表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
図書室で吹いた風に導かれて  作者: tomsugar


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/38

風の戻った日常

大祭のあとの風守町には、ふたたび日常の風が吹き始めていた。

笑い声。宿題。補習。そして、いつもの帰り道。

けれど、その空気は、ほんの少しだけ優しくなっていた。


           *


一方、夏休みの課題といえば――

神事にかかりきりだった私と颯と加奈の三人は、案の定、まったく手をつけていなかった。


あれだけの出来事を経て、「宿題どころじゃなかった」事情は町の大人たちにも伝わっていて、町長の守部さんが学校に掛け合ってくれたおかげで、特別に締め切りを延ばしてもらえることになった。


とはいえ、宿題は宿題。

放課後の教室に取り残されるかたちで、三人の『追い込み補習』が始まった。


「……無理。もうやりたくない!」


最初に音を上げたのは、加奈だった。

机に突っ伏し、鉛筆を握る手も投げ出している。


颯はというと、得意な科目は驚くほどの集中力で一気に終わらせ、苦手なものは潔く放置。

いつのまにか、悠々とおやつタイムに突入していた。


その隣で私は、誰に急かされるでもなく、淡々とノートを進めていた。


そんな日々が一週間ほど続いた、ある日のこと。

ついに三人そろって宿題を提出し終えた帰り道で、加奈が両手を空に突き上げて叫んだ。


「この町の窮地を救ったんだから、宿題なんて免除されるべきだったよね!」


「まったくもってそうだ!」


颯も真顔でうなずいてみせる。


私はふっと笑い、静かに言った。


「大昔、神社に閉じ込められて、神事だけしてた頃を思えば……今のほうが、ずっといいと思うな」


「じゃあさ、全部免除されたうえで、自由も保証してもらうってのは?」


颯が、冗談とも本気ともつかない口調で言うと、


「それだ!!」


加奈が即座に叫んだ。


三人の笑い声が、夕焼け色の通学路にかろやかに溶けていった。


           *


祭りが終わり、町に日常が戻ったころ。

長らく設置が見送られていた風守神社の崖にも、ようやく安全柵が取り付けられた。


これまで工事を進めようとすると、原因不明の事故や機材トラブルが相次いでいたという。

だが神事のあと、作業は驚くほど静かに、何事もなく完了した。


これで、町の子どもたちも、安心して境内で遊べる。


神主の清雅は、崖に沿って並ぶ柵を、感慨深げに見つめていた。


風は今日も、穏やかに町をめぐっている。

子どもたちの笑い声とともに。

何気ない日常の、その中を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ