、足を失った者、目が見えなくなった者、利き手が使えなくなった者、杖なしでは歩けなくなった者。


 生きて帰れなくなった者。


 そんな人がたくさんいるのに。

 なんだか、肩の上にずどーんと重しが乗ったような気がした。


「わたしたち、ここでなにをしているのかしら」


 たぶん、全員がそう思っている。

 士気はダダ下がり。




 それから」1週間後、今度は第2王子殿下がやって来ることになった。


 またか。

 もうたくさんです。


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