風の戻った日常
大祭のあとの風守町には、ふたたび日常の風が吹き始めていた。
笑い声。宿題。補習。そして、いつもの帰り道。
けれど、その空気は、ほんの少しだけ優しくなっていた。
*
一方、夏休みの課題といえば――
神事にかかりきりだった私と颯と加奈の三人は、案の定、まったく手をつけていなかった。
あれだけの出来事を経て、「宿題どころじゃなかった」事情は町の大人たちにも伝わっていて、町長の守部さんが学校に掛け合ってくれたおかげで、特別に締め切りを延ばしてもらえることになった。
とはいえ、宿題は宿題。
放課後の教室に取り残されるかたちで、三人の『追い込み補習』が始まった。
「……無理。もうやりたくない!」
最初に音を上げたのは、加奈だった。
机に突っ伏し、鉛筆を握る手も投げ出している。
颯はというと、得意な科目は驚くほどの集中力で一気に終わらせ、苦手なものは潔く放置。
いつのまにか、悠々とおやつタイムに突入していた。
その隣で私は、誰に急かされるでもなく、淡々とノートを進めていた。
そんな日々が一週間ほど続いた、ある日のこと。
ついに三人そろって宿題を提出し終えた帰り道で、加奈が両手を空に突き上げて叫んだ。
「この町の窮地を救ったんだから、宿題なんて免除されるべきだったよね!」
「まったくもってそうだ!」
颯も真顔でうなずいてみせる。
私はふっと笑い、静かに言った。
「大昔、神社に閉じ込められて、神事だけしてた頃を思えば……今のほうが、ずっといいと思うな」
「じゃあさ、全部免除されたうえで、自由も保証してもらうってのは?」
颯が、冗談とも本気ともつかない口調で言うと、
「それだ!!」
加奈が即座に叫んだ。
三人の笑い声が、夕焼け色の通学路にかろやかに溶けていった。
*
祭りが終わり、町に日常が戻ったころ。
長らく設置が見送られていた風守神社の崖にも、ようやく安全柵が取り付けられた。
これまで工事を進めようとすると、原因不明の事故や機材トラブルが相次いでいたという。
だが神事のあと、作業は驚くほど静かに、何事もなく完了した。
これで、町の子どもたちも、安心して境内で遊べる。
神主の清雅は、崖に沿って並ぶ柵を、感慨深げに見つめていた。
風は今日も、穏やかに町をめぐっている。
子どもたちの笑い声とともに。
何気ない日常の、その中を。




