風ノ宮の娘
古びた資料と、静かに交わされる言葉たち――
それらは、見えなかった点と点を、少しずつ線に変えつつあった。
そして私は、その中心に自分が立っていると知らされた。
そのとき、窓の外から聞こえていた風の音が、まるで別の意味を持つもののように、耳に残った。
*
「でも、わからないな。風の迎えは毎年あるのに、なぜ事故は十年おきなんだろう」
御守颯がぽつりと疑問をこぼす。
誰にも答えはわからなかった。
だが、何かが、いま静かに一つへと収束しはじめている――
そんな気配が、資料室の空気を満たしていた。
椎名が、そっと口を開く。
「……今年が、その十年目にあたるのよ。私はね、また誰かが犠牲になるんじゃないかって、怖いの」
「次の贄が選ばれる年……か」
颯の声が低く落ちる。
「今年の旧暦七月五日……新暦でいえば、8月30日ですね」
彼は、まっすぐ私を見つめた。
「――おそらく、次に狙われるのは……君だよ、結風ちゃん」
その瞬間、時間が止まったように感じた。
「な、なんで……?」
私は、自分の顔が引きつるのを感じた。
「次が、朝霧さんって、どうして?」
椎名が思わず声を上げる。
「朝霧さんは風ノ宮の血筋です」
颯は、静かに告げた。
「君は、正当な風ノ宮の巫女の継承者となりうる存在だ。
今年、この町に君が来たのは――偶然じゃないと思う」
颯はノートを指でたどりながら続ける。
「町の裏鬼門、南西には風ノ宮家の屋敷があった。風の通り道を見張る、重要な場所だった。
鬼門に建つ風守神社とともに、二つの結界が町を守っていた――かつては、ね」
その言葉が、鋭く冷たい刃のように、私の胸を貫いた。
ごうっ――!
窓の隙間から吹き込んだ突風が、テーブルの紙を巻き上げる。
私の髪が宙に揺れ、カーテンが音を立ててはためいた。
まるで町そのものが――
次の巫女の目覚めを、待っていたかのように。




