失われたお社
午後の資料館は静かで、外の蝉の声も届かない。
冷たい空気の中、古い地図を広げた二人は、
ある一点を見つめながら、同じ思いにたどり着こうとしていた。
風ノ宮の跡地。
この町に残された歪みが、そこを起点にしている――
そんな感覚が、二人のあいだに静かに共有されていた。
*
その日の午後、私は 御守颯 とともに郷土資料館を訪れていた。
町の中央に位置する古い洋館は、外の暑さとは切り離されたように、ひんやりと静まり返っている。
資料室の片隅で、颯が大きな古地図を机に広げた。
「これが、風ノ宮家の旧屋敷の敷地図。昭和初期のものだ」
私は地図をのぞき込み、別の資料から現代の住宅地図を取り出す。
二人で重ねて照らし合わせた瞬間、ぴたりと一致する場所があった。
「……この空き家は、風ノ宮家の中核をなしていた建物の跡地に建っている」
颯の表情が、わずかに強張る。
「父の話によるとね。敷地内には、小さなお社があったらしいんだ。
昔は、そこで簡単な神事をすることもあったって」
一度、言葉を切る。
「でも……そのお社が、あまり良くない形で解体された可能性があるって、父は心配してた」
「……良くない形って?」
「ちゃんとした手順を踏まずに、急いで壊したとか……そういうことらしい」
私は、少し考えてから訊いた。
「もし、そんなふうにお社を壊したら……どうなるの?」
颯はすぐには答えず、視線を地図に落とした。
「……守ってくれていたものが、役目を果たせなくなるかもしれない」
「それって……」
「はっきりしたことは言えない。でも、良い形じゃなかったのは確かだと思う」
しばらくの沈黙のあと、颯が静かに続ける。
「実際、風ノ宮家は没落してるし……その跡地に建てられた分譲住宅でも、あまり良くない話を聞く」
「良くない話?」
「住んで長くいられなかったり、取り壊されたり。
今では駐車場になっている場所もある。
気づけば、ほとんど人が居着かない土地になっている」
そのとき、静かに、風が廊下をすり抜ける音がした。
まるで、誰かがこちらの話に耳を澄ませているかのように――。
私と颯は、目の前に広がる地図を見つめたまま、言葉を失っていた。
その沈黙の底に、まだ名前を与えられていない問いが、確かに息づいているのを感じながら。




