噂が運ぶもの
七月後半。
日差しは強く、風は重く、蝉の声はとどまるところを知らない。
そんな真夏の昼休み、思いがけない一言から、
日常のなかに、ほんの少し波紋が広がった。
風の話ではなく、今ここにある、私たち自身の話として。
*
廊下を渡る風は、日を追うごとに熱と湿度を増し、肌にまとわりついてくる。
七月も、もう後半だった。
日は高く、蝉の声は相変わらず騒がしい。
いつも通りの昼休み。
自動販売機の前でぼんやり立っていると、隣にすっと人影が差し込んだ。
「ねえねえ、結風ちゃん。昨日、郷土資料館にいたやろぉ?」
中沢加奈だった。
急に縮まった距離に、私は思わず体をこわばらせる。
「……なんで知ってるの?」
加奈は、目をきらきらさせて、すっと距離を詰めてきた。
「ふふん。うちの姉ちゃん、あそこの受付でバイトしてんの。
昨日さ、美男美女の制服カップルが来てた〜って」
嫌な予感が、胸の奥でふくらむ。
「清楚でお嬢様風。黒髪ロングで眼鏡かけた女子って聞いてさ。
それ、どう考えても結風ちゃんやん?」
私は、言葉を失った。
「しかも相手が、ほら、あの神社の……御守くん!
すごない? 資料館デートやん!」
「ち、違う……デートとかじゃないよ!」
慌てて否定すると、加奈はにやにやと私を見つめた。
「へえ〜。じゃあ、なんで二人で資料館なんか行ってたん?」
答えが、喉の奥でつかえた。
事件のこと。風の巫女の伝承。颯と交わした話。
何をどう話せばいいのか、まだ自分の中で整理がついていなかった。
そんな私の沈黙を、加奈は見逃さない。
「ま、別に冷やかすつもりはないよ?
ただ……結風ちゃん、最近ちょっと雰囲気変わったなって思ってたから」
「……変わった?」
「うん。前より話しかけやすくなった。
前は、なんとなく拒絶されてる感じしてたし」
少し言いづらそうにして、加奈は続けた。
「……ごめん。変な言い方かもしれんけど」
「ううん。たぶん、当たってる」
私は、小さく笑った。
風のない廊下に、
ふたり分の影だけが、静かに揺れていた。




