光の柱
黒い靄に覆われた庭。
風はそこで滞り、行き場を失ったまま、長いあいだ留まり続けていた。
祈りと祝詞の言葉が、その流れをもう一度ひらくとき、
土の下に隠されていたものが、静かに姿を現そうとしていた。
*
「黒い靄、どのあたりから流れてるかわかる?」
颯が低く問いかける。
私は一度、庭全体を見渡し、そっと指を伸ばした。
「ここら辺から……あっちに向かって流れていってる気がする。
南西から北東、って感じ」
「やっぱり……」
颯は小さく頷き、ひとり納得したように表情を引き締めると、
荷物の中から御幣を取り出した。
「じゃあ、始めるよ」
そう言って正面に向き直り、手にしていた榊を私に差し出す。
「これ、持ってて。
さっきの方向に向かって、祈ってくれればいいから」
「え、どんなふうに祈れば……?」
「んー……『清まれ〜清まれ〜』みたいな感じで?」
「それ、適当すぎない?」
「いや、気持ちが大事だから」
私は小さく笑い、榊を両手で受け取った。
*
「遠つ神
神直毘神
大直毘神
といかづちのちからをもって
ここにある穢れを祓い清めたまえ」
「かく申せば、天津神 国津神
八百万の神よ 聞こし召せ
黒きもの、闇の気を
今ここに祓い給えと――
願い奉る」
「祓へ給へ、清め給へ
守り給へ、幸へ給へ」
*
私の掌の榊が、ふわりと揺れた。
颯の御幣が空を切った、その瞬間――
敷地一帯に澱むように広がっていた黒い靄が、
風に吹かれた霧のように、音もなくほどけていく。
薄く、薄く――
次第に、光が差し込む感覚だけが残った。
しん、と静まり返った空間のなか、
昇りはじめた朝日が、二人の頬をかすめる。
そのとき、ふと――
風が、わずかに動いた。
庭の隅へ目を向けると、
淡く、小さな光の柱が、天へ向かって伸びていた。




