風の庭に呼ばれて
古い家の庭に眠る記憶が、ふたりを導く。
沈黙する土の下で、風はまだ、囁いていた。
*
放課後の図書室。
斜めに差し込む夕方の光の中で、私と颯は並んで机に向かい、「風の迎え」について集めた情報を整理していた。
「この儀式を復活させるには、いくつかの要素が必要なんだ」
颯はそう言いながら、ノートに要点を書き出していく。
一、祭壇
一、四方に立ち、祝詞を奏上する神職者
一、中央で風呼びを行う風の巫女
一、祭壇に据える、丸い鏡
「巫女の人選については、父さんに相談すれば候補は集められると思う」
そう言って、颯がこちらを見る。
私は、ゆっくりと首を横に振った。
「……でも、あの鏡だけは……」
言葉が続かなかった。
探しても、探しても、どこにも手がかりがない。
胸の奥に、どうにもならない行き止まりの感覚が残っていた。
「うん。鏡については、どの資料にも記録がない」
颯の声も、低かった。
「戦争で失われたのか、それとも……誰かが意図的に隠したのかもしれない」
静けさが、ふたりの間に落ちた。
ノートの文字だけが、淡い夕陽に照らされている。
颯と別れた帰り道、スマートフォンが小さく震えた。
母からのメッセージだった。
――今日、実家跡地の空き家、賃貸契約できたよ。
少しずつ片づけて使えるようにするつもり。
いずれは購入も考えてる。
「……風ノ宮家が代々住んでいた、あの家」
かつて、神事に関わる巫女の家系として、長く守られてきた場所。
望みは薄い。けれど――何かが、まだ残っている気がした。
週末。
母とともに空き家を訪れ、ひと通り室内を確認したあと、私はふと、庭の奥へ視線を向けた。
その瞬間、背筋をなぞるような感覚が走った。
――見られている。
理由はない。けれど、はっきりとそう感じた。
ゆっくりと目を向ける。
そこに、ひとりの少女が立っていた。




