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図書室で吹いた風に導かれて  作者: tomsugar


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19/33

失われたお社

午後の資料館は静かで、外の蝉の声も届かない。

冷たい空気の中、古い地図を広げた二人は、

ある一点を見つめながら、同じ思いにたどり着こうとしていた。


風ノ宮の跡地。

この町に残された歪みが、そこを起点にしている――

そんな感覚が、二人のあいだに静かに共有されていた。


           *


その日の午後、私は 御守颯(みもりはやて) とともに郷土資料館を訪れていた。

町の中央に位置する古い洋館は、外の暑さとは切り離されたように、ひんやりと静まり返っている。


資料室の片隅で、颯が大きな古地図を机に広げた。


「これが、風ノ宮家の旧屋敷の敷地図。昭和初期のものだ」


私は地図をのぞき込み、別の資料から現代の住宅地図を取り出す。

二人で重ねて照らし合わせた瞬間、ぴたりと一致する場所があった。


「……この空き家は、風ノ宮家の中核をなしていた建物の跡地に建っている」


颯の表情が、わずかに強張る。


「父の話によるとね。敷地内には、小さなお社があったらしいんだ。

昔は、そこで簡単な神事をすることもあったって」


一度、言葉を切る。


「でも……そのお社が、あまり良くない形で解体された可能性があるって、父は心配してた」


「……良くない形って?」


「ちゃんとした手順を踏まずに、急いで壊したとか……そういうことらしい」


私は、少し考えてから訊いた。


「もし、そんなふうにお社を壊したら……どうなるの?」


颯はすぐには答えず、視線を地図に落とした。


「……守ってくれていたものが、役目を果たせなくなるかもしれない」


「それって……」


「はっきりしたことは言えない。でも、良い形じゃなかったのは確かだと思う」


しばらくの沈黙のあと、颯が静かに続ける。


「実際、風ノ宮家は没落してるし……その跡地に建てられた分譲住宅でも、あまり良くない話を聞く」


「良くない話?」


「住んで長くいられなかったり、取り壊されたり。

今では駐車場になっている場所もある。

気づけば、ほとんど人が居着かない土地になっている」


そのとき、静かに、風が廊下をすり抜ける音がした。

まるで、誰かがこちらの話に耳を澄ませているかのように――。


私と颯は、目の前に広がる地図を見つめたまま、言葉を失っていた。

その沈黙の底に、まだ名前を与えられていない問いが、確かに息づいているのを感じながら。

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