封印された扉の先へ
夢の扉が開かれたとき、
過去と未来の狭間に、確かに風が吹く。
今、閉ざされてきた場所が、静かに口を開こうとしていた。
*
颯から「資料館に来てほしい」と連絡があったのは、放課後のことだった。
郷土資料館に着くと、すでに数人が集まっていた。
町長であり、この資料館の館長でもある
守部敬一郎氏。
風守神社の神主で、颯の父――御守清雅氏。
そして椎名先生と颯。
「遅くなってすみません」
そう言って頭を下げると、守部町長が軽く手を上げた。
「いや。ちょうどいい時間だよ。
急に呼び出してしまって、すまなかったね」
その笑顔は穏やかだったが、場の空気はどこか張りつめていた。
町長は一度、全員の顔を見渡してから、静かに口を開いた。
「今日はね、
君たちが調べているこの町の神事について、
きちんと話をしておくべきだと思って、集まってもらった」
椎名先生に視線を向け、続ける。
「椎名さんには、以前からこの資料館で古文書の整理を手伝ってもらっている。
今回の話にも、立ち会ってもらう必要があると思った」
誰も口を挟まなかった。
「この郷土資料館は、明治期に建てられた建物だ。
見た目は、ただの和洋折衷の洋館に過ぎない」
町長は、足元の床を軽く踏みしめる。
「だが――本当に大切なのは、この下にある」
一拍置いてから、続けた。
「明治の初め、この町では『壊されるもの』をどう守るか、真剣に考えなければならなかった。新しい時代の名のもとに、古い信仰や神殿が失われていく時代だったからね」
清雅が、静かにうなずく。
「そこで決められたのが、神殿を地下に保護し、その存在自体を徹底して伏せる、というやり方だった」
町長の声は淡々としていた。
「それが、風守の掟だ。
町の中枢にいる者だけが知り、
決して外に漏らさない――そういう約束だった」
私は息を詰めたまま、話を聞いていた。
「正直に言おう」
町長は、わずかに間を置いた。
言葉を選んでいるというより、覚悟を確かめるような沈黙だった。
「この掟が、もう形骸化していることは、
私も、清雅も、ずっと前からわかっていた」
「変えるべきだとも思っていた。
だが、町の有力者たちを納得させるだけの材料を、揃えきれずにここまで来てしまった」
低く息を吐く。
「先人たちが必死に守ってきたものを、
自分の代で手放す――その決断は、簡単じゃなかったからね」
町長の視線が、颯へ、そして私へと移る。
「だが――君たちが動いた。
調べ、確かめ、逃げずに、ここまで辿り着いた」
町長は、懐から分厚い鍵束を取り出した。
「だから、決めた。この掟は、ここで終わりにする」
鍵が、かすかに音を立てる。
「この資料館の地下には、封じられた扉がある。君たちには、その先を見てもらいたい」
町長が先に立ち、廊下の奥へと歩き出す。
重い扉の前で足を止め、鍵を差し込む。
鉄がきしむ音とともに、
長い間閉ざされていた扉が、ゆっくりと開き始めた。
――風が、わずかに、奥から流れ出してきた。




