風の抜ける道
噂と冗談が飛び交う昼休み。
加奈の言葉は相変わらずストレートで、だけどどこかあたたかい。
そんな日常のすぐそばで、誰にも気づかれずに風はまた、静かに動きはじめていた。
*
「……もしさ、あたしにできることがあったら言ってよ!
イケメンの御守君ともお近づきになりたいしさぁ。」
加奈らしい冗談まじりの言葉に、私は少し驚いて、それでも胸の奥が、ほんのわずかあたたかくなるのを感じた。
「ありがとう。でも……まだ、ちょっと、どう説明したらいいかわからなくて」
「そっか。じゃあ、私が必要になったら教えて」
その言葉に、私は小さくうなずいた。
小さな町の、噂のネットワークには正直驚いた。けれど、不思議とそれが嫌じゃなかった自分にも、少し驚いていた。
そのあと、いつものように図書室へ向かった。
*
今日も、高梨葵の姿は見えなかった。
本を読んでいると、不意に強い風が吹き抜け、カーテンがふわりと大きく膨れ上がった。
驚いて立ち上がった私は、すぐに違和感に気づく。
――すべての窓は、ぴたりと閉じられていた。
冷房の音だけが、静かに鳴っていた。
ぼんやりと外を眺めていると、後ろから椎名先生が声をかけてきた。
「どう? 調査は進んでる?」
「いえ、今解決策をいろいろ探してます」
「そう、くれぐれも気を付けてね」
「はい」
帰り際、いつもの会話を交わして図書室を出た。
教室へ戻る途中、私は何度か振り返った。
何かがついてきているわけでも、見られているわけでもない。
けれど、確かに気配だけが、背中に残っていた。
教室の空気がどこかざわついているように感じたのは、
夏休みが近いせいか――それとも。
席に腰を下ろし、私は窓の外をひとつ見上げた。
雲ひとつない夏空が、まぶしく広がっていた。




