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図書室で吹いた風に導かれて  作者: tomsugar


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29/33

霞を祓う朝

黒い靄に覆われた庭。

祈りと祝詞の言葉が、閉ざされていた風の通り道を再びひらくとき、

失われたものは、その姿を取り戻す。


           *


「……葵?」


白いセーラー服の少女は、音も立てず、庭の奥に立っていた。

ただ静かに、こちらを見つめている。


まるで――

最初から、私をここへ導くつもりだったかのように。


           *


――その日の夕方。


《颯君……あの庭に、何かがある気がするの》


私は、短い言葉でそう送った。

ほどなくして、返信が返ってくる。


《じゃあ、行ってみよう。 もしかすると――鏡が埋まってるかもしれない》


           *


夜。

ふたりはスコップを手に、風ノ宮家の空き家――祖母の実家跡を訪れていた。


夕暮れの名残が、庭に長い影を落としている。

昼間よりも、空気が静まり返って感じられた。


私が「視線を感じた」と言った場所を中心に、黙々と土を掘り進める。

だが、小一時間が過ぎても、手応えはなかった。


「……うーん、出てこないね」


颯が額の汗をぬぐいながら、息を吐く。


「何かに、妨げられてるのかもしれない」


「妨げられてる……そういえば」


私は少し迷ってから、口を開いた。


「ここにいるとね、うっすら黒い靄がかかったみたいに見えるの。

空気も……なんだか重くて」


「えっ、それ先に言ってよ」


颯は苦笑いを浮かべて立ち上がった。


「明日の朝、この場所を浄化しよう。

きっと、それで通じるようになるはずだ」


「……でも、葵まで、浄化しちゃわないでね」


その言葉に、颯はほんの少しだけ表情を緩めた。


「それは約束できないけど――

でも、きっと、葵ちゃんにとっても悪いことじゃないと思う」


「……うん」


私は、小さくうなずいた。

どこか、名残を惜しむように。


           *


翌朝、五時。


庭に出ると、すでに颯が狩衣姿で立っていた。


「……その格好で、自転車こいできたの?」


思わず声を上げると、颯は苦笑して首を振る。


「まさか。さすがに無理。父さんに車で送ってもらったよ。

帰りは……歩きかな」


「着替え、持ってきたらよかったのに。

家の中で着替えていけばいいのにさ」


「いや、これ、ひとりで脱ぎ着できないんだよ」


「あはは、それは大変だね」


ふたりは並んで、庭の中心に立った。


空気はひんやりとして、

早朝の淡い光が、土と草の上に静かに落ちている。


風は、まだ、息をひそめていた。

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