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図書室で吹いた風に導かれて  作者: tomsugar


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23/33

思い出された神事

夢の中で、『私』は白い装束をまとい、円形の石壇の上に立っていた。

四方に並ぶ巫女たちが詠唱を捧げるなか、『私』は唇をすぼめ、音のない口笛のように、静かに息を吐く。


空気が震えた。

風が渦を巻き、中央に据えられた鏡へと吸い込まれていく。


それは、神を迎える儀式――

その中心に、自分がいる。

ただ、その確かな感覚だけが残っていた。


           *


風がひときわ強まった瞬間、『私』の身体はふっと浮かび、意識はそのまま空へと引き上げられた。


見下ろした先に、町が広がっていた。


山際には、藁ぶきや板葺きの家屋が寄り集まるように並び、集落から少し離れた場所――町の中心だけが、異様なほど整えられている。

野ざらしの円形の石畳。その中央に石の祭壇があり、さらに外周には、東西南北を示すように、太く高い木柱が一本ずつ立っていた。


建物はない。

ただ、儀式のためだけに残された空間。


そこが風守の町だと確信できたのは、遠くに連なる山の稜線が、現実の景色と寸分違わなかったからだ。


――そして、目が覚めた。


朝の光が差し込む部屋で、しばらく動けずにいた。

夢の余韻が、まだ身体に残っている。


「遅刻するわよ!」


母の声に現実へ引き戻され、私は慌てて支度をした。


自転車を漕ぎながら、何度も夢の光景が頭をよぎる。

あの鏡は、祖母の家にも、郷土資料館にもなかった。

――いったい、どこにあるのだろう。


校内の駐輪場で自転車を止めても、その考えは頭から離れなかった。

足元を見ないまま、ぼんやりと校舎へ向かって歩いていると――

不意に、声をかけられた。


「結風ちゃん」


振り返ると、そこに立っていたのは颯だった。

学校で、ほとんど話したことのない彼。


「そのまま行くと、階段から落ちるよ」


足元を見ると、すぐ先が段差になっていた。


「ありがとう……ちょっと、変な夢を見てて」

「変な夢?」


そこへ、甲高い声が飛んでくる。


「ちょっとー、お二人さーん!」


加奈だった。


「もう、コソコソするのやめたの?」

「違うよ。階段落ちそうだったから、声かけてくれただけ」

「ふーん。じゃ、邪魔しちゃ悪いから、またあとでねー!」


そう言い残して、加奈は走り去っていった。


「……あの子、郷土資料館の受付の人と顔、似てるよな」

颯がぽつりと言う。


「ああ。あの人、加奈のお姉さんなんだって」

「なるほど……だから噂が早いのか」


そう言って、颯は腕時計を見る。


「やば。急がないと。じゃあ、また」


彼も走り去っていった。


私はひとり、立ち止まって空を見上げた。

夏の陽射しの向こうで、どこか――

また風が、動き始めている気がした。

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