エピローグ 風の図書室で
秋の気配が忍び寄る昼休み。
私は、静かな図書室であの子の気配を感じていた。
ページの隙間から届くことばは、懐かしくて、やさしかった。
*
風の熱気も落ち着き、秋の気配が感じるころ、私はいつもどおり、昼休みを図書室で過ごしていた。
私は、書架の前に立ち、次に読む一冊を物色していた。
そのとき、不意にぱさりと音がして、一冊の本が床に落ちた。
――葵からの、メッセージだ。
もう驚きもしない。
私はすっかり慣れた手つきで本を拾い、自然と開かれていたページに目を落とす。
そこには、小説の主人公による、静かな回想のことばが綴られていた。
*
私は今、とある御免状を手にするべく、厳しき教えのもとに身を置き、日々机に向かう暮らしを重ねております。ときおり、ふと窓の外に目をやれば、この籠のごとき日常から、いつの日か解き放たれることを夢見ずにはいられません。
そしてその折には、幼き日、ともに野や山を駆け巡ったあの友の面影が、風に乗って胸をよぎるのです。
されど私は、いまはただ、己に課された務めを全うすべきと心得ております。
*
それがまるで、昭和初期の女学生の手記のように読めて、葵がこの口調で話している姿を想像すると、思わずクスリと笑いが込み上げてきた。
「まあ、なにか面白いことでもあったの?」
カウンター越しにいた椎名先生が、優しく声をかけてきた。
「……葵からのメッセージです」
私は、本を持ったまま、その開かれたページをそっと先生に見せる。
椎名先生は一読すると、ふう、と小さく息をつき、目を細めて言った。
「……あの子、自由に遊んでるわけじゃないのね…資格を取りに学校に行ってるのかしら?私も負けていられないわね」
そして――ページの最後には、こんな一文があった。
またいつか、君に逢える日が参りましょうことを、楽しみに心を温めております。
――また、会える日が来るのを楽しみにしてるよ。
そのとき、秋の風がひとすじ、図書室を吹き抜けた。
カーテンがふわりと揺れ、棚の上の小さな栞が、まるで手を振るように舞い上がった。




