風が結ぶ縁
私の幼馴染で、風守神社の神主の息子――
御守颯。
久しぶりに会った彼は、記憶の中の『はやちゃん』よりも背が伸びて、大人びた空気をまとっていた。
それでも、目の奥に宿るまっすぐな光は変わっていない。
彼が調べているのは、ただの郷土史なんかじゃなかった。
まるで、自分の存在ごと何かに引き寄せられるように――颯は、言葉を選びながら話し始めた。
*
「十年おきにね、うちの神社の崖に関わる事故が起きてる。
全部、十代の女の子なんだ。いちばん古い記録が、千代さんの件だった」
「風守様に呼ばれた、とか生贄だったんじゃないか、って噂もある」
颯は一度言葉を切り、首を振った。
「でもさ。本来の風守様って、人を呪ったり、生贄を求めたりする神様じゃないはずなんだ。
僕は昔から、これは風守様の仕業じゃないって思ってる」
「不幸が起き始めたのは……その千代さんが最初なの?」
そう尋ねかけて、私ははっとした。
「ちょっと待って……千代さん、って」
颯が眉を上げる。
「何か知ってるの? 千代さんのこと」
「同じ人かは分からないけど……昨日、おばあちゃんが口走ってたの。
千代ちゃんが、崖から……落ちたって」
「……ちょっと待って」
颯はそう言って、鞄の中からノートを取り出した。
昭和五十年八月十日
坂嶋 千代
神社裏の崖下にて発見。
「これが、僕が調べた千代さんの転落事件の記録」
「昭和五十年……この時期、おばあちゃんの嫁入りの頃と重なるなら、
おばあちゃんが話してた千代ちゃんは、この人かもしれない」
颯は少し考え込み、それから顔を上げた。
「ゆうちゃんのおばあさんの話、もう少し詳しく聞かせてもらえないかな」
「うん。私もあまり分かってないから……今日、お母さんに聞いてみる」
「悪いけど頼むよ」
短いその一言に、颯の本気が滲んでいた。
ふたりの間に、言葉よりも重い静けさが落ちた。
夏の光の中、風守神社の名が、再び私の胸の奥でざわめきを立てていた。




