表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
図書室で吹いた風に導かれて  作者: tomsugar


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/33

転校生と雨の町

新しい町、知らない場所。

私は、雨の降る世界に一人立っていた。


           *


風守町(かざもりちょう)の駅前に一つだけある商店には文字の読めなくなった看板が―ギーギー―と音を立てて不安定に風にゆられていた。

――町の北東にある高校は、朝から分厚い雨雲に覆われていた。

湿気を含んだ空気が肌にまとわりつき、息をするたび、胸の奥までじっとりと沈んでいく。


転校初日。

私は、正門の前で一度だけ足を止めた。


門を進んで行くと校庭が広がる。ゆうに野球のグラウンド2面を取っても余りある広さだ。

そのさらに奥にはテニスコート、プールがゆったりと並んでいる。

登校時間だが、校内は不思議なほど静かだった。


私は、まとわりつく湿気に満ちた廊下を先生の後をついて歩いていた。

窓から、雨に煙る霧の向こうに濃い茶色に沈んだ古い校舎があった。


軒に当たる雨が、糸のように地面に流れ続け

木造の校舎の階段の前に小さな川を削り出している。


(あそこが入口か…)

私はしばらく、その木造の校舎を見つめていた。


教室に入ると、窓の外の灰色が、そのまま染み込んでくるようだった。

朝霧結風(あさぎりゆう)です。よろしくお願いします」


担任に促され、短く自己紹介をする。

それ以上、何も付け足す言葉は思いつかなかった。


案内されたのは、後ろの窓際の席だった。

視線の外にいられそうで、少しだけ助かった。


隣の席の女子が、にこやかに声をかけてくる。


「私は中沢加奈(なかざわかな)っていうねん。よろしくね!

その制服、かわいいなあ。お嬢様って感じやん」


このどんよりした空気の満ちる教室で、彼女のカラッと乾いた声が響いた。

私は曖昧に笑って、窓の外へ視線を逃がした。


風守高校の制服は紺のセーラー服だ。

でも、新しい制服はまだ届いていない。

私は、前の学校の制服のままだった。


──早く、ここから浮かない存在になりたい。


そんなことを考えながら、雨に滲む中庭をぼんやりと見つめる。


この町で過ごす時間が、私をどこへ連れていくのか。

その答えは、まだ何一つ見えていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ