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図書室で吹いた風に導かれて  作者: tomsugar


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8/33

風の神さまに呼ばれて

週末、私は母とともに、町はずれにある祖母の家を訪れた。

古びた日本家屋は、ひんやりとした影と木の香りをまとい、

時が止まったような静けさに包まれていた。


           *


母は、いろいろ吹っ切れたのか、

最近は少しずつ元気を取り戻している。


祖母の家は町はずれにある、古びた日本家屋で、ひんやりとした影と木の香りが残る、どこか時間が止まったような場所だった。隣町に嫁いでいた祖母は祖父が亡くなった後、出身地である風守町にひとり戻ってきていた。


ーおばあちゃんに昔のことを聞けるかもしれない


そんな直感に突き動かされて、『風守神社由縁かざもりじんじゃゆえん』の古書をバッグにしのばせてきた。


「今日、パートの面接があるから、おばあちゃんの見守りお願いね」


そう言い残し、母は足早に出かけていった。祖母の部屋は、家の奥にある日当たりの悪い和室だった。

畳の上には電動ベッドが据えられ、白いシーツの上に祖母が静かに横たわっていた。

その横には、介護用の水筒、薬の袋、テレビのリモコン。部屋の隅には古びた桐タンスと、色褪せた写真立て。床の間には、舞を踊る日本人形とともに、風化した桐箱がいくつも積み重ねられていた。年季の入った扇風機が、ガタガタと音を立てながら首を振って、静かな風を送り込んでいた。


祖母は昨年の暮れに倒れてから、寝たきりになった。

名前を呼んでも返事がないことも多く、

会話がかみ合わない日も増えていた。

けれど、不思議と昔のことだけは、鮮やかに覚えているらしい。

私はそっと祖母の枕元に座り、小さな声で呼びかけた。


「おばあちゃん……風守神社の昔のこと、覚えてる?」


しばらくの沈黙の後、閉じられていた瞼がゆっくりと持ち上がった。

そして、しわの刻まれた唇がかすかに動いた。


「……風の神さまに……名を呼ばれたら、戻ってこられないんだよ……」


祖母の声は、遠くから響く風の音のようにかすかだった。けれどその一言は、私の胸に深く突き刺さった。


名を呼ばれる――

その言葉だけが、耳の奥に残った。


カタカタと鳴る扇風機の風がかすかに揺らした古い桐箱の影が、まるで何かを語りかけてくるように思えた。

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