風を迎えるために
すべてが揃い、風の祭壇がよみがえる。
その中心に立つのは、今を生きる若き巫女と、過去をつないできた声たち。
*
「……今、何か硬いものに触れた」
私はスコップを動かす手を止め、指先で土をそっと払った。
やがて、地中から木の箱の角が覗く。湿った土の匂いの中で、それだけが異質な静けさをまとっていた。
「箱……桐箱みたい」
少し離れた場所で見守っていた颯が、小さくうなずく。
「無理しないで。ゆっくり開けよう」
私は泥を丁寧に拭い、慎重に蓋へ手をかけた。
きし、と微かな音を立てて開いた箱の中には、絹の風呂敷が静かに納められている。
それをほどいた瞬間――
時を越えて守られてきた一枚の銅鏡が、朝の光を受けて姿を現した。
「……見つけた」
思わずこぼれた声が、わずかに震える。
「本当に、あったんだな」
颯は鏡を見つめ、静かに息を吐いた。
「きっと戦時中の混乱で、誰かがここに隠したんだろう」
私は泥のついた手のまま、そっと鏡に触れた。
その瞬間、あたたかな風が頬をなで、空気がわずかに澄んだ気がした。
――これで。
風の神事「風の迎え」に必要なものは、すべて揃った。
あとは、巫女を選ぶだけだった。
*
数日後。
町の会議室に、守部敬一郎町長を中心として関係者が集められ、儀式復活に向けた打ち合わせが行われた。
「巫女役についてだが――」
町長が資料をめくりながら口を開く。
「中沢姉妹。加奈さんと麻子さんだ。大阪の由緒ある神宮の家柄で、神事への理解もある。今回は補佐役として適任だろう」
その言葉を受け、椎名先生が静かに前へ出た。
「もし人数が足りないのであれば……私が務めます」
一瞬、室内の空気が張りつめる。
「実は、私の実家も、かつて神事に関わっていました」
私は思わず椎名先生を見つめる。
先生は、小さく微笑んでうなずいた。
「では、三人目の巫女は椎名さん。
主祭――風の巫女は、朝霧結風さんにお願いしたい」
町長はそう言ってから、御守清雅に視線を移した。
「そして最後の一人だが――」
清雅は一拍置き、静かに告げた。
「颯。お前がやりなさい」
「え……僕? 男だけど……」
戸惑う颯に、父は迷いなく言い切る。
「祝詞を奏上する役に、性別は関係ない。お前なら務まる」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
儀式に必要なすべての役が、いま――揃った。




