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図書室で吹いた風に導かれて  作者: tomsugar


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22/33

夢のはじまり

風守町には、かつて「風の神」を迎える神事があった。

風の巫女がその儀式を担い、旧暦七月五日には、風を鎮める祈りが捧げられていたという。


だが、戦後を境にその神事は途絶えた。

町には、行き場を失った風だけが、静かに滞るようになった。


すべては、ある夏の午後。

一人の少女が、風に気づいてしまった日から――

再び、動き始める。


           *


布団に入り、枕元のスタンドライトを灯して、お気に入りの本を手に取る。

昼間に図書室で読むのとは違い、夜は心を落ち着けるような物語を選ぶと決めていた。


ちょうど一区切りを読み終え、本を閉じて、ライトのスイッチをそっと押す。

暗闇に包まれた部屋で、タオルケットに身を沈め、目を閉じた。


――「おまえならわかる」って。

おばあちゃん、ほんと適当なこと言ってくれるなぁ。


今日あったこと、今まで調べてきたことが、頭の中で絡まり合う。

なかなか眠れそうにない――そう思っていたはずなのに。


気がつくと、まぶたの裏に、静かに光景が浮かび始めていた。


――ああ。

寝ちゃったんだ、私。


夢だとわかっていた。

それでも、不思議なほどはっきりとした意識があった。


そして、その夢の中で、私は――

巫女として神事に臨む、もう一人の自分の視線を通して、その場に立っていた。


目の前には、石で組まれた荘厳な祭壇。

周囲には、神官らしき男たちと、数人の巫女たちが並んでいる。

そして中央には、白い装束をまとい、静かに祈りを捧げる「私」がいた。


その装束も、所作も、今の神社で見るものとはどこか違う。

けれど、違和感はなかった。

――そうあるべき姿だと、体が知っているようだった。


祭壇の中心には、円い鏡のようなものが据えられている。

四方に立つ巫女たちは、それぞれ異なる方角を向き、意味のわからない古い言葉を唱えていた。


中央の「私」は、唇をすぼめ、

音にならない口笛に、静かに息を通す。


次の瞬間、空気が震えた。


風が、生き物のように渦を巻き、

すべてが、鏡の中へと吸い込まれていく。


祭壇に据えられた円い鏡は、

神を迎えるための門だった。


巫女たちの詠唱が高まり、

笛に息が通されるたび、風は鏡へと導かれていく。


風が通り、

神が降りる道が、今まさに開かれようとしている。


そのことを、夢の中の「私」は――

疑いようもなく、知っていた。

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