風の巫女の不在
夏の光が残る放課後、私はふたたび郷土資料館を訪れた。
記憶と記録をたどるために。
私は自転車のペダルを踏みながら、待ち合わせの場所へと向かっていた。
*
町の中心にある郷土資料館。
「こっち」
資料室の奥から、御守颯が手を振った。
机の上には、新聞の縮刷版、複写された地図、年表のメモ――散らかったままの記録たちが、風の痕跡を待っているかのように置かれていた。
「結風ちゃん、来てくれてありがとう」
「ううん……私も、気になってたから」
二人は昨日と同じ席に腰を下ろす。
結風は、祖母・志乃の話を静かに語り始めた。
「おばあちゃんは昭和五十年に、隣町の佐伯剛のもとに嫁いだの。
ほんとは、次の風の巫女になるはずだったんだけど……ひいおじいさんが、半ば無理やりお見合いをまとめちゃって。
それで急きょ、代わりに千代さんが選ばれたらしいの」
「風の巫女に内定……」
颯の目がわずかに見開かれる。
「君のおばあさん、もしかして『風ノ宮』の家の出なのかい?」
「うん、そうだよ。なんでわかるの?」
「今、僕が調べてるのが――その『風ノ宮』についてなんだ。
昔から風の巫女は、代々『風ノ宮』の娘が務めていたって言われてる」
颯はしばらく黙ったまま、まっすぐにこちらを見た。
「なら……この問題を解く手がかりを、君が知っているのかもしれない」
その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥に、小さなざわめきが広がった。
それが何なのかは、まだわからない。
けれど確かに、
何かが、静かに動き始めている気がした。




