風の神殿へ続く道
風は、記憶を越えて届く。
思い出と夢が重なるとき、見えなかった扉が、わずかに開く。
*
少しでも早く話したくて、昼休みに颯と図書室で待ち合わせをした。
本棚の影にある読書スペースで本を開いて待っていると、入り口の方から椎名先生の声がする。
「まあ、珍しい。ここで待ち合わせ?」
「はい」
本を閉じて立ち上がると、ちょうど颯がこちらへ向かってくるところだった。
私は隣の席を指さし、声を潜めて座るよう促す。
「昨日ね、ちょっと変な夢を見たの。……聞いてくれる?」
言葉だけでは足りない気がして、ノートを開く。
中央に石の祭壇。
その上に、円い鏡のようなもの。
さらに、その周囲――四隅に立つ、四本の柱。
夢の光景を線に落としながら、私は続きを話した。
「祭壇の前に立って、音の出ない口笛を吹いたの。
そうしたら、四方から風が集まってきて……全部、鏡の中に吸い込まれていった」
説明し終えたところで、颯がノートに身を乗り出す。
「この柱……東西南北に立ってた?」
「うん。はっきり、そうだった」
颯は指先で線をなぞり、小さく息を吐いた。
「やっぱり」
自分の調査ノートを開き、簡単な図を書き足す。
「風水でいう四神だと思う。
東の青龍、南の朱雀、西の白虎、北の玄武」
颯は、顔を上げた。
「風守町には、今もそれぞれを象徴する社寺が残ってる。
東に《蒼鱗神社》、南に《朱之杜神社》、
西に《白嶺寺》、北に《玄静院》」
町の形が、頭の中で静かにつながっていく。
「じゃあ……あの祭壇は?」
私の問いに、颯はノートの中央を指した。
「郷土資料館の場所と一致する。町の中心だ。
昔、そこに『風の神殿』があったって話も残ってる」
「発掘されたの?」
一瞬、颯は言葉を選ぶように視線を落とした。
「……はっきりした記録はない。
父に聞いても、いつも話を濁される。
たぶん、意図的に伏せられてる」
「隠してる……ってこと?」
「うん。だから、僕たちで確かめる必要がある」
私は、静かにうなずいた。
私が見たあの光景は、この町に伏せられてきた真実だった。
風に運ばれ、積もり重なった記憶に、私は確かに触れていた。




