図書室の噂と静かな声
誰ともつながらずにいたい。
けれど――
誰かと心を通わせたい気持ちが、ほんの少しだけ、胸の奥に残っている。
*
教室は、むわっとした、重たい熱気で満たされていた。
「補習だー、最悪ー」
「俺はギリセーフ!」
答案用紙を手に、笑ったり落ち込んだりする声が教室中を飛び交っていた。
私の席は幸い教室の一番後ろ。
その熱気の端っこで、私は息を最小限に吸ってどこに焦点を合わせるでもなく黒板の方へ眼をやった。
「朝霧さん、めっちゃ好成績やん!」
私の右隣りの中沢加奈が、椅子ごと身体を寄せて話かけてきた。
「前の学校でやったところだったから」
私は、できるだけ感情を乗せず、淡々と答えた。
「なぁなぁ、いつもお昼どこ行ってるん?
いつも消えるやん、食堂?」
「中庭でお昼食べたあと、図書室に行ってる」
一緒に行きたい、なんて言われないように。
そう願いながら、言葉を短く切った。
「図書室かぁ。
今日お弁当忘れたから、食堂やったから、一緒に行きたかったのに〜」
そう言って微笑む加奈を見て、私は心の中で、ひっそりと息をついた。
――よかった。
けれど、その直後。
「そういえばさぁ、図書室って、女の幽霊が出るって噂あるらしいでぇ〜」
「え?」
――キーンコーンカーンコーン。
教室のざわめきが一瞬遠のき、チャイムの鈍い残響が、頭の奥でいつまでも共鳴し続けた。
私は、教室の熱気に押し出されるように、反射的に教室を抜け出した。
上靴のゴムが―キュキュ―と音を立てる。
足が床に張り付くような感覚から逃げるように、私は駆けだしていた。




