風ノ宮の血を引く者
風守町の坂の途中に佇む、古びた郷土資料館。
展示室の奥で、懐かしい顔――颯と再会した。
風の神社にまつわる因縁が、静かに動き始めていた。
*
風守町のちょうど中心部――ゆるやかな坂の中腹に、その建物はひときわ異彩を放ちながら佇んでいた。
和風の軒と洋風の造りが調和した、明治の空気を残す郷土資料館。
正面に立った瞬間、まるで時間が静かに巻き戻っていくような感覚が胸に広がった。
展示室を通り抜けて、資料室に足を踏み入れる。
その奥の読書スペースに、一人の青年が静かに座っていた。
「……ゆうちゃん?」
私は一瞬、固まった。
「えっ、誰……?」
「僕のこと、わかんないかな。はやてだよ、御守颯」
「……はやちゃん?! えっ、男の子だったの?!」
彼は、「ひでー!」と言ってケラケラと笑い出した。
「颯君、ここで何か調べてたの?」
「うん。風守神社の歴史とか、いろいろ」
「歴史って……?」
「うちの神社、古くからこの町にあるんだけどね。近代以降、妙な噂が絶えなくてさ。
負の連鎖っていうか……そう呼ばれてるだけかもしれないけど」
「負の連鎖?」
「十年の間隔でね、神社の崖に関わる事故が起きてる。全部、十代の女の子なんだ」
「……十年ごとに? 一度だけじゃなかったの?」
私が驚いて訊き返すと、颯は逆に問いかけてきた。
「もしかして、結風ちゃんもこのこと、調べてるの?」
私はうなずき、バッグの中からノートと一冊の本を取り出した。
『風守神社由縁』――この町の小さな神社にまつわる古い記録。
「ちょっと、不思議なことが続いてて……気になってるの」
開いたページの間に、薄く乾いた風が通り抜けた。
古びた紙の匂いとともに、遠い記憶の扉がまた一つ、音もなく開いていく。
「颯君が、風守神社のことを調べてるなんて、偶然だね」
「……偶然、かな?」
二人の視線が重なる。
机の上には、古びた一冊の本――『風守神社由縁』。
風のようにさりげなく、けれど確かに、何かが動き始めていた。
その始まりが、ここだったのかもしれない。




