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暗黒の信長と帰蝶 ~異次元の信長Take3~  作者: 松岡良佑
第2章

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28話 卑怯こそ正義! 卑劣こそ至高! 邪道こそ王道! 根性こそ3次元!

【桶狭間/今川群本陣】


「3次元の戦い方? ほう? 興味が無いと言えば噓になる。見せてもらおうか!」


 義元が吹き飛ばされた信長の下まで走る。

 瞬間移動とは言わないが、明らかに馬より速い超スピードだ。

 信長はその運動能力に驚きつつも、覚悟を決めた。


「よし! 言われずとも見せてやろう! が、その前にっ、と」


「な、何だ?」


 直ぐにでも歌術の詠唱が始まると思っていたら、義元は肩透かしを食らってしまった。

 せっかく格好よく構えたのが台無しだ。


「四聖の巫女は帰蝶を治療しつつ、政秀らを守れ。余裕があれば、倒れている者を起こせ!」


「は、はい」


「政秀、今一度、烈風(れっぷう)縮地脚(しゅくちきゃく)を! ワシの援護を頼む!」


 これは桶狭間のこの地に徒歩で来るために使った歌術だが、なぜ再度の使用を命じたのか?

 それは魂魄聖輪光(こんぱくせいりんこう)で、バフ、デバフが解除されているからだ。

 また信長も風の歌術を使えるが、指輪と風の白虎嵐魔刀の補助があっても2節が限界だ。

 2節と3節では天地の差がある、と言うより、節が増える毎に爆発的に威力や効果が上昇するのが歌術だ。


「は、はい!『吹きすさぶ 追い風纏い 烈風に』」


「よし!『吹きすさぶ 追い風纏い 烈風に』」


 ここまでは信長と政秀が同時に詠んだ。

 指輪、白虎嵐魔刀、政秀の援護で3節までは出来た。

 違ったのは4節目から信長単独で唱え始めた事だ。

 帰蝶より歌術が下手な信長は、他人の援護を借りて歌術を完成させる荒技が使える。

 天界で発見した、5節完全詠唱歌術の行使法だ。

 ただし――


「『身に纏いしは 鎌鼬也 烈風(れっぷう)縮地脚(しゅくちきゃく)! 風飄(ふうひょう)神ペルホネン!!』グァァァッ!! グググッ!」


 信長の左指全てが、根元から弾け飛んだ。

 帰蝶と同じ様に、あるいは歌術の下手さ故に、帰蝶より自爆ダメージが大きい。

 指の付け根からの大量出血を『火燎(かりょう)神ケレベック!!』と情けない基礎術で焼き潰し出血を止める。

 情けない基礎術で功を奏した。

 これが勝家クラスだったら腕ごと吹き飛ばしただろう。


「はぁッ! はぁッ! ま、待たせたな……!」


 戦う前から大ダメージを負ってしまった信長だが、前回の歴史で、人間形態の義元が、目にも止まらぬ速さで、死んだふりをした織田家を殺戮しつくした。

 ならばそれと互角に戦うには、稲妻の如くスピードで動ける烈風(れっぷう)縮地脚(しゅくちきゃく)の5節完全詠唱しかない。


「成程? 凄まじい根性よな? 素早さの不利を補う5節のバフか。どうせなら体の強度も上げたらどうだ?」


 義元は腕組みで余裕の佇まいだ。

 なぜ、この瞬間に襲わないのかは5節の歌術だからではない。

 ウェアウルフなら、無理すれば割って入って妨害はできるが武士道故に見逃している。

 後は、また無茶な5節で自爆してくれるなら、それに越したことはない。


「いや、必要なのは次の歌術! 帰蝶!」


「はい! もうヤケよ! 吉乃ちゃん!『大地よ 真なる姿 見せ給う!』」


「は、はい! 『大地よ 真なる姿 見せ給う!』」


 帰蝶と吉乃の周囲に緑の閃光が渦となり巻き上がる。

 左目の出血が、巻き上げられ色が混ざって、黄色から茶色、そして対応神色の緑に輝く。

 ところで帰蝶は魂魄聖輪光(こんぱくせいりんこう)は1人で唱えたのに、何故この歌術は2人で唱えるのか?


 答えは簡単。


 帰蝶は指輪と魔刀があれば、万全の状態なら単独で5節完全詠唱が出来る。

 だが、身体の損傷は、どんなに援護があっても防げないから魂魄聖輪光(こんぱくせいりんこう)は1人でやったのだ。

 そして、精神力を消耗した今、土壅神の巫女、吉乃の力を借りている。


「ッ!? その歌術は挿絵(By みてみん)帰蝶伝説の!? 全員道連れにするつもりか!?」


 帰蝶のあの発光と神気が、3節で終わるはずがないと、義元は当然理解している。

 これは8次元の帰蝶が、犬山城を吹き飛ばし灰燼と帰した必殺歌術。


「『怒り狂いて その威を示せ! 地脈爆火山(ちみゃくばっかざん)! 土壅(どよう)神ボルボレッタ!!』 オラアッ!! ウギギィィッ!」


 腰から抜いた地の加護を得ている魔刀、玄武堅魔刀を地に突き刺し、指輪の助力も得るが、また帰蝶の左目から血が濁流の如く溢れ、今度は掲げた右手の爪が全部剥がれ、右手の指、第一関節が全て爆ぜた。


 それと同時に義元と信長のいる場所が隆起し、小さな火口を作る。

 2人はその火口を挟んで相対した。


 一方、帰蝶の掲げた右手から血が激しく飛び散り、神経が集まる指先故に、目が潰れた時より痛い。

 信長と帰蝶はノーリスクの基礎術と1節、2節はカスの如き威力で扱え、3~4節はコントロール不能。(だれかの助力があればコントロール可能)

 しかし何故か5節完全詠唱歌術は、体の損傷と引き換えに成功させることができる。

 天界で発見した5節完全詠唱の行使方法だ。


 1回目は5節唱えたら死んでしまったが、今回の2回目は5節完全詠唱歌術を唱え、左目と右手の指だけで済んでいるのだから、100年追加された地獄のシゴキは無駄ではなかったのだ。

 ただ、なぜ体を犠牲にしたら5節が成功するのかは、神々にも分からない不思議な現象であるのは余談である。


「クソッ!! ……ッ!! 皆起きよ!! 退避……!? ん? なぜ噴火しない!?」


 義元がこれには面食らって、噴火を警戒し、気絶している諸将に避難を促すが、様子がおかしい事に気が付いた。

 大爆発が無いのだ。


「術者が気絶したからな。意思がなければ噴火はしない……ハズだ。まぁ意識があってもさせるつもりは最初から無かったがな。これは闘技場と思ってもらいたい」


 信長と義元の足元には、小さな火山口と煮えたぎる溶岩が出来たが、噴火する様子がない。

 その隆起した小山の麓では帰蝶が倒れて、四聖の巫女が必死に治療の歌術を唱えている。

 織田と今川の気絶した家臣も、とりあえず麓で転がっている。


「このワシに術は効かぬと知ってココで戦うのか? ワシは別に構わんが、正直有利すぎて困惑しておるぞ?」


「有利? そうかもしれぬが、とにかく準備はできた。では名乗ろうか……ッ!」


 脂汗まみれの信長が果敢に動く。


「フッ。奇襲を仕掛けておいて今更名乗るのか?」


 義元は動揺を見せまいと深呼吸をして心を静める。

 この火山の光景には何かトラウマがあるのか、それとも伝説の挿絵(By みてみん)帰蝶に何かされたのかは分からないが、心臓の鼓動が激しく脈打ち、ウェアウルフとなった肉体でも目に見えるほど、胸が動いていた。


「まぁ良かろう。それをするかの見極めの為に待っていたのだからな。地脈爆火山(ちみゃくばっかざん)は想定外だったが」


 義元は火口を覗きながら言った。

 情けない基礎術を見せた後の出来事だ。

 それなのに、こんな5節完全詠唱歌術を2人で魂魄聖輪光(こんぱくせいりんこう)、烈風(れっぷう)縮地脚(しゅくちきゃく)、地脈爆火山(ちみゃくばっかざん)と、合計3回も成功させるなど、存在がバグっているとしか思えないメチャクチャ加減だ。


「ワシは……この場合は……名乗り……あー……3次元から馳せ参じた……何だ? あっ! 尾張織田家の次元違いの同一人物! 織田家を救う為に……ここで貴殿を討つ!」


 信長は両腰に佩いた四本の内の一刀を抜いて、残った右手で構えた。

 最初に嚙み砕かれたのは、3次元と同じ普通の刀。

 しかし残りの3本は神の加護を受けた刀。

 先の帰蝶が使った玄武堅魔刀と同じ性質の刀。

 火を象徴する火燎(かりょう)神ケレベックの使い魔、朱雀の加護を宿した朱雀炎魔刀。

 水属性の義元に対抗し勝つ可能性を少しでも上げる為に、信秀から授けられた、8次元の信長と帰蝶の遺品の刀であり、歌術をサポートする魔刀だ。


 なお、信長の名乗りが異常にたどたどしいのは、こんな名乗りをした事も記憶も無いのと恥ずかしさからだ。

 源平時代じゃあるまいし、時代遅れも甚だしいが、8次元ではこれが常識だと教えられた。 

 だから仕方なく郷に従っているが、やはり恥ずかしさが上回る。

 左腕の痛みよりも。


「ワシは海道一の弓取りにして、嘗(かつ)ての信長12神将が一人、今川義元! さぁかかってくるがいい! 次元違いの――」


 義元が名乗り口上の途中で目線を切った。

 やはり火口が気になるのだろう――その瞬間だった。

 信長は烈風(れっぷう)縮地脚(しゅくちきゃく)を活かし、雷光のスピードで火口を飛び越え突撃し、朱雀炎魔刀を義元の口を目掛けて突っ込んだ。

 皮膚が毛で刃を受け付けぬなら、内部を狙うのは鉄板の作戦だ。

 5節の烈風(れっぷう)縮地脚(しゅくちきゃく)がその戦法を可能にした――


「――悪魔よ。そんな攻撃を想定していないと思うのか? 魂魄聖輪光(こんぱくせいりんこう)で不意打ちをしておいて何も警戒してないと思うのか? それで外面が通らないなら内部から? そんな使い古された戦法が通ると思うてか!」


 もう擦り倒された戦法故に、3次元では通用しても8次元では通用しない。


「外面の皮膚は毛で刃物を防ぐが、内部は魔力で防ぐのだ! カァッ!!」


 義元のウォークライで信長は火口に叩き落された。


「まだウェアウルフの力をウォークライしか使っておらぬぞ? こうもあっさり火口に落とされるのではな。期待外れも甚だしい……!?」


「勝手に勝利の余韻に浸るでないわ!!」


 喉の柔らかな部分に信長の蹴りがめり込む。


「グハッ!?」


 信長が火口から飛び出し、義元の喉に飛び蹴りを食らわした。

 5節の烈風(れっぷう)縮地脚(しゅくちきゃく)が乗った、あくまで体術であり歌術とは違う。

 火口の壁を蹴って蹴って蹴りあがり、亜光速の強烈な蹴り。

 義元は想定を上回る蹴りの破壊力に、たたらを踏んだ。

 亜光速の蹴りを、たたらを踏むだけで済ませるのも十分凄すぎるが。


 ともかく、切れぬ、突けぬ、術無効なら、打撃がある。

 獣であろうと、人であろうと、生物である以上、弱点は似通ってくる。

 ましてや人に近い狼たるウェアウルフ。

 衝撃無効ならどうしようもないが、今のケリでその不安は払拭された。


「ワシもその程度で倒せるとは思っておらぬわ! 死んでくれれば幸運だと思っただけ! 3次元でも大英雄だったあの今川義元が、次元違いとは言えこの程度でくたばるハズがないわ!」


 信長が褒めているのか、抗議をしているのか分からない口答えをする。


「ゲホッ! ……グッ! 今のは驚いたぞ。成程。それが3次元の戦い方か」


 呪詛と宗教が絶対の世界からやってきた信長と帰蝶だが、敵を倒すのには物理攻撃か、干殺しか、焼くか流すかだ。

 全て物理的作用だ。

 8次元の者はどうも歌術に頼り過ぎる傾向があり、武芸は後回しにされがちだ。

 ただ、歌術の威力をみれば、そうなるも止むを得ない話。

 だから3次元の信長が、再度の不意打ちを成功させたのだ――

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【読む方法】

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作画担当先生は、八坂たかのり(八坂考訓)大先生だ!(旧Twitter @Takanori_Yasaka)

八坂先生の作品一覧→https://x.gd/Gj9zO

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挿絵(By みてみん)

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