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図書室で吹いた風に導かれて  作者: tomsugar


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30/33

光の柱

黒い(もや)に覆われた庭。

風はそこで滞り、行き場を失ったまま、長いあいだ留まり続けていた。


祈りと祝詞(のりと)の言葉が、その流れをもう一度ひらくとき、

土の下に隠されていたものが、静かに姿を現そうとしていた。


           *


「黒い(もや)、どのあたりから流れてるかわかる?」


颯が低く問いかける。

私は一度、庭全体を見渡し、そっと指を伸ばした。


「ここら辺から……あっちに向かって流れていってる気がする。

南西から北東、って感じ」


「やっぱり……」


颯は小さく頷き、ひとり納得したように表情を引き締めると、

荷物の中から御幣(ごへい)を取り出した。


「じゃあ、始めるよ」

そう言って正面に向き直り、手にしていた(さかき)を私に差し出す。


「これ、持ってて。

さっきの方向に向かって、祈ってくれればいいから」


「え、どんなふうに祈れば……?」

「んー……『清まれ〜清まれ〜』みたいな感じで?」

「それ、適当すぎない?」

「いや、気持ちが大事だから」

私は小さく笑い、(さかき)を両手で受け取った。


           *


「遠つ神

神直毘神(かむなおびのかみ)

大直毘神(おおなおびのかみ)

といかづちのちからをもって

ここにある(けが)れを(はら)い清めたまえ」


「かく申せば、天津神(あまつかみ) 国津神(くにつかみ)

八百万の神よ 聞こし召せ

黒きもの、闇の気を

今ここに(はら)(たま)えと――

願い奉る」


「祓へ給へ、清め給へ

守り給へ、幸へ給へ」


           *


私の(てのひら)(さかき)が、ふわりと揺れた。


颯の御幣(ごへい)が空を切った、その瞬間――

敷地一帯に(よど)むように広がっていた黒い(もや)が、

風に吹かれた霧のように、音もなくほどけていく。


薄く、薄く――

次第に、光が差し込む感覚だけが残った。


しん、と静まり返った空間のなか、

昇りはじめた朝日が、二人の頬をかすめる。


そのとき、ふと――

風が、わずかに動いた。


庭の隅へ目を向けると、

淡く、小さな光の柱が、天へ向かって伸びていた。

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