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それから2週間ほどして、リチャード殿下は王都へお帰りになった。
あれからたま~に顔を見せに出てくるだけで、ほとんど部屋にこもりっきりだったという。キャロラインと2人で。
キャロラインもいなくなった。殿下と一緒にお帰りになったという。
へえ。
「明日には看護婦が3人補充されるから、残った人たちでもう少しがんばってくれたまえ。まあ、彼女がいなくなっても、あまり困らないだろうけどね」
医者はそう言って、ふっと鼻で笑った。
もしかして、ちょうどよく厄介払いができた、とか思っているのかもしれない。看護婦たちもそう思っているが。
キャロラインをちやほやしていた患者たちも、殿下と彼女の体たらく(笑)を見て、一気に熱が冷めたようだ。専属なんていって、2人で部屋にこもり、その他大勢の患者には見向きもせず。
あんなに愛想振りまいていたのに、切り替えの早いこと。
「やっぱり、おれみたいな一兵卒なんか見捨てられるよな」
「そうだな。王太子殿下の方が大事に決まってるもんな」
やさぐれる患者たち。
「いいえー。患者さんは患者さんですよ。みなさん、同じです」
キャシーたちはそう言って、いつも通りに処置を行う。なんてステキな看護婦魂。
「そうか、ありがとね。そういえば、手当してくれたのは、いつもきみたちだったよね」
キャシーは、鼻で笑いそうになったのをすんっと押しとどめた。
「そうですよー。やっと気づきましたか?」
「そっかー。おれたち騙されていたんだな」
わかってくれてうれしいですよ。
「まあまあ」
と医者が苦笑いした。
「ここにいる看護婦たちはみんな優秀ですよ。安心してください。包帯だってきちんと巻けますから」
どっと笑いが起きた。キャシーはちょっとだけ胸がすいた。
昼もだいぶ過ぎてから、キャシーとローラは昼食のために食堂のテントへ入っていった。今日のメニューはなんだろうな。もうおなかはぺこぺこだ。
一歩足を踏み入れて、おや? と立ち止ってしまった。
なんだ、この空気は。食堂中に、どんよりと重たい空気が充満していた。
こんな時間なのに、食事をする人は大勢いた。戦地にあっては、食事だけが楽しみだから、わいわいと楽しそうな雰囲気のはずなのに、妙に静かだ。みんな下を向いて、もくもくと食べている。
「な、なんなのかしらね」
声を出すのもためらわれて、キャシーはこっそりとつぶやいた。
「なにか、あったのかしら」
ローラもこそこそとつぶやいた。
2人で配膳のカウンターから食事を受け取った。今日はチキンの煮込みと大ぶりのパンが2個。リンゴが半分。
ふだんだったら、ちょっと寂しいメニューだが、戦時中ならしかたもない。
長テーブルの開いた席にならんですわった。
食べ始めると、斜め前に座っていた1人の兵士が新聞を差し出してきた。
「看護婦さんたち、これを見たかい?」
「いいえ」
と返事をして、キャシーとローラは新聞をのぞき込んだ。
――リチャード殿下婚約。お相手はキャロライン・アダムス伯爵令嬢。戦地で育んだ無償の愛。瀕死のリチャード殿下に献身的な看護。
ぶほっ。2人は思わずむせた。
この微妙な空気はこれのせいか。新聞の日付は1週間ほど前だ。戦地まで届くのに時間がかかるのだ。
「あんたたちが一生懸命看護してくれているのは知ってるよ。だからなー、これはないよなー」
ないない。
「瀕死?」
ローラがぼそっと言った。
「…………」
答えようがない。献身的な看護って。2人で部屋にこもって?
はあー。
「ふざけるな! 死人が出ているんだぞ!」
離れた席で、1人の兵士が叫んだ。
だよねー。
今だって、治療の甲斐なくただ横になっている患者がいる。
手を失った者、足を失った者、目が見えなくなった者、利き手が使えなくなった者、杖なしでは歩けなくなった者。
生きて帰れなくなった者。
そんな人がたくさんいるのに。
なんだか、肩の上にずどーんと重しが乗ったような気がした。
「わたしたち、ここでなにをしているのかしら」
たぶん、全員がそう思っている。
士気はダダ下がり。
それから」1週間後、今度は第2王子殿下がやって来ることになった。
またか。
もうたくさんです。




