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図書室で吹いた風に導かれて  作者: tomsugar


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20/33

桐の箱が開くとき

ひんやりとした祖母の部屋の空気には、何かの気配が満ちていた。

埃をかぶった桐箱の山。その奥に隠れるように置かれた長持の蓋を開くと、

風と祈り、そして忘れられた神事の記録が、静かに眠っていた。


私はその中心で、過去と未来をつなぐような、かすかな鈴の音を聴いた気がした。


           *


翌日、私は母と祖母の家を訪れた。

祖母は布団の上で、目を閉じている。


「おばあちゃん」


呼びかけると、うっすらと瞼が持ち上がった。


「……風が、また乱れ始めているのね」


その一言が、胸の奥に冷たく沈んだ。


桐箱は、志乃の寝室の床の間に、無造作に積み重ねられていた。


「こんなに桐の箱、あったかしら。越してきたときは、こんなに無かったはずだけど……」


母が首をかしげる。


私たちは、箱をひとつずつ手前に引き出した。

すると、その奥から――風ノ宮家の家紋が彫られた、立派な長持が現れた。


中にあったのは、古びた鈴。

虫に食われ、ほとんど形を失った古文書の断片。

そして、一枚の古地図だった。


風守神社。

風ノ宮の屋敷。

池と、いくつかの寺。


線は薄れ、紙は黄ばんでいるのに、配置だけは妙に鮮明だった。


次に取り出した巻物を広げる。

彩色は褪せているが、まるで錦絵のようだ。


巫女の装束をまとった女性たちが、一人の女性を囲んで立っている。

中央の台には、丸い鏡のようなもの。

周囲に立つのは、四人。


何かの神事――それだけは、はっきりと伝わってきた。


私は、そっと鈴を手に取った。

小さく鳴らすと、かすかな風の音が部屋に広がる。


空気が、すっと澄んだ。


その音に、祖母がわずかに微笑む。


「この鈴、もらっていい?」


そう尋ねると、祖母はかすれた声で答えた。


「肌身離さず、持っておいで……守ってくださるよ」


私は、鈴をぎゅっと握りしめた。


           *


しばらくして、祖母がふいに目を見開いた。

怯えるような、その目。


「……風の神様を、助けてあげないと。

鬼がね、ずっと外から……こっちを見てるんだよ」


「おばあちゃん……神様を助けるって、どうすればいいの?

この絵に描いてあるみたいな儀式……やり方、知ってる?」


私は、そっと祖母の手を握った。


祖母は目を閉じたまま、静かに言った。


「おまえなら……きっと、わかるよ」


そのまま、再び寝息を立て始める。


私は祖母の呼吸を確かめながら、

もう一度、鈴を鳴らした。


これが始まりなのだと――

心のどこかで、確かに感じながら。

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