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図書室で吹いた風に導かれて  作者: tomsugar


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13/35

風の門が開く日

七月の風が、また一つ、記憶の扉を揺らしていた。

崖の上で感じたあの風が何だったのかを知るために、私は再び郷土資料館を訪れた。

そこにいたのは、もう一人、同じ過去に向き合う者だった。


           *


静かな資料室に、入口の扉が軋む音が響いた。

二人の足元に、木の床を踏みしめる足音が近づいてくる。

階段を上ってきたのは、司書の椎名佳代だった。


「……あら、ふたりとも。こんなところで会うなんて、偶然ね」


「先生……」


私が立ち上がる。椎名は小さく微笑み、机の上に広がる資料へと目を落とした。


「……調べものかしら?この縮刷版……もしかして、風の巫女について?」


私と颯が顔を見合わせ、そっと頷く。


「私も、小川さんが『葵』の話をしてから気になって――風守神社の事故について、もう一度調べてみようと思ってここへ来たの」


椎名は隣の椅子に腰を下ろすと、鞄から一冊のノートを取り出し、机の上に広げた。


「……ほんの個人的なメモだけど、見せるわね」


ノートの見開きには、過去の事件の記録が丁寧にまとめられていた。


■ 風守神社にまつわる少女たちの転落事故


・昭和50年(1975年)8月10日 ― 坂嶋 千代

 神事前夜に失踪。神社裏の崖下にて発見。

・昭和60年(1985年)8月20日 ― 三枝 澪

 風守神社の境内にて転落死。報道は小規模。

・平成7年(1995年)8月1日 ― 白石 知歩

 突風による事故死。崖下で遺体発見。神社との関連は不明。

・平成17年(2005年)8月10日 ― 宮前 柚葉

 中学生が神社近くで失踪、翌朝崖下で遺体が発見される。

・平成27年(2015年)8月20日 ― 高梨 葵

 詳細不明。風守神社近くの崖で死亡が確認されている。


「これ、日付がバラバラに見えるでしょう?」


椎名は指先で線を引きながら言った。


「でも、全部、旧暦に直すと――『七月五日』なの」


颯がはっと息を呑む。


「旧暦の七月五日……風の門が開かれる日だ。今は新暦でやってますけど、戦前の神事では、旧暦が基準だったはずです」


椎名は本棚の奥へと視線を向けた。


「私が調べた古い書物には、『七月五日に、風の神と共に災いも山から降りてくる』そう記されていたのよ」


「それって……その災いのせいで、巫女が毎回――」


私の声に、静かな重みがのる。


「実際、一連の事故が起こり始めたのは、風の迎えという神事が途絶えてからなの」


「神事の詳細なら……神主の父に聞けば、もっと詳しく分かるかもしれません」


颯はメモを取りながら呟いた。


ふと、私はあの日の感触を思い出していた。あの崖の上で、吹き上がった異様な風――


冷たくて、黒くて、足元に絡みついてきたあの風。


窓の外で、木々の葉が微かに音を立てて揺れていた。

それは、あの崖で感じた風と、同じ匂いがした。


まるで――

次の答えが、すでに動き始めているかのように。

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